Love Bite

新ゲ隼竜

つきあってます。
ある下心から、人の指を甘噛みする猫型ロボットを隼人に渡す竜馬。不審に思いながらも、試してみると意外に心地よく、甘噛みロボットを気に入る隼人。想像以上に甘噛みロボットを構い、自分を放っておく隼人に徐々に苛立ち始め、ついに「そんなに嚙まれたいなら、俺が噛んでやる」と言っちゃうジェラシー竜馬のお話です。隼人寄り視点。約3,700文字。pixivには後日あげます。
・軽くですが竜馬が隼人に指フェラをして甘噛みするシーンがあります。
・甘噛みする動物型のロボットが実際にありまして、そこから想起したお話です。
・タイトルの『Love Bite』は甘噛みの意味です。「愛のひと噛み」ってところかな。

◆◆◆

 ほい、と差し出された猫を見て、隼人の眉間にしわが寄った。
「何だ、これは」
 子猫——正確にはロボットの——を睨み、視線を上げて竜馬を睨む。竜馬は刺すような視線を物ともせず、
「これよ、甘噛みするロボットなんだってよ」
 と、続けた。
「おめえ、いっつもンなツラしてっからよ。辛気臭くてしょうがねえ」
「人の顔にケチをつけるとは、お前もずいぶんと偉くなったものだな」
「うるせえな。おめえがもうちっと愛想がよければ——俺ぐれえ、とまでは言わねえけどよ、そんなんじゃ見てるこっちまで眉間にシワ寄っちまうだろ。これでも置いて、ちったあマトモな面でもしやがれってンだ」
 倍どころか隼人の三倍も喋り、猫を胸に押しつけてきた。
「……」
 ぐい、とさらに押しつけられ、隼人は仕方なく小さなロボット猫を受け取った。

 

「……甘噛みするロボット、だと?」
 どこから手に入れてきたのか。何の目的で持ってきたのか。竜馬の言葉をいいほうに解釈すれば、「いつも険しい顔つきなので、このロボット猫で少しは癒されてみたらどうだ」というところか。
「……」
 魂胆がないはずがない。
 隼人は猫を裏返し、足の裏を見る。メーカー名や製品シールなどはなく、型番と思しき英数字が記載されているだけだった。腹部にはポケットがあり、電池ケースが入っていた。そこにも何の表記もない。あとは電源ボタンとモード切り替えのボタンのみで、タグもなかった。
 早乙女研究所ここで造ったものか、あるいはロボット工学畑の研究者、もしくは企業が試作したものか。いずれにしろ、市販品ではないようだった。
 念入りに調べる。盗聴器や小型カメラは仕込まれていない。そこまで確認して、軽く溜息をついた。
「まったく」
 何だというのか。
 甘噛み、とは。
 竜馬の意図は何であれ、多少の興味はそそられる。電源ボタンを入れる。モードを自動に合わせ、猫をデスクに座らせる。口が半開きになっている。そこに右手の人差し指を差し込んでみた——と、隼人の双眸が見開かれた。
 確かに甘噛みだった。指先をカシカシと噛んでいる。強い締めつけではない。軽く、柔く、わずかに点の刺激を感じる。本当に子猫が生えたての歯で甘噛みをしているかのような感触だった。
 指を引く。甘噛みは止む。再び差し込むと、猫はまたしても甘噛みを始めた。今度はもにゅもにゅとした感触だった。ぎりぎり歯が生えていない状態での甘噛みのようだった。
「……なるほど」
 いくつかパターンがプログラムされているようで、動きの再現性は高かった。首振りやおしゃべりなど簡単な反応を示すペットロボットはあったが、こういったものは珍しい。やはりどこかの企業のプロトタイプなのかもしれない。これなら邪魔にならない。餌も散歩も不要。きっと需要はあるだろう。
 猫は嫌いではない。すり寄ってきたならば撫でてやることもある。ただ、進んで愛玩しようと思ったことはなかった。けれども、指先のこのくすぐったさはなかなかに心地いいものだった。
 隼人はもう一度指を抜き差しして、子猫の甘噛みを楽しんだ。

   †   †   †

 隼人はいつも通りの根を詰めた表情——ではなく、余裕のある面持ちでパソコンのモニタを見ている。反対に、竜馬は明らかに不貞腐れていた。
 子猫ロボットを渡した夜、竜馬が隼人の部屋を訪ねると、さっそく甘噛みさせている光景に出くわした。
「お、どうよ」
 と、軽い笑顔で近づくと、
「ああ、悪くない」
 と、返ってきた。
「——」
 竜馬の動きが止まる。
 隼人の雰囲気が違った。普段より、丸みを帯びている。隼人にしては「穏やかな」「リラックスした」空気だった。極端に珍しい、というわけではない。しかしデータと顔を突き合わせている隼人は大抵ある種の緊張をまとっていたし、思考の海に浸かっている分、無愛想だった。それがない。
 竜馬はデスクの上で隼人の指を甘噛みしている猫を見つめた。
 二日目、三日目も同じだった。竜馬が部屋を訪ねると、隼人は相変わらずパソコンに向かっていた。見慣れた背中。けれども隼人特有の尖った空気感はなかった。
 そして四日目の今日。
 隼人の部屋に来て一時間待ったが、空気は変わらない。作業が終わる気配もない。竜馬は寝そべっていたベッドからのそりと抜け出した。
「帰るのか」
 モニタから目を離さずに隼人が訊く。
 三日続けて同じ動作のあとで「帰るわ」とだけ言い残して出ていった恋人に対して、何とも情緒のない問いだった。
 竜馬は答えず、足先を扉へではなく隼人のデスクへと向ける。
「……ずいぶんとその猫チャン、お気に入りじゃねえか」
 投げるように言う。視線は隼人の腿の上に乗った子猫ロボットに注がれていた。
「そう見えるか」
 隼人の目はまだモニタから離れない。右手でキーボードを叩き、左手で猫の胸元を抱えている。その人差し指は子猫の柔い口の中に差し込まれていた。
「ああ、見える」
 竜馬の唇が少し尖る。隼人は猫の口から指を抜く。
「本当に甘噛みされているようで、なかなか面白い」
 また指を咥えさせる。
「それに、お前が俺にくれたものだからな」
 言いながら、親指で猫の顔を撫でた。
「……へえ」
「何だ」
「俺のことよりも、大事にしてンじゃねえの」
「そうか?」
「だってそうだろ。この俺がせっかく遊びに来てやってンのに、ずっとパソコンいじりながら猫ばっか構いやがって」
 口調にもとげが滲む。隼人はようやく竜馬を見る。
「嫉妬か」
 うっすらと笑う隼人の口元を見て、竜馬の唇がますます尖った。
「違えし」
これを渡してきたのはお前のほうだろう」
「そりゃまあ——そうだけどよ」
「猫を押しつけておいて、今さら『猫より俺を構えよ』——とは言えないか」
 クッと笑う。竜馬は口をひん曲げて、あからさまに不機嫌を押し出した。
「うるせえ」
 猫を剥ぎ取ってデスクの端に追いやる。隼人の肩を掴んで押す。椅子のキャスターがキュッと鳴って、デスクとの間に空間ができた。竜馬はそこに割り込み——猫の代わりに隼人の膝の上にまたがった。
「そんなに噛まれンのがよかったら、俺が噛んでやるよ」
 隼人の首元に抱きつく。
「おら、指出せよ」
「お前の場合、甘噛みじゃなくて本気噛みだろ」
「噛まれンの、まんざらでもねえクセに」
 顔を近づけ、挑発する。
「てめえを噛んでいいのは、俺だけだ」
 まるで子供のような嫉妬心と独占欲だった。けれども、だからこその純粋な吐露だった。
 隼人は右手を伸ばし、指の先で竜馬の唇をなぞる。
「……ン」
 竜馬はくすぐったさに小さく息を漏らし、それから指先にキスをした。
 隼人の人差し指が竜馬の唇の中にゆっくりと差し込まれていく。竜馬は口を開き、受け入れる。
「ん……、ン、は、あ……」
 竜馬は侵入してきた指を舐め、軽く噛み、吸う。ちゅく、と水音が零れた。
「……あの猫、本当はどうしたんだ?」
 隼人が問う。
「ン……、ミチルから……借りた……」
「借りた?」
「ああ……。ん、ふ……っ、どっかの研究所、が……ン……使ってみてくれ……って」
「なるほど。試作機のモニタというところか」
「んあっ」
 隼人の指が、竜馬の口腔内を愛撫する。
「あっ……」
 きっかけはわからないが、ミチルが多忙だからと竜馬に話を振ったのだと思われた。
「報酬は」
「あ、は……っ、ん」
「竜馬」
「ンッ! ん、あ……感想、書いたら……ん、日替わりランチ……五日、分……」
「なるほど」
 隼人に試させて、感想を拝借する。
「自分は楽をして、食券を手に入れようってワケか」
 くちゅ、と竜馬の口元が鳴る。粘膜から伝わる快感に、竜馬が軽く身震いをした。
「今日が四日目。ランチ五日分、ということは、もう一日あるだろ」
「ん……」
「なら明日も、あの猫と遊べるな」
 気持ちよさにうっとりとしていた竜馬の息が止まる。その目がキッときつくなる。
「楽しみだ」
 隼人が鼻先を上げて挑発し返す。
「あの猫——」
 次の科白を言い切る前に、竜馬の犬歯がガリ、と指に食い込んだ。隼人は動じることなく左手を伸ばし、竜馬の頬に触れる。
「ン……!」
 その肌をさする。指を滑らせ、耳の縁を弄び、顎のラインを伝って首筋をなぞり下ろす。子猫を愛でるように、優しく撫でる。
「ん、あ……」
「『隼人のヤロウ、思ったよりも猫に夢中になってやがる。どうにもムカつく』」
「んぅ……」
「そういうことだろう? まあ、ランチ五日分より格下じゃなくてよかったぜ」
 いつの間にか指を噛む力が消えていた。隼人は指の腹で舌をくすぐる。
「は、あ……」
 竜馬の表情が柔く崩れていく。
「なあ、はやと……」
 鼻にかかった声。
「いいから俺、を……ン、構い、やがれ」
 甘さが混じった目つきで睨む。
「遊んでくれねえ、と……どっか行っちま……ん、から……な」
 隼人が、ふ、と笑みを零す。
「子猫と呼ぶには、ずいぶんと身体も態度もでかいな」
「うるせ……っ」
 鼻の頭にしわを寄せたが、カシ、と隼人の指を噛んだ。
 じわ、と広がる甘噛みの感触に、隼人は満足げに目を細めた。