つきあってません。
出撃後の昂った気持ちをセックスで解消することが当たり前になっている隼竜。それで完結している関係のはずなのに、隼人のちょっとした言動が妙に引っかかって悶々とする竜馬のお話。
隼⇄竜。ただし竜馬が無自覚。約6,800文字。2022/1/11
◆◆◆
いつものことだ。
弁慶はさっさと出ていく。竜馬はその頃合いを逆算してシャワールームに入る。少し時間をおいてから、隼人がシャワーを浴びにやってくる。
竜馬と同じブースに。
「はっ……は、あっ」
舌を絡ませて口づけ合う。濡れた音はシャワーの水音にかき消される。
戦闘後の神経が昂ったパイロットたちには誰も近寄ろうとしないので、たとえシャワーを止めていたとしても他の人間に悟られる心配はなかった。それでも始まりがそうだったから、今日もシャワーの栓は開放されていた。
「う、はあっ」
ペニスを握られて竜馬の顎が上がる。
「ああ……っ」
こすられ、震える。すでに射精しそうなほど張りつめていた。
「負け、ねえ……っ」
竜馬も隼人のペニスをしごき続ける。こちらも、そろそろ達しそうにびくついていた。
「う……りょう……ま、はあ……っ」
互いにペニスをなぶり合いながらまた口づける。情事と呼ぶより、男同士がどつき回しているようだった。
「くっ、あっ……出るっ」
先に限界を迎えたのは竜馬だった。
「あっ……は、はあっ」
隼人の長くて形のいい指が白濁にまみれていく。
「また、お前が先だな」
隼人はニヤリと笑い、指先に力を込めた。
「あっ⁉︎」
刺激に、びゅる、と残っていた精液が迸る。勢い余って隼人の腹を白くする。
「ククッ……お前のは、飼い主に似て元気だな」
指先にまとわりついた欲を一瞥し、舌を伸ばす。
「あ——」
竜馬の眼前に淫らな光景。
隼人が、竜馬の精液を舐め取る。それから、竜馬が見ていることを確かめるように目線をくれる。
「お前のは、濃いな」
舌先に乗っている白濁を押しつけるようにディープキスをしてきた。
「んんっ! ん、んむっ」
乱暴で、深い口づけ。
けれども、押さえつける力が強いほどに快感が湧き上がってきて眩暈がする。竜馬は隼人にしがみつく。
「んっ、はあっ、はや、と……! ンっ!」
夢中で舌を貪る。
「はあっ、はっ、や、べえっ……」
竜馬のペニスは再びいきり立っていた。隼人は弄ぶように指先でなぶる。今度は優しく。吐精したモノと再び溢れるカウパー液で隼人の指はするすると動く。その繊細な動きは全部が性感となって竜馬を苛んだ。
「——っ! また……っ、ン、イキそう……っ」
「こんなに底なしなら、誰でもいいんじゃないのか」
「——え」
訊き直す間もなかった。身体を返され、壁に押しつけられる。ぐ、と指がアナルに挿れられる。
「ンッ!」
さっきまで刺激を受けていたペニスが物欲しそうにひくんと跳ねた。
「あっ、あっ」
「お前のがいつもより多いから、すんなり挿入るな」
「ンんッ」
それでもゆっくり慣らすようにかき回す。
「う、うあぁ……」
隼人に覚えさせられた、快感。
「は、はひっ……そ、そこ……っ」
「お前、好きだよな」
「んひっ」
後ろから耳元でささやかれる。
「あ、あ、やっ……」
「ケツでもすぐイクんだな」
「ふあっ——‼︎」
耳の縁を食まれ、いいところをこすられ、あっという間に果てる。
「ふ、ふうっ——あ、あ……ンッ」
「俺にもいい思いさせろよ」
まだひくついている腰をぐっと沈め、尻を突き出させる。
「ほら、しっかり身体を支えてろ」
手を壁に持っていく。
「あ……あ……」
竜馬の濡れた瞳が振り向いて隼人を見る。
「くふっ」
隼人がさも愉快そうに笑った。
「欲しいんだろ。俺のをくれてやるよ」
両の親指で尻を押し開く。
「ンッ!」
期待に竜馬が鳴いて、引き締まった肢体が揺れた。隼人のペニスが竜馬の中に埋まっていく。
「んああっ! あっ!」
がくがくと竜馬が震える。
「あっあっ! は、はやとの! ひあ——っ」
どれだけ感じやすいのか。また達したようだった。
「んはっ! はあっ! ああぁんッ!」
尻を鷲掴みにされ太いペニスを撃ち込まれる。身体の奥を突かれる悦びを知ってしまったら、声を抑えることなど到底できなかった。
「あんッ! あっあっああッ‼︎」
奥まで突き回され、膨れ上がる快楽に呑まれる。
「キモチ、イイっ! あっ、あンッ! はや、と……っ!」
合わせて竜馬の腰も揺れる。行為を重ねていくうちにすっかり隼人のリズムと腰使いを覚えてしまったようだった。隼人は時折「竜馬」と名を呼びながら容赦なく奪う。
「んあッ!」
竜馬がイッても止まらない。
「まだ、だ……!」
「あッ、やッ! イッてる、からぁッ——あっあっあっ‼︎」
波が収まる間も与えられず、竜馬はイキ続ける。
「くっ、そろそろ……出す、ぞ……!」
「あッ! ひっ……また、あっあっ……ンああぁッ‼︎」
「うっ——」
隼人が背中から竜馬をきつく抱きしめた。
「あ、あぁンッ!」
深く繋がったまま果てる。
「ふ、ふ……うっ」
「ああ……っ、はやと……」
互いの痙攣と吐息を感じながら、ふたりは余韻に浸る。
「はや……と……」
「ん……」
隼人の腰が震える。ペニスから最後の白濁が吐き出され、竜馬に注がれた。
「ン、あ」
この瞬間だけは、隼人の所有物になってしまった気になる。普段ならそんなことは思わないし、もし思ったとしても不愉快になるだけだ。けれども、竜馬の中で無防備にしている隼人のものになるなら、悪くないといつしか思うようになっていた。
「う、ぁあ……っ」
ペニスが引き抜かれる。
「ふ……ふぁ……」
上体を起こし、身体を反転させる。まだ興奮と快感に眩んでまっすぐ立てない。よろめいて壁にもたれると、隼人の唇が迫ってきた。
「ン」
真正面からぴたりと密着されて——胸も、腹も、それからペニスも——壁に押しつけられる。肌の熱が伝わってくる。
「は、はや……」
名前を呼ぶ前に口づけられた。
「ん、ん……ふ」
乱暴なくらいに竜馬を突き回していたのに、最後のキスは優しかった。
「…………ン」
唇が離れると、目が合う。
ほんの少しだけ。
「……」
隼人は無言のままブースを出て、隣のブースに入る。そこでシャワーを浴びる。竜馬も何も言わずシャワーを浴び直し、欲の痕を洗い流す。
それが当たり前になっていた。
† † †
初めは、闘いのやり方について文句を言うために入ってきたのだと思った。
竜馬が自慰をしている姿を見て、隼人の目が見開かれ、硬直した。
恥ずかしいもマズいも思わなかった。
男なら、ペニスをしごくくらい文字通り朝飯前である。どんなことにも動じなくていけ好かない、いつか鼻を明かしてやりたいと思っていた存在が竜馬の裸を見るだけで目を見張るなど、想像もしていなかった。
だからこそ愉快で、ついからかった。
「闘いのあとって、無性にしたくなンねえか」と。
自然に口元が笑っていた。煽っている自覚は十分だった。
あのときの隼人の目を、忘れはしない。
ぎらりと深い欲に燃えた、生々しい光だった。
「竜馬」
そう一言だけ発すると、キスをしてきた。
最初は、互いにしごいて抜き合った。
二回目は深い口づけを幾度も交わしながら、互いのペニスを刺激した。
三回目に、隼人の様子が変わった。
竜馬の乳首をいじり出し、首筋や耳の辺りを唇で愛撫するようになった。
それから、当然のように竜馬のアナルにも指を伸ばしてきた。
初めてだったのに、隼人がよほど巧かったのか、そこまで痛みを感じずに済んだ。異物に腹の中をかき回される不快感も思ったほどひどくはなく、増していく気持ちよさを愉しむようになっていた。いつしか気がつけば進んで隼人のペニスを飲み込みにかかるくらい許していた。
不思議だった。
それになぜか、嫌悪感はなかった。
痛いのより、気持ちいいほうがいいに決まっている。恋愛感情などという面倒くさいモノもない。男同士だから、どこをどうすればいいかも知っている。おまけに口が堅い。
最高の息抜きだった。
ただ、時折わからなくなる。
隼人が何を考えているのか。
突き崩すように乱暴にしてきたかと思うと、溶けてしまいそうなほど優しいキスをしてくる。指も言葉ほど強引ではなく、竜馬の反応を確かめながら動く。
一方的な搾取のようには感じない。
気まぐれや間違いであれば、すでに背中を向けているはずだ。自分の得にならないことはしない。自分が知りたいと思うことだけに指を伸ばす。無駄なことを何よりも嫌う男だと知っていた。
怜悧な瞳の奥に、肉欲だけではない複雑な光が垣間見えるような気がして、竜馬はいつも最後に隼人の目を覗き込む。
隼人は決まって一瞬だけ竜馬を見つめ返して——きゅっと目を細めて視線を逸らす。
どんな意味が含まれているのか。
考える時間が、日に日に長くなっていく。
そして、隼人のことを考えている自分に気づいて嫌な気持ちになる。
——何であんなヤツのこと。
かぶりを振り、追い出す。
それでもまたしばらくすると、自然に隼人のことを考えているのだ。
——ああ、くそっ。
隼人とセックスをするようになって初めて、竜馬は言いようのない苛立ちを抱える羽目になった。
† † †
どうかしている。
わかっていた。
頭の整理ができなくて、戦闘のあとも隼人との関係を避けていた。
隼人の眼差しの意味を考え過ぎて、全部が面倒に思えてきたくらいだった。
やっぱり。
——意味なンてねえンじゃねえか。
隼人の心の中なんて、わかるはずがない。
——けど。
『こんなに底なしなら、誰でもいいんじゃないのか』
あれも、無意味な響きだったのか。
そんなことをぐるぐると考えてしまう。
まったく、どうかしている。
そして身体だけは隼人の愛撫を求めて疼き出す。
「……クソッ」
竜馬は誰もいない空間に蹴りをひとつ入れて、シャワールームに向かった。
自室のシャワールームなのに、思い出してしまう。
「……っ」
一瞬、自慰をしようか迷う。
「何で、俺だけ」
唇から零れた。
きっと隼人は竜馬がこんなにも乱されていることを知らない。今は竜馬のことさえもすっかり頭から追い出して、ゲッター線を追いかけているのだろう。
——ムカつく。
それなのに、自分はあの指で触られる気持ちよさが忘れられない。
「……」
ためらいがちに肌に触れ、手を離してはまた触れる。
「……は、あっ」
腹を撫で、ゆっくりと手のひらを下へ滑らせていく。
「ん」
無意識のうちに隼人の手の動きをなぞっていた。撫でながら、中指の腹で柔くくすぐる触り方。
「ん、ん……」
もちろん、本物とは違う。与えられる快感も足りない。それでも反応を始めているペニスに触れる。
「ん……はや……」
言いかけて、唇を噛む。
——何だよ、これ。
頭を振って指先に集中しようとする。
そのとき。
「え——」
気配を感じた。
振り向くと、扉の向こうに人影があった。
「——っ‼︎」
すりガラス越しでもわかる。
扉が無遠慮に開けられて、着衣のまま隼人が入ってくる。
「は、はや——」
茫然としていると、そのまま奥の壁に押しつけられた。隼人の服がシャワーの湯を吸ってたちまちびしょ濡れになる。
「ん!」
口づけられる。
「ん、ンんッ」
隼人の指が竜馬の胸を撫でる。すぐに乳首が勃つ。
「ん、や、やめ、ろ!」
思いきり肩を押し返す。抵抗に驚いたのか、隼人が動きを止めた。
水音だけが響く。
「……ずっりぃ」
やがて、竜馬が隼人の目を見ずに言った。
「おめえ、ずっりぃぞ」
「なぜ?」
間髪入れず隼人が問う。
「は?」
「なぜ、そう思う」
「何でって…その」
ムッとして唇を尖らせる。
「したかったらてめえで抜けばいいだろ。お、俺の部屋まで勝手に入ってきやがって……俺を使うなよ」
「そう思うなら、お前も俺をただの捌け口として利用すればいいだけだろ。今更、何を言っている」
何を、と返そうとした瞬間、キスで封じられた。
「ん、んんっ……」
壁に押しつけられたままで、動けない。
「んっ、は、はぁ……っ、ん」
「お前だって感じているじゃないか」
「な……ん、んっ」
「本当に嫌なら、殴るなり噛みつくなりして逃げればいいだろう。なぜ黙って俺にされるがままなんだ」
答えようにも、また口づけで塞がれる。
「本当は」
唇が離れた瞬間、低い声で隼人が言った。
「本当は、されたいんだろう? ——俺に」
「——っ‼」
竜馬の目が大きく見開かれたのを認め、隼人が笑う。
「なあ」
「んふっ」
耳元でささやかれる。
「それとも、ヤレるなら誰とでもいいってか?」
——誰とでも?
まただ。
隼人以外の人間に許すなど、考えたこともないのに。
「なあ」
「……ッ!」
尻に回された隼人の中指が、ぐち、と竜馬の秘所を押す。
「こんなに簡単に開くようになったもんな」
いやらしく揺らして、指を挿れる。
「あッ……あ、っ」
「したくてたまらないんだろう?」
「ああっ、あっ、やめ、あ、んッ!」
「誘えば、きっと誰か抱いてくれるぞ。出撃を待って俺とするより、そっちのほうが簡単だろう?」
「なっ、ば——」
バカ、と口にしたら負ける気がする。隼人との行為を特別なものにしてしまう。
竜馬は口をつぐむ。
「俺に、ちゃんと抱いて欲しいんならそう言えよ」
「‼」
煽るようなことを言われ、思わず竜馬の唇が開く。だが音が発せられる前に隼人の指が竜馬のペニスをつかんだ。
「——っ」
ぐにゅ、と親指の腹で先端を押される。
「——く、ふ」
竜馬が仰け反る。隼人は剥き出しになった喉仏をはくりと咥える。
「ッ!」
ちゅう、と軽く吸い、舌先でやわりと撫でた。
「——っ! っ!」
竜馬が震える。下手に動くと喉笛を噛み千切られるという本能的な恐怖があった。
「ふ、ふ……っ」
固まったまま、竜馬が苦しそうに息をした。隼人は震える喉をなだめるように優しく舐める。
「……っ、ふ、ん」
ぴりぴりと流れる快感に竜馬は小さな喘ぎを零す。
大丈夫だ、殺されはしない。
思う。
だが。
「……」
そろりと隼人を見る。
目が合った。
「————ッ」
息が止まる。
たぶん、心臓も。
執着の熱量が隠せない瞳。それがまっすぐに竜馬に向けられていた。
——はや、と。
ずくり、と下腹の奥が疼いた。
「ふ……!」
ぎゅう、とペニスに圧が加えられる。二、三度こすられて、硬くなる。
「んあっ……あ、あ」
自然に腰がかくつく。
隼人は喉から唇を離し、竜馬の顎にキスをする。
「ひとつ、いいことを教えてやる」
「んっ、え……」
「俺は、未熟なお前と違って戦闘後の昂りに振り回されることはない」
「……そう、かよ」
だから、と紡いでまた唇にキスをする。
「俺が興奮したのはお前にだ」
「え」
「戦闘後だから、したいわけじゃない」
「え——んうっ」
また深い口づけとともにペニスをしごかれる。
「んぐっ、んっ、んっ!」
シャワーの音がなければ、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が聞こえただろう。
「んっ、はっ、んぶ……っン、ン!」
——俺に?
頭の中が、ぐわんと揺れる。
——隼人が? 俺に?
キンキンと耳鳴りが始まる。シャワーの音が入ってこない。不快な金属音の奥で、隼人の言葉がリフレインしていた。
——俺、に。
その意味をようやく理解する。
「……ッ!」
カッと顔が熱くなる。
やられた、と思った。
「ん〜〜ッ!」
隼人の指に導かれ、達する。頭も身体も全部、おかしくなっていた。
「く、そ……」
唇を外してなじる。
癪だった。
何もかもが気に入らない。
「くそっ……はやとの、ンっ」
言わせまいとするかのように隼人の舌が滑り込んでくる。
「んふ、ンんっ——あ、ばっきゃろ……っ」
隼人の勝ち誇ったかのような笑みに目が釘づけになる。
「——っ」
きっと隼人ほど器用で賢しい男なら、己の感情を完全に隠してしまえる。それなのに、わざわざ竜馬に妙な引っ掛かりを残す程度に尻尾を出していたということか。
——くそっ。
そうしてひとりの憐れな男はまんまと踊らされたというわけか。
——ああ、ムカつく。
隼人の仕種に振り回されるのも。
隼人の言葉で自分の思いに気がつくのも。
——結局、コイツに殺されンじゃねえか。
そんな瞬間をきっと待ち望んでいた心の奥底を暴かれるのも。
「ん、はぁ……おめ、え……ンッ……やっぱずりい……な」
上目遣いで睨んでから、竜馬は隼人の首に抱きついた。