I Know / I Don’t know

ネオゲ隼號R18

2023/8/5開催ネオゲ隼號webオンリー【8月5日は隼號の日!】でPDF配布したお話。
「隼人→竜馬」だと信じ込んでいる號君の健気襲い受け。なお、そのような事実はありません。実際は隼⇄號。約13,000文字。
・恐竜帝国と最終決戦前の設定。
・號君は竜馬のことは写真や隼人の話から知ってはいるけれど、まだ会ったことはありません。
・このお話の前に號君から誘って数度肉体関係がある設定です。
・受け側のフェラあり。
・號君めちゃ感じやすい。トコロテンあり。
・ふたりとも上だけ着衣。ネーサー本部、隼人の自室(執務室ではない)、ソファ上でのプレイ。お水とか零しても大丈夫なお掃除しやすい素材なので気にせず楽しんでください。
・ハピエン!!

続編はこちらから→『君の帰る場所

◆◆◆

 思った通りだった。
 ジャケットは椅子の背もたれに、ワイシャツの袖は腕まくり。想像通りの体勢で、想像通りの顔つきで、何の書類かはわからないけれども、やっぱり想像通り仕事をしていた。
「どうした、號」
 ——これだ。
 扉が開いても手を休めないし、こちらを見ない。そもそも誰が入室してきたのか、わかっている。
 全部、わかっている。
「……これじゃサプライズなんか、絶対ぇ仕掛けらんねえな」
 苦笑いと一緒に小さな溜息も出てしまう。
 存在をしっかりと認識してくれるのは嬉しい。でもこちらの行動を簡単に読んでしまうところはちょっと憎たらしい。というか、自分の単純さが浮き彫りになってしまうのが何だか情けない。
 けれども仏頂面で「邪魔だ」なんて言われないだけマシで、ほんのわずかでもふたりきりの時間が持てるのは、とびきりがつくほどに嬉しかった。
「まだお開きの時間でもないだろ」
 時計を見なくても隼人には時間の経過がわかっているようだった。会話をしてくれる余裕があるのだと判断し、號はデスクに近づいていく。跳ねる心を抑えて口を開いた。
「それはこっちのセリフだぜ。始まってからそんなに経ってないだろ」
 ネーサーでは時折、パイロットをはじめ働く者への労いと士気高揚のため、豪勢な昼食会が開催される。今日は約一箇月ぶりで、朝からみんなソワソワしていた。
 始まりと同時に剴と争うようにして肉を頬張っていると、遅れてやって来た隼人が目に入った。幾人かと談笑をしているのを確認し、次に姿を探したときには見慣れた背中は消えていた。
「まだ食い物もたくさんあったのに。さっさとトンズラこいたと思ったら部屋にこもって面白くもねえオシゴトかよ」
 言い方があるのはわかっている。それでも、こんなふうにしか言えない。
「俺はいいから、育ち盛りがたくさん食べろ」
 書面から視線を外さずに隼人が笑う。號は傍まで寄り、覗き込んだ。
「そんなに手のかかる書類なのかよ」
「普段よりはちょっと面倒だ——ん?」
 怪訝そうな声があがる。
「お前」
 不意打ちのタイミングで見上げられ、息が止まった。
「まさか、飲んでいるのか」
「いや」
 声がうわずる。すぐに口をつぐんでそのひと言でやり過ごそうとしたが、誤魔化されたと感じたのか、隼人に不審げな表情が浮かんだ。
「酒臭いぞ」
 胸元に顔を寄せてくる。前髪からいい香りが立って、號の鼻先をくすぐった。
 ——こんな。
 心臓の音が大きくなる。
 いつも思う。
 仕事中毒。頭の中は対恐竜帝国で埋め尽くされている。何でも知っていて、誰からも頼られて、いつだって応えている。指示は情け容赦ないけれども的確で、どこにも隙がない。
 それなのに、妙に無防備な瞬間がある。
 自分に気を許してくれているのだろうか。自分にだけ、なのだろうか。
 ——そうだったらいいのに。
 緊張に唾を飲む。
「……そういや」
 意識して低い音域をとらえる。
「そういや隣のテーブルの奴が非番だって飲んではしゃいでたな。派手に酒零してたからよ、ちょっと飛んだんだろ」
「本当か?」
 隼人は疑わしそうな目つきで鼻先をもっと近づけてきた。
「——っ」
「本当に飲んでないのか」
 形のいい鼻がスン、と鳴る。號の眉根が寄った。
「なら——確かめてみろよ」
 言うなり、キスをする。
「ん——!」
 押しのけようとする手を掴み、放さない。
「っ! ……ご、うっ」
「はあっ、じ、んさん……!」
「んんっ」
 椅子が軋む。舌を割り入れると、隼人の身体が強張った。
「……神さ、ん」
 號の唇から、吐息とともに落ちる。
「神さん……」
 再び口づけが始まると、隼人はその舌を素直に受け入れた。

 

 ふたりに距離ができると、隼人の濡れた唇が開かれた。
「気が済んだか」
「何だよ、その言い方」
「……大人をからかうな」
「ガキ扱いすんな」
「——」
「俺が」
 きゅ、と號の目が細められる。
 ——俺が、どんなに。
 言いかけてやめる。
「……」
 無言で隼人の脚の間にしゃがみ込む。
「な……!」
「ずっと仕事ばっかで溜まってんだろ?」
 ためらうことなく手を伸ばし、股間をさすった。隼人が喉の奥で、う、と小さく呻く。
「神さんは息抜きがヘタクソそうだもんな。俺は気が利く有能なパイロットだからな、大事な司令官さんのアレのお世話もしてやるよ」
 時間を置かずに隼人のそこが反応を始める。號の頬がゆるんだ。
「ほら、神さん。やっぱり溜まってたんじゃねえか」
「……っ」
 隼人が目を瞑り、顔を背ける。気まずさなのか、いたたまれなさなのか、それとも欲を必死に抑え込もうとしているのか。
「我慢は身体によくねえぜ」
 指を動かすと、あっという間に硬くなる。
「へへっ」
 勝ち誇った目を向けると、隼人は観念したように息を吐いた。
「……なあ、神さん」
 拒絶の言葉が落ちてこないのを確かめ、ベルトに手をかけた。
 初めてのときもこうして誘った。一度は断られたが、ためらいのあとで結局抱いてくれた。今日もきっとそうだ。その証拠にデスク上から短い電子音がして、背後の扉にロックがかけられた。
 スラックスの前をくつろげてやると、下着越しに窮屈そうにしている形が見えた。
「もうガチガチじゃねえかよ」
 つ、と指でなぞり上げてから、下着をずらす。やっと自由になれたとばかりにペニスが勢いよく飛び出した。
「お、わ」
「責任は取ってもらうぞ」
「……大人ってよぉ、ん」
 陰茎に舌を這わす。
「何かあるとすぐに『責任』って言うよな」
 下から舐め上げて、カリ首を唇で愛撫する。
「こんなとき、くらい……『したい』『したくない』で決めればいいのに、よぉ」
 先端に吸いつく。
「んっ」
 隼人が目を閉じて身を震わせた。
「なあ、神さ……ん、は、はぁっ……んっ」
 くちゅ、と小さな音があがる。號の唇が軽く触れては離れ、隼人を煽っていく。
「俺が来た理由……ん、わかってたん、だろ……? なあ、したい……だろ……?」
 ぱくりと咥える。
「——っ」
「ん……んっ……」
 なるべく唾液でぬめらせる。頭を動かすと、すぐにぐちゅぐちゅと卑猥な水音が唇から溢れ出した。音に合わせて隼人の腰がびくりと反応する。
「……ご、う」
「んふっ……ん、んっ」
 刺激を与えている側なのに、號の目があっという間にとろんとしてくる。その眼差しで一心に隼人を慰める。
「は……あ……っ、あ、む」
 舌先で思いを伝えるように、丁寧に愛撫する。キスをして、唇で挟み込んで、吸って、隼人の快感になりそうなことは全部やってみる。
 やがて、隼人の顔面にうっすらと傷痕が浮き上がってきた。呼応するかのように先端から雫が滲み続ける。號はそれをぺろりと舐めてはまた隼人自身に舌を這わせた。
「……號」
 隼人がネクタイを取る。デスクに置き、返す手で號の短髪を撫で——。
「ああ……そう、だな」
 指先が耳に触れる。
「んん!」
 號が身体を震わせた。
「ん……ふ、んっ」
 両耳の縁を優しく撫でられ、身体の内側からゾクゾクとした感覚と、もっと触れられたいという欲が湧き出てくる。
「っん!」
 目で訴えたわけでもないのに、隼人の指がその願いに応える。両の手が柔く耳の裏を撫で、耳たぶをさする。そのたびに號の密やかな場所が息苦しそうに悶えた。
「號」
 隼人の声が近づく。
「お前と、したい」
「——っ!」
 言葉で求められた瞬間、くらりと世界が揺れた。
「……號」
「————っ!」
 熱い吐息が降ってくる。その熱はまっすぐに號の中を突き抜け、痺れるような余韻を残して身体の隅々にまで広がる。
 ——やべ……。
 このまま隼人に搦め捕られてしまいそうで、號は抗うように隼人を奥深くまで咥え込んだ。
「う……っ」
 隼人の顎が上がる。
「ふ……あ、あ」
 零れ落ちる喘ぎをもっと聞きたくて、號は頭を動かす。
「號……うっ」
 ——神さんの声、やべえ……。
 それだけではない。荒くなっていく呼吸も、口腔内で感じる脈動も、それから粘膜を刺激したあとで鼻先から抜けていく雄の匂いも、全部が隼人の興奮を伝えてくる。アドバンテージは自分にあるはずなのに、隼人の反応に煽られてこっちがどうにかなりそうだった。
 號は口を離さず、自分のズボンをゆるめる。恥ずかしいくらいに張り詰めていることは自覚していた。
 ——神さん。
 身体も頭の中も熱くなる。その熱に浮かされて、自然に目が潤む。
 ——俺は知ってる。
 隼人は大人だから、つきあってくれているだけだ。
 ——俺が、ガキだから。
 さっきは子供扱いされたことに腹を立てた。十やそこらの歳ではない。分別もつくし、誰に守ってもらうでもなく、ひとりで生きてきた。それなりに汚い世界も見てきた。大人として扱われる資格は十分にあるはずだ。
 だが隼人からしてみれば自分はやはり大人には足りないのだ。
 本気で嫌なら撥ねのける。あきれていたら目でわかる。
 これは隼人の優しさだ。「仕方がない」と、ガキのお遊び・・・・・・につきあってくれてるだけだ。ただ、それが二度、三度と続き今日があるのだから、それなりにメリットがあると踏んでつきあってくれているのだろう。
 ——それでいい。
「……號」
 隼人の喉が唾を飲み込む。
「んむっ!」
 口の中でペニスがさらに膨らんだ。
「號、出る、ぞ」
 了承の代わりに強く吸う。そのままペニスを喉奥に押し込む。この感覚にはまだ慣れない。けれども隼人には気持ちよくなって欲しかった。
「——っ、うっ」
 隼人から短い呻きが落ちて、號の中に精が放たれた。
「んっ……ん、んう」
 最後まで吸いついてから口を離す。白い残滓と唾液が入り混じった糸が肉塊に縋る。隼人の指が號の口元を拭った。
「何も飲まなくても」
「……別に、無理してねえし」
 隼人の全部が欲しい、とは言えなかった。自分はそこまで甘えられる立場ではない。
 まだ隼人の指が優しく唇をいたわっていた。見つめられて、何だか居心地が悪くなり始める。
「……なあ、早くしようぜ」
 目線を上げないようにして、もう一度ペニスに舌を這わす。
「んっ……」
 隼人のそこは萎える兆候もなく、変わらぬ弾力で押し返してきた。
「ここは全然、オッサンらしくねえよな」
 號は笑ってペニスにキスをする。隼人の指が短い髪の毛を弄び、地肌を撫でた。
「……ん」
 ——気持ちいい。
 睫毛を伏せる。
 頭をこうされてうっとりするなんて、やはり自分はどうしようもないガキなのだ。それなら最後まで大人を振り回すのが役目だった。
「神さん、あっち行こうぜ」
 目線でソファへ誘う。
「疲れてんだろ。座ってなよ。俺が上になってやるからよ」
「號——」
 返事を待たず隼人の手を引き、座面に身体を押しつける。
「ほい、靴脱いで。脚はこっちに伸ばす」
 半身を横たえさせると、號はニンマリと笑う。そうして自分はポイポイと気前よく服を脱いでいき、あっという間にTシャツとパンツ姿になった。それも脱ごうとした矢先、
「——あ、けど汚したら悪ぃからな」
 隼人を一瞥し、ズボンに手をかけた。
「これ、伸びねえから難しいな」
 スラックスの生地は作業着とは違い、思いきり引っ張ったら破けてしまいそうだった。
「だめだ。神さん、自分で脱いでくれよ」
 隼人はぱちぱちとまばたきをし、それから小さく吹き出した。
「ムードたっぷりに脱がしてくれるのかと思ったら」
「む」
 くすくすと笑われ、唇を尖らせる。
「……どうせこういうのはヘタだよ」
「そうは言ってないだろう?」
「ん、……まあ、そうだけど」
「拗ねるな」
「拗ねてねえよ」
 ふいと目を逸らす。すると、額に口づけられた。
「……っ」
 瞬時に身が固くなる。そのうぶい反応に隼人はまた笑みを作った。
「なら、一緒に脱ぐか」
「お、おう」
 さっきまで自分のほうが優勢だったのに、もう主導権を握られている。隼人がリードしてくれるのは嬉しかったが、このままだと確実にペースを乱されてしまう。それは避けたかった。
「な、下だけでいいだろ」
 続けてワイシャツのボタンを外している隼人の手を止める。
「全部脱いじまったら、着るのにまた時間かかんだろ」
 忙しい合間の、ちょっとした息抜き。隼人にはそう思っていて欲しい。
「俺も上は着たままにすっからよ」
 お揃い、と笑いかける。
「じゃあ、しようぜ」
 座面を叩き、先刻のように位置を指示する。はだけられた胸元にちらりと視線を投げてから背中を向け、隼人の腿に跨った。

 とっくに好きになっている。
 どうしようもないくらいに。

 露わになった肌を見たら、傷痕の場所も形も覚えてしまう。もっと知りたくなって、触れて欲しくなって、忘れ難くなって、つらくなってしまう。

 これだけは、悟られてはいけない。

 すう、とひとつ、深呼吸をした。
「ん……、ちょっとだけ待ってくれよ、な」
 腰を浮かせ、右手でその部分をほぐし始める。
「すぐだか、ら——っ⁉︎」
 尻に指を感じた次の瞬間、双丘が押し広げられた。
「なっ、じ、神さん……!」
「せっかくだから、よく見たい」
「んなっ⁉︎ ちょっ」
「俺に、見せてくれ」
「……っ」
 熱を含んだ声でささやかれ、断れるはずがない。
 前傾し、尻を突き出す。そっと中指で撫でる。指先が震えているのがわかった。
「……ふ、う……っ」
 縁に沿ってほぐし、指先を押し込む。背後の隼人はぴくりともしない。あの鋭い眼差しが自分のそこだけに注がれているのかと思うと、全身の力が抜けて崩れ落ちてしまいそうだった。
「う、ふ……、ふぁ……」
 抜き差ししながら少しずつ指を進めていく。第二関節まで埋まると一旦抜いて、人差し指を加えた。
「あ……っ」
 ——これ、どうしよ……っ。
 快感が湧き出てくる。隼人との行為を思い出しながら後ろを慰めたことはある。けれどもここまで気持ちよくはなかった。見られて[[rb:す > ﹅]][[rb:る > ﹅]]のがこんなにもいいとは知らなかった。恥ずかしくてたまらないのに、もっと欲しくなる。
「ふっ……く、……あぁ、あっ」
「……いつも」
 隼人の声に一瞬動きが止まる。
「いつも、こうやってひとりでしているのか」
「あ⁉︎ し、してねえよ!」
 咄嗟に指を抜く。
「本当に?」
 大きな手が尻の丸みを撫で上げた。
「んうっ!」
 手はそのままシャツの中に忍び入る。腰を撫で回し、背骨に沿って滑っていく。
「んあ……っ、あっ」
 隼人の熱が肌に染みて腰の奥に集まっていく。程なくして、さっきまで指を咥えていたところが物足りなさそうにヒクヒクと喘ぎ始めた。
「……俺のことを思って、しているんじゃないのか」
「あっ」
 下りてきた指がそこにあてがわれる。號の肢体が緊張と期待に震える。わずかの間をおいて、隼人の指が潜り込んできた。
「んっ」
 ゆっくりと挿入はいってくる。
「う……、あっ……」
 ——神さん、の。
 デスクをちらりと見やる。キャップが外されたままのペンが書類の上に転がっている。
 爪の形も、持ち方も、筆跡も覚えている。少し前まであそこで仕事に打ち込んでいた指が、今は號の中を探るためだけに動いている。
 その事実だけで十分だった。
「もう一本、挿れるぞ」
「ん……っ」
 反射的に締めつけてしまう。指は無理に押し入ろうとはせず、待っている。
「……號」
「あっ」
 軽く揺らされ、甘い痺れにそこがゆるむ。すかさず隙間を埋めるように指が侵入してきた。
「はあ……っ、あっ!」
 内側を舐めるような刺激が這い上がってくる。その波が引いていきそうになると再び指がくねる。
「う、うあ……、あ、あ、あ……っ」
 絶え間なく快感の粒が湧いてくる。それらは徐々にくっつき、もっと大きな泡になって號の中に広がっていく。
「じ、神、さん……っ、あっ……、も、もういいだ、ろ……っ」
 腰が小刻みに震えていた。
「あんま時間かける、と……っん! オッサンは萎えちまう、だろぉ……」
 とろけそうな表情は見られないように隠し、催促する。
「ああ、それもそうだな」
 嫌みのような言い種もさらりと躱わす。隼人の軽い口調に、自分とは違う『大人』を感じた。
「……っ」
 胸の奥がぎゅっとする。
 どんなに身体を重ねても年齢の差は埋まらないし、見えている景色も違う。隣に並べたとしてもまったく同じ世界が目に映るわけではないのだと思い知らされるようで、こんなときはもっと早く生まれてきたかった、と詮無い願いを抱いてしまう。
 早く生まれても、隼人の傍にいられるとは限らないのに。
 ——ああ、くそっ。
 固く目を瞑り余計な考えを追い払う。今は、隼人の愛撫を受けとめることだけに心を遣えばいい。
「號? 大丈夫か」
「え、あ——ああ、……大丈夫」
 少しだけ顔を向け、何でもないと伝える。
「それよか、早くしよう、ぜ……」
 引き締まった形のいい尻を振って誘う。
「——ああ」
 く、と唾を飲んだあとの響きが返ってきた。平素の冷静さとのギャップも相まって、隼人が興奮している印はどんな些細なものであっても號を昂らせた。
 指の熱が引いて、代わりに手の熱が尻を覆う。
「號、もうちょっと俺のほうに」
「ん……」
 同時に隼人が動いて、狙いを定める。添えられた手にそっと押され、徐々に腰を落としていく。
 指とも手のひらとも違う熱がそこに当たった。
「……っ」
 反射的に腰が上がる。しかし隼人の手が自由にしてくれなかった。そのままゆっくりと沈められる。
「あ——ああっ」
 ペニスが肉を分け入ってくる。びり、と衝撃に似た快感が身体の中心部を貫いた。
「……っ! っあ!」
 この瞬間はいつも、心の中まで拓かれていく感じがする。爪先も吐息も、隼人のものになっていく気がして嬉しい。人におもねるのも寄り掛かるのも嫌いだし、普段から自分を形作るのは自分だと思っているのに、相手が隼人だと特別だった。
 半分まで進んだところで隼人が手を止め、ふ、と息をつく。
「な、なん、だよ……、もうイキそう……てか?」
 声の揺れを抑えてからかう。本当は自分のほうが呼吸を整えて落ち着きたいのに、強気が口に出る。
「んっ、オッサンは、仕方ねえ……な」
 腰を押しつけ、全部飲み込んでいく。隼人から「う」と短く漏れて、その直情さに煽られ、號のペニスがひくんと揺れた。
 ——こ、れ……おかしく、なる……っ!
 身体の内側全部が熱くて、溶けて溢れ出てしまいそうだった。
「ふ、うっ……」
 行為に慣れてきたせいもあるだろう。だがそれよりも、今までのどこか互いに探り合うような距離が一気に縮まった気がして、素の隼人に一番近づけた気がして——もうイキそうだった。
 こらえて腰を動かし始める。追従して背後から息を吐く音がする。歯を食い縛り、その隙間から零れてくる音だった。隼人が眉根を寄せて流されないように我慢しているさまを想像するとゾクゾクする。自分がそうであるように、隼人にももっと感じて欲しくて、號の動きが加速する。
「……っく」
 抑えた声の直後、咥えている肉が膨張したのがわかった。
「じ、神さ、ん——」
 號の中で張り詰める。ちか、と一瞬、目の前の光景が途切れて、號は思わず動きを止める。
「う……っ」
 昇っていく最中に待ったをかけられた状態になり、隼人が呻く。その身じろぎにくすぐられ、號の口がきゅっと締まった。
「ん……! 號、お前——」
「……え?」
「——くそ」
「あっ」
 腰を掴まれ、力強さに號が振り向く。
「んあ゛ッ——⁉︎」
 引き寄せられて、奥だと認識していた部分をさらに割って熱い塊が侵入してくる。鋭さに號の顎が跳ね上がる。
「あ゛——ッ」
 腹の奥から湧いたものが背中を一気に駆け上った。
「あっ! あっ!」
 腰が反る。前に逃げようとする身体を、隼人の手が引き戻す。
「うっ、あっあっ、あぁっ!」
「上になると、言っていた、が」
「ふあっ、あ、なっ、な、に……?」
「すまんな」
「え……」
 隼人が身体を起こす。素早く体勢を入れ替え、バックスタイルに持っていく。
「へ、あ、ちょ……」
「焦らされるのも悪くないが、今日は我慢できない」
「え、焦らしてね——ま、待っ」
 ぐぶ、と奥を突かれ、目の前が再びちかりと点滅する。
「ひあ゛——ッ⁉︎」
 言葉が作られる前にまた、深く。
「う゛、うあッ」
 全部、隼人で埋め尽くされる。
「ふっ——あ゛っ!」
 突き上げられるたびに、引き締まった肢体が跳ねた。
「あ……あ、あっ!」
 好きなところに当たると、自然に声が一段高くなった。隼人が察知して、そこを責め始める。こすられた粘膜が追い縋り、蠢く。
「あ、ああっ、あっ」
 隼人のリズムに合わせ、號の喘ぎも弾んだ。
「はあっ、あっ、じ、神、さん……っ」
「何だ」
「……っ、ソファ……っあ、汚れちま——あ、ああっ」
 揺さぶられ、號の先端から滴るものが卑猥な跡をつけていく。
「俺の部屋だから、気にするな」
「ん、んなこと、あっ、言った……んあっ!」
「こっちに集中しろ」
「あ゛ッ!」
 残った理性を蹴散らすようにペニスが奥まで進んでくる。
「號」
「……ッ」
 首筋に唇と、髪の毛がハラリととかかる感触がした。

 快感と熱さに支配される。
「んあっ、あっあっ」
 閉じることを忘れた口元から絶え間なく嬌声が零れ出る。
「ああ——あ゛っ」
 深いところで、ずっと脈動を感じていた。それが隼人の肉棒から伝わってくるものなのか、自分のものなのか、わからない。ただ、隼人と一体になっている事実をありありと感じて、この時間がずっと続けばいいのに、と願わずにはいられなかった。
「んん゛ッ」
 激しさに飲み込まれていく。
 ——も……だめ、だ……。
 目の前がしきりにちかちかとする。飛行訓練で強烈なGがかかると視界の端が黒く塗り潰されて、中心部目掛けて引きずり込まれていく感覚がする。幸い、まだ完全にブラックアウトしたことはないが、意識が急速に狭まっていくその感じと似ていた。だが色は真逆で、隼人の手によって昇り詰めていく今は世界が白く見えた。
「——あ゛ッ!」
 身体が内側から押し上げられて、浮遊感に包まれる。行く先をコントロールできない。そこを追撃されるように穿たれて、意識が飛んだ。
「……ッ‼︎」
 落ちた腰の奥をもう一度突き回されて、今度は意識を取り戻す。隼人の形によって刻まれた快感が限界を超えて、のたうち始めた。
「號……、號……っ」
「んひっ」
 名前を呼ばれるたび、中が収縮する。
「あっ、あぁっ……!」
「號……さっきからイッてるのか?」
「あっ、ち、ちが……っ、んんあっ!」
 ぐ、と抱き起こされ、たくましい腕の中に囲われる。耳に唇が押し当てられた。
「ゴウ」
「ひうっ⁉︎」
 號の身体が大きくびくついた。
「お、あ——」
 締めつけに隼人の眉間に皺が寄る。
「號……あんまり締めると……ん、號」
 うなじにキスをする。
「ああ……っ、あっ……ああぁ」
 號の顔は今にも泣き出しそうに歪んでいた。
「は、あ……気持ちいいぞ、號」
「んう゛っ!」
「お前……名前を呼ばれるのが好きか?」
「ひっ、ちが、あ、だめ、やめ——」
 隼人の手がシャツの中に潜り込んでくる。
「うあっ」
 脂肪の極端に少ない肉体は、直に熱と感触を伝えてくる。隼人の指先が滑ると、その跡が灼けるようにひりひりとした。
「號」
 突き上げられるのと同時に、乳首をつままれる。
「——ッ!」
 また、覚えさせられる。
「あ……っ、あ、あぁ……っ」
 全身ががくがくと痙攣し始めた。
「じ、じ……んさ……っ」
 もう一度突かれる。同時に、
「ゴウ」
 と耳朶に押し込まれた。
「————っ‼︎」
 吹き溜まっていた塊が弾けて溢れる。
「あ、あ……あうっ……」
 きつく張り詰めていた號のペニスから吐き出された白が、黒いソファに模様を描いた。
「あ、あ……わ、悪、ぃ……っ、ひ、あっ……」
「気にするなと言ったろう」
 隼人の右手が下りてきて、まだひくひくと揺れているペニスをこする。
「ん゛っ、あ゛、そ、それ……!」
「気持ちいいか」
「ふっ、あ゛……っ」
 身震いすると、挿入されたままのペニスに自分から中を押しつける格好になる。それでまた熱が奥から迫り上がってくる。
「ああっ……、くっ」
「……號」
 首筋に隼人の唇が吸いつき——。
「あっ!」
 ひと刺しで再び天辺に近づく。
「あ゛っ、あっ、神っ——さ、んんぅ!」
 隼人の先端が触れている場所から脳天まで電気が走った。
「あひっ! あん、んんっ、キモチ——イイッ!」
「はあっ、ん、俺も、だ」
「あ゛、あ゛ッ!」
 深く抉られ、頭が真っ白になる。
「お゛っ、あ゛っ……あ゛っ!」
 隼人の腰が打ちつけられるたびに大きな声が漏れる。もうこらえようとする意志さえなかった。喘ぎとともに口の端から涎が落ちていく。
「あ゛っ、やっ、ん゛あ゛っ————やだっ、あ、あぁっ!」
「嫌なら……っ、く、やめるぞ……!」
 號が首を横に振る。
「あっ、だめ、や、やめん、な……っ!」
「號……っ」
「あ゛っ、あ゛っ、い、イク、イ……ク……っ!」
 内側いっぱいに渦巻いていた感覚に貫かれ、ふ、と全身の力が抜ける。
 くずおれる身体を隼人が抱きとめる。次の瞬間、號は自分の中に注がれる熱を感じていた。
「…………じん、……さ、ん……」
「號」
 夢見心地で隼人の声を聞く。
「…………號」
 隼人が息を荒くし、たくましい肉体を震わせながら自分の名前を呼んでいる。

 ——……嬉しい。

 必要とされて、一番近くで名前を呼ばれる。束の間で構わない。
 浮き出た涙で世界がぼやけている。目を閉じて、デスクに飾られている写真立てを視界から遠ざけた。

 ——あの人・・・の代わりでいいから。

 彼の話をする隼人は普段より表情も雰囲気も柔らかくなる。昔を懐かしむ眼差しの一方で、時折寂しさがよぎっていくように感じる。そのあとでふと細められる双眸は苦しげに見えて、決まって號の胸を軋ませた。
 遠くて触れられないのなら、代わりになりたかった。隼人の胸も軋んでいるのなら、少しでも楽になって欲しかった。ほかにも方法はあったのかもしれない。けれども、號が選択できたのはこれだけだった。
 名残りを惜しむように隼人の左手に右手を重ねる。
「……」
 きゅっと握り、離す——と、
「え」
 もう片方の隼人の手が覆い被さってきた。すっぽりと包まれる。
「あ」
 指先が柔く肌を撫で、それぞれの指の間に潜り込んでくる。まるで恋人たちが互いの距離を埋めるときのように手を握られて、號が息を呑んだ。
「……抜くぞ」
「あ、んん……っ!」
 中を満たしていた熱が引いていく。
「んあ……っ」
 優しくなぞりながら、隼人が離れていく。
「あ……あ……っ」
 身体はまだ余韻に浸り、たゆたう。腹の奥に残っていた快感がじわりと溶けて広がり、押し出されるように吐息が零れた。
「號」
 くるりと向きを変えさせられて、隼人と対面する。
 ——あ……。
 顔に傷痕が浮き出ていた。覗く胸元にもくっきりと。
「わ、悪ぃ……」
「うん?」
「そ、そんなんじゃ、何かあっても、その……すぐ出られねえ……だろ」
 汗で髪の毛が額や頬に張りついている。ワイシャツはふたり分の汗でところどころ色が濃く変わり、皺だらけになっていた。おまけに裾は言うに憚られる液体で濡れている。
 だが隼人は事もなげに微笑んだ。
「気にする必要はない」
「けど」
「號」たしなめるように、少しだけ強い語調で遮られる。
「大丈夫だ」
「あ、ああ……」
 ——また。
 きっと、どうしようもないガキだと思われた。もう、はないかもしれない。
 今の今まで胸の中が満たされていたのに、急速に空っぽになっていく気がした。
「號」
 さっきよりも硬さの取れた声がした。手のひらのあたたかさが頬を包む。目を上げると、まっすぐで熱い瞳がこちらを見つめていた。
 ——え。
 いつもの隼人とは違う。ばくん、と心臓が跳ねる。ふたりきりで過ごした時間の中で、こんな表情を見たのは初めてだった。
 いや、なるべく見ないようにしていたから当たり前だ。望んだ関係だったが、自分を通り越していくとわかっている眼差しを真正面から見る勇気まではなかった。
 唇が近づく。
「——ぁ」
 軽く、それからもう少しだけ強く、触れられる。どうしていいかわからず、目を瞑ってされるがままになる。
「……っん」
 舌先でそろりと舐められて、反射的に唇を引き結んだ。
「……俺からされるのは、好きじゃないのか?」
 息がかかる距離で問われる。號の心臓が今度はぎゅっと締めつけられた。
 ——違う。
 そんなこと、あるワケねえ。
「……」
 言葉を呑み込んで、消し去る。
「お前、いつも俺に背中を向けるよな」
「……そっちの体勢のほうが、お互い挿れるとき楽だろ」
「お前の顔が見られない」
「…………俺のツラ見たって、面白くも何ともねえだろ」
「どうしてそう思う?」
「どうしてって……」
 目を開ける。
「————っ」
 想像よりも間近に隼人の双眸があった。
「……っ、う」
 いつもは明るさで縁取られている號の瞳が不安定に揺れた。
 隼人とまともに向き合って太刀打ちできるはずがない。これ以上、好きになりたくない。

 それに——。

 髪の長さも、体格も、瞳の色も声も違う。それでも、後ろ姿だけならマシなはずだった。興醒めさせたくない。
「……號」
 見透かされそうで、思わず俯く。こんな重い気持ちは、もらっても邪魔なだけだろう。
 ——俺は。
 代わりにもなれないのなら、せめて後腐れなく欲をぶつけ合うような関係でいい。そのほうが誰も傷つかない。
 沈黙が続く。
 やがて、隼人から微かに溜息が漏れた。號の肩がびく、と揺れる。
「……お前の好きなようにさせるつもりだった」
 隼人の指が頬を柔く撫でた。
「お前がそれでいいなら、と。……だが、そんな顔をして欲しかったわけじゃない」
「…………へ?」
 くい、と上を向かせられる。隼人の目が優しく細められた。
 ——……神……さん……?
 自分を見つめる瞳から、視線を外せない。
「馬鹿だな」
「え」
「お前は勘違いをしている」
「……勘違、い?」
 抱きしめられる。
「————」
 呼吸が止まった。
 ——え? 今……何て。
「俺は一時の欲だけで部下に手を出すほど暇じゃない。たとえどんなに頼まれても、誘われてもな」
 號の目が大きくなった。
「だから、お前とこうしているときは『司令官』でいるつもりはない」
 背中をさすられる。手の大きさとぬくもりが伝わってきた。
「誰でもいいわけじゃない」
「…………」
「ましてや誰かの代わり・・・・・・に手近な奴とセックスするような人でなしのつもりもない」
 一瞬、時間が静止する。
 そのあとで世界が急速に回り始めた。その強い引力に巻き込まれるように鼓動が速くなり、収まりがつかなくなっていく。身体が震え出した気がして、號は隼人の手から逃れるべく身を引いた。
「——號」
 だが隼人が許さなかった。
「————神さ、ん」
 もっと強く抱きしめられてしまう。
 全身が隼人に包まれる。あたたかさと、匂い。それから合わさった胸の奥で、ふたり分の鼓動が騒ぎ立てていた。
「……あ、あの……じ……ん」
「何だ」
「う、あ」
 うまく言葉が出てこない。
 出てきたところで、何を言えばいいのか。何を訊けばいいのか。
 隼人は、全部わかっていたということか。
 ——う、わ。
 一気に頭の中が熱くなって、破裂しそうだった。
「號?」
 隼人が身体を離し、顔が見える距離を取る。
 ——あ、や、やめ……!
 きっと真っ赤になっているはずだ。
「……號」
 案の定、隼人は目を丸くしたあとで微笑む。
 ——ああっ、くそ……!
 何も、声にできない。
「號」
 優しく呼ばれ、キスをされる。心の中にするりと入り込んできて撫でられているような、柔らかくて甘いキス。やはりどうしていいかわからずに、號はぎゅっと目を瞑った。
 今度は舌がそっと差し込まれた。
「ん、……ふ、んうぅ……っ」
 粘膜をなぞられて、泣きそうな、情けない声が漏れてしまう。キスは何回もした。舌を使うキスだって、何度も。だからやり方はわかっていた。
 けれども、このキスだけは違った。
 たぶん目を開ければ、今までで一番優しい隼人がそこにいるのだろう。號の向こう側ではなく、號自身を見つめている隼人が。
 こんな状況は想像もしていなかった。
 ——わかるワケないだろ! 
 白くなっていく頭の中で叫ぶ。
 当然だ。
 自分はまだガキで、こんな甘い大人の口づけなんか知らない。わかった気になっていただけだった。

 世界はまだ、知らないことで溢れている。號は振り落とされないように、震える手で隼人にしがみつくのが精いっぱいだった。