その先を知りたくて

新ゲ隼竜

隼⇄竜、つきあってません。
隼人が竜馬の髪を乾かしてあげるお話、『触れてみたくて』の続き。

毎晩髪を乾かしてもらいに訪ねてくる竜馬と、だんだん思いを抑えきれなくなっていく隼人のお話。
初キス、告白まで。ハピエン。隼人寄り視点。約7,000文字。

◆◆◆

 ドライヤーの音が消える。
「お? もう終わったの——ぅひゃっ」
 竜馬の声と肩が跳ね上がった。
「っ、って、てめえ……っ」
 振り向いた顔は明らかに焦っていた。隼人は一呼吸してから静かに「すまん」と答える。
「目測を誤った」
 落ち着いた様子に気を削がれ、竜馬は「何しやがる!」と続くはずだった文句を呑み込む。それどころか、
「お、おう、そんならしゃあねえ、な」
 と、モジモジして歯切れの悪い科白を返した。
「……ふざけてンのかと思ったからよ」
 ぎこちない動きで左の首筋を撫でる——たった今、隼人の指先が滑り落ちていった場所を。
 ふざけてなければ触ってもいいのか。口を衝いて出そうになり、隼人は先刻の竜馬同様、言葉を呑み込む。
 ふたりが「らしくない」遠慮をした結果、妙なと緊張が室内に広がった。
「え、と」
 竜馬が目を伏せる。
「……続き、頼むわ」
 浮きかけた腰を落とす。真正面を向き、姿勢を正す。隼人は「ああ」とだけ返し、まだ濡れている黒髪を指ですくった。
 無言になったふたりを取りなすように、ドライヤーが再び喚き出した。

   †   †   †

「おらよ、約束のモン」
 部屋に入るなり竜馬が右手を掲げる。隼人は作業の手を止めて振り向き、そのまま固まった。
「ン?」
 竜馬が不思議そうに首を傾げる。
「こっちじゃねえほうがよかったか」
 眼前のラベルを見、隼人をうかがう。手にしていたビールは売店にいつも並んでいる銘柄のひとつだった。
「飲み会んとき、おめえだいたいコレだろ」
「……ああ、それでいい」
「おう。つかよ、ビールのことじゃねえなら、何でそんなツラしてンだよ」
 笑いながら竜馬が近づく。隼人の目が泳いだ。
「そんな面」と言われても、わからない。自分は少し驚いただけだ——本当に竜馬がやって来るとは思わずにいたから。
 惑う。いつもと違う雰囲気に、竜馬が足を止めた。
「あー……」
 すっと右手が下ろされる。
「もしかして、本気にしてなかった、とか」
「いや——」
 声が曇った気がして、咄嗟に否定する。だが続けようとして迷う。
 会話の流れで約束の形を取ったものの、あれは思いつきの戯言だと区分した。現実になればいい、と本気で思ったけれども、竜馬の気まぐれを当てにして落胆する事態にでもなったら情けなさ過ぎる。だから期待せずにいた。
 しかし素直に言うのも憚られた。気持ちを悟られたくなくて逡巡している間に、竜馬の表情が消えた。
「ま、邪魔なら帰るわ」
 抑揚のない声だった。さっと身体が反転する。普段なら「あンだよ、けち」「少しぐれえいいだろ」と口を尖らせ、あるいは軽く笑って粘るところだ。なのに、やけにあっさりとしている。心待ちにしていた玩具に一瞬で興味をなくして「もういい」と放り投げる子供のようだった。
 きっと、次はない。
 隼人は直感する。次の瞬間には勢いよく椅子から立ち上がっていた。物音に竜馬の足が止まる。
「邪魔じゃない」
 考えるより先に口走る。一歩前に身体が動いた。
 竜馬がゆっくりと振り向く。何も言わず、隼人を見る。感情が読めない。内側から焦りが湧いて、急かされる。隼人は溢れるままにもう一度、告げた。
「邪魔じゃない」
 もう一歩近づく。竜馬はただじっと、平坦な眼差しで隼人を見つめていた。
「——」
 緊張しているのか、口元が強張る。ぐっと力を入れて、隼人は続けた。
「どうしても手が離せないときは待ってもらうが、邪魔じゃない」
 本心だと伝わって欲しくて、言葉を重ねる。
「だから」
 毎晩来たって構わない。
 喉から出かかるが、さすがに言い過ぎじゃないかとブレーキがかかる。口をつぐむが今度は身の置き所がわからず、ついには視線を外した。
「…………そういう、ことだ」
 急いで探し当てた、隼人にしてみれば曖昧で間抜けな言葉で締めた。
 部屋が静まり返る。
 耳を澄ます。だが返事の代わりに、いつもはまったく気にならない壁掛け時計の音が聞こえてきた。
 コチコチと秒針が鳴る。やたらと耳につく。意識から追い出そうと唾を飲む。けれども収まらない。むしろもっと響く。音も何だか奇妙で——うるさいのは自分の心臓だと気づく。
「…………なあ、隼人」
 まだ平坦で感情の乗らない声が聞こえた。
 靴音がひとつ、近づく。隼人の鼓動が大きくなる。もうひとつ靴音が鳴って、心音もさらに大きく。
「隼人」
 そんな状況でも、竜馬の声はまっすぐに届いた。
「こっち見ろよ」
 淡々としているのに、視線が誘われた。
 まともに目が合う。ふざけているわけでもなく、喧嘩腰でもない。鳶色の瞳が静かに佇む。濡れた髪と相まって、いつもの雰囲気とはまったく異なって見えた。
「それって、毎晩来ても構わねえってことか」
「——」
 息を呑んだ隙に心の奥に入り込まれる。表情を崩すまいと力んだ拍子に、頬がひきつり、唇が不自然に歪んだ。
 竜馬がまた、近づく。
 本来なら「構わない」と答えるべきなのだろう。身構える必要はない。さりげなく言えばいいだけだ。それなのに、ひどくもったいぶった告白のように思えて素直に言えなかった。
 代わりに、小さく頷く。竜馬の目が丸くなる。やがて、口元がほころぶ。それから目元と頬が。
 生まれて初めて人の笑顔を見たように、隼人は目を奪われる。一瞬、何も考えられなくなり、そのあとで竜馬に触れたい衝動が急速に湧き上がってきた。突然の欲に動揺し、慌てて目を逸らす。
 気づかれたくない。けれども、笑顔があざやかに焼きついてしまった。自分にだけ向けられた表情なのだと思うと胸が落ち着かない。
 竜馬がクスッと笑う。
「……また、その面」
 騒がしい鼓動の音を縫って、そんな声が届いた。

 以来、竜馬は本当に毎夜訪ねてくるようになった。だいたい八時半から九時までの間。首にタオルをかけて、当然、濡れ髪で。
 髪を乾かしてもらったあとは、一時間ほど気の向くまま隼人のベッドでゴロゴロしたり、ストレッチをする。たまにうたた寝をしてみたり、隼人の作業を覗き見しては「どこが面白えのか全っ然わかンねえ」とPCモニタを睨みつけることもあった。
 もうひとつの約束も守られていた。毎夜、冷蔵庫に缶ビールが一本ずつ増えていく。
「これ、前払いな」
 そう言いながら六缶パックを持ってきた日もある。しかし律儀さに隼人が感心したのも束の間、途中から一向に増えなくなった。むしろ、減り出すときもあった。
「だって、おめえ全然飲んでねえじゃん」
 犯人・・は、プルトップを開けながら事もなげに答えた。
「このままじゃ冷蔵庫がパンクしちまうだろ。親切心だ、親切心」
 ニヤリと笑い、冷えたビールを飲むのだった。

   †   †   †

 今夜も、冷蔵庫の在庫は一本増え、一本減っていた。だが隼人にとって大事なのはビールではなく——。

 もうすぐ、完全に乾きそうだった。温風に後ろ髪がなびく。ちらちらと首筋が見え隠れしていた。隼人の目は釘付けになったまま。
 抑えられなかった。
 毎晩来てもいいと頷いたときに見せた笑顔が忘れられなかった。嬉しそうで、どこか照れくさそうな表情だった。
 あれから二週間。飽きもせず竜馬は通ってくる。夕方に鬼獣との戦闘があった際は普段よりも早い時間にシャワーを浴びた。それでも「いいだろ」と押しかけてきたし、「自分でもやってみたけどよ、すっげえクセついてうまくできなかった」とわざわざもう一度髪の毛を濡らしてまでやってきた夜もあった。
 嫌なら来ない。絶対に。
 なら、来る理由は?
 ずっと考え続けていた。もともと、暇つぶしに訪ねてくることはあった。それでも毎日ではなかったし、礼と引き換えにするような約束はしたことがなかった。
 それが変わった。
 いくらドライヤーが気に入ったとしても、髪に触れられるのが心地よかったとしても、今までの習慣を変えるほどだったとは考えにくい。惰性とも違う。
 やはり、同じところに辿り着く。
 隼人が相手だったから・・・・・・・・・・
 そうとしか思えなかった。勘違いだと何度も言い聞かせた。しかし毎晩過ごすうちに確信を深めるようになった。
 ドライヤーを止める。
 左手で後頭部の髪を掬い、根元まで乾いているかチェックする。地肌に触れると、竜馬の身体が微かに強張ったのが伝わってきた。
 髪に触れているときだけ、不自然におとなしくなる。かといって寝ているわけでもない。うとうととしていたのは最初の夜だけで、それからはずっと隼人の指先を気にしているようだった。髪をくと微妙に抵抗があるから緊張しているとわかる。竜馬らしい軽口もない。正面からの表情こそ見えなかったが、竜馬の態度は明らかに隼人を意識していた。
 だから思わず、触れてしまった。指先にはまだ熱がくすぶっていた。
 変わったのは自分もだ、と隼人は思う。竜馬が来る時間帯に合わせ、手のかかるデータ抽出は先に済ませるようになった。八時を過ぎると、時計を確認する回数が増える。そこから三十分もすれば、扉にばかり気が向いてPCモニタの画面はほとんど見えていなかった。
「……そういえば、まだだったな」
「へ?」
 竜馬が振り向く。温かい風を浴びたせいか、ほんのりと頬が上気していた。
「お前の褒め言葉をずっと待っているのだが」
 きょとんとした顔つきのあとで、「褒め言葉だぁ?」といつもの調子がよみがえる。
「ンで俺が——あ」
「思い出したか」
「……ああ」
 ばつが悪そうに眉がしかめられた。
『あとでちゃんと褒めてやっからよ』
 そう言っておいて、具体的な言葉は何ひとつなかった。
「そろそろ聞きたいものだな」
「——ん、ええと」
 竜馬の瞳が揺れる。
「まあ……髪の毛触られンの、意外と好きかも……みてえな」
「それは、俺を褒めているとは言えない」
「ン、じゃあ……、髪を乾かすのがうめえ」
「それだけか? というか、『じゃあ』とは何だ」
「褒めたろ」
「ほかにないのか」
 隼人はまだ温かみを含んでいる髪の毛を一筋、掬う。指に竜馬の緊張が伝わってきた。
「……あー、うん」
 唇がキュッと結ばれる。隼人は滑らかな黒髪の滑りを指先で楽しんで、はらりと零す。そうしてまた、一筋を掬った。
 竜馬がちらりと視線を上げる。隼人の眼差しを見て、言わなければ解放してくれそうにないと悟ったのか、少しだけむすりとした表情になる。
「言い出したのはお前のほうだぞ」
 髪を人差し指に巻きつける。つやつやとした黒髪は隼人の肌をくすぐり、すぐにさらりとほどけていった。
 もう一度、髪の毛を掬ったときだった。不機嫌そうな口元が開く。
「…………おめえに髪いじられンの……好きかもって」
 いつもはよく通るのに、今は隼人の耳にやっと届くかのような声だった。
「つーか、隼人の手——」
 睫毛が伏せられる。「気持ちよくて」と聞こえた気がして、一言も逃したくなくて隼人が屈む。近づいた顔に、竜馬が反射的に身を引いた。
「……っ、ま、まあ、何つーか、そんな感じで」
 ぷいと真正面を向いてしまう。もう表情はわからない。けれども声はうわずっているし、耳の縁が赤くなっていくのが目に入った。
「——」
 胸の中から熱い塊が全身に広がっていく。指先がジリ、と燃える。
 また、触れたくてたまらなくなる。
 さっきまではわずかの緊張と、それでも穏やかな空気が流れていた。今は世界が張り詰めて、弾ける瞬間を待っているかのような気配がした。
 息をひそめる。そろりと左手を伸ばす。
 始まってしまえば、歯止めが効かなくなる。
 艶やかな髪の感触を覚えた。竜馬が心地いいと感じる髪の触れ方も理解した。
 それから、指先に当たる竜馬の体温も。
 だから、その先を知りたくなる。
 竜馬、と呼ぼうとした刹那、微かに震える声が聞こえた。
「俺、隼人に触られンの、…………好き……かも」
 言葉が消えていくと同時に、目の前の首筋に赤みが差していく。

 抑えられるはずがなかった。

「——え」
 小さな驚きがあがる。隼人はそれすらも逃すまいと、もっと強く抱きすくめた。
「え、は、隼人? な、なん——え」
「竜馬」
「……っう、わ」
 首筋に息がかかり、竜馬が身を縮めた。
「……竜、馬」
「——ッ⁉︎」
 そのまま首に口づける。唇から竜馬の体温が一気に流れ込んでくる。それでも足りなくて、隼人は唇を強く押しつけた。
「ン、あっ」
 椅子から離れようとする身体を後ろから引きとめる。熱を貪るように、隼人のキスが首筋を覆っていく。
「ん、ん……っ、あっ」
 腕の中で竜馬が身じろぐ。そのたびに洗い髪の香りと、体温で溶けた竜馬の匂いが鼻腔に流れてきた。唇からは震えと鼓動が伝わってくる。ゼロ距離で感じる竜馬の存在は想像以上だった。息を吸い込む。なのに、窒息しそうになる。
「竜……馬……」
 脳が溺れる。
「竜馬」
 吐息が零れる。
「りょうま」
「んひっ」
 耳元でささやく。
「こっちを向いてくれ。……竜馬」
「……っ」
 強張った身体を促す。ぎこちなく、けれども抵抗することなく、腕の中でゆっくりと竜馬がこちらを向く。
 隼人の鼻先が赤く色づいた頬をかすめる。唇同士が触れるのに一秒もかからない間合いだった。
「…………竜馬」
 息が唇にかかる。竜馬が怖気づいたように動きを止めた。その目を覗き込む。
「あ……」
 か細い声が竜馬の喉の奥から発せられる。瞳はどこか頼りなげに、不安そうに揺れている。
 生命を張る場面でも平然と笑う男だ。それが、動揺している。首筋を撫でたときと同じに——いや、もっと心内こころうちを露わにして。
 隼人が触れたから・・・・・・・・
「……っ」
 鼓動が一際大きくなる。
 自分の手が竜馬をこんなふうにした。その事実に身体の芯が疼いた。歓びとも畏怖ともつかない感情が湧き上がってくる。
「……りょう……ま」
 熱が全身を駆け巡る。熱くて、渇く。それなのに、まだ足りない。
 右手を竜馬の頬に伸ばす。熱が指先を灼く。瞬間、ぎゅっと竜馬の目蓋が閉じられた。息まで止まったのがわかる。がちがちに身を固くして、次の展開を待っている。
 引き寄せられるように、指先が唇に触れた。竜馬の身体がぴくりと反応する。頬よりも柔らかくて熱い。その膨らみをゆっくりと撫でる。繰り返すと、蕾がそっと開いていくようにほころび始めた。
 は、と息が零れ、隼人の指にかかる。竜馬の内側から溢れてきた熱だった。もっと感じたくて、隼人は半開きになったそこに自分の唇を重ねた。
「……っ、ン!」
 竜馬の手が隼人の胸元を押す。だが撥ね退けるほど強くない。もしそれが拒否であったとしても、止まれるはずがなかった。
 両の手で頬を包み込み、指先でくすぐる。耳をなぞり、その裏側をさする。髪の生え際をゆるく撫で——黒髪の中に指を滑り込ませた。
「ンっ⁉︎」
 同時に舌先を口腔内に差し入れる。強張りが伝わってきたが、構わずキスを深くする。熱と熱が混じり合い、広がる。粘膜が溶けて、ひとつになっていく気がした。
「ンッ、……んンッ」
 胸元を押してくる力が消える。次第に手が丸まっていき、隼人のTシャツを掴む。無意識なのか、く、と引っ張ってくる。必死にしがみついているようで、隼人の胸には興奮とも異なる熱さが生まれた。どんな顔をしているのか見たくなる。
「…………りょう……ま……」
 唇が離れる。竜馬が震えて、息を吸い込んだ。
「あ……っ、は、ぁ……っ、あ……」
 そろそろと睫毛が持ち上がる。下から鳶色の瞳が覗いた。まだ困惑が浮いている。だがその奥に。
「…………はやと」
 自分に向けられたまっすぐな思いを見つける。
「竜——」
 眼差しだけで十分だった。急に胸がつかえたようになり、隼人は何も言えなくなる。
「……隼人?」
 言葉も動きも止まってしまった男を、竜馬は不思議そうに見上げた。その目が大きくなる。
「——やっぱ、そういうことか」
 ふ、と表情がゆるむ。
 まだ肌は赤い。隼人に翻弄された感情の波は残っているものの、普段の自信に満ちた表情が現れる。
 逆に隼人は戸惑う。いったい、竜馬は何を言っているのか。何を見て——。
 ハッとする。
「おめえ、嬉しいとそんな面になるンだな」
 竜馬の指先が隼人の唇に触れた。肌の熱さがすぐに染みてくる。隼人はまだ動けない。
「残念そう……っつーか、嫌そうな面しやがって。ややこしいンだよ」
 むに、と唇を押し、親指と人差し指でつまむ。
「けどまあこれで、おめえのことがひとつわかったぜ」
 竜馬が笑った。嬉しそうに、少し照れくさそうに。
「——」
 隼人はようやく、己を知る。思うよりずっと強く、深く、竜馬に惹かれている。胸の中を満たしたものは、愛おしさと呼べる感情だったのかもしれない。
 こんなことは初めてだった。
「……隼人」
 竜馬が唇を撫でる。くすぐったさが生まれて、全身に伝わっていく。頭の中にまで入り込んで、奥底を淡くなぞる。
「…………はやと」
 見上げてくる瞳に、惑いはもう見えなかった。代わりに、熱が浮いている。陽炎のように揺らめく。
「はやと、好きだ。……だから」
 竜馬の手が隼人の手に重ねられた。
 ふたりの吐息が交わる。
 唇の柔らかさもキスの味も知った。首筋も頬も指も熱くて、隼人を昂らせる。今ですらそうなのだから、これから触れる場所はどれほど熱いのか。想像もできない。
 竜馬の視線が誘う。待っている。
 また、隼人の胸に込み上げてくるものがあった。このままでは何も言えなくなってしまう。
「竜馬」
 だからその前に。

「……好きだ」

 心に仕舞っていた一言を、やっと告げた。