遅刻したけどバレンタインネタ。隼號、つきあってません。お互いまだ思いを自覚するところまでも行ってない、はやご前の卵のはやご。
「世話になっているから」と隼人に手作りチョコを渡す號くん。チョコを見て戸惑うような、いつもと違う隼人の雰囲気に「自分に対して何か負い目を感じているのかも」と思ってしまう。そこで、自分自身の今の気持ちを素直に伝える號くんのお話。約2,200文字。せっかくなのでpixivにもあげる予定。
・隼人に初めてぎゅんってくる號くんです。
・翔ちゃんに「お世話になっている人たちにチョコをあげるのだが」と誘われて、剴くんとも一緒にチョコ作りした前提。本当はこの辺りから書きたかったけど、あまりに時間が足りなくて今回は断念。
・まだネーサーに来てそんなに経っていない前提。ちょいちょい隼人のことを「あんた」呼びする號くん。
・タイトルは「あなたとの関係」「あなたとの絆」というニュアンス。
◆◆◆
隼人は胸元に押しつけられた小箱を見下ろす。
「號、これは」
「今日、バレンタインだから」
號は単刀直入に言う。
「あんたに」
「——バレンタイン? 俺に?」
「ああ」
ニッと笑い、
「あんたには世話になってるし。義理チョコとも友チョコとも違うけど、せっかくだから」
ダメ押しのようにグッと小箱を押しやる。これ以上は潰れそう、という段になって、隼人は両手で受け取った。
「……世話、か」
チョコレートを渡されたのがよほど不思議だったのか、隼人の表情はいつもとは違う——ように見えて、號は目を大きくした。
驚きはもちろんあるだろう。けれどもそれ以上に戸惑っているような気配を感じる。普段なら「そうか、なら遠慮せずいただこう」とさらりとしているはずだ。
「…………神さん?」
「いや、何でもない。ありがとう」
長い前髪の下に微笑が現れる。だが曖昧な笑い顔で、號には何だか困っているように見えた。
「なあ」
違和感に、思わず口を開く。
「もしかして、チョコ、好きじゃねえとか?」
「いや、そういうわけではない」
「じゃあ何だよ」
「何のことだ」
「何の、って……その顔」
「顔?」
「ああ」
號はじいっと隼人の顔を見つめる。
やっぱり違う。
不意の出来事に驚いた、だけでは説明できない。何がどう、と訊かれたらうまく説明できないけれども、みんなの前で指揮を執るいつもの隼人ではない。
「何か、気に食わねえとこでもあるのか」
「いいや、何も」
「じゃあ、俺にチョコもらって嬉しいか?」
「ああ」
「…………」
しかし、どことなく居心地が悪そうだった。
「……やっぱ、何か誤魔化してねえか?」
首を傾げ、目の奥を覗き込む。隼人が苦笑を漏らした。
「誤魔化しているわけじゃない。ただ」
「ただ?」
「……お前を否応なしに地獄に引きずり込んだ張本人だぞ。それを世話と言うなんてな」
口の端が上がる。きっといつもの口調なら気にならなかった。「おう、だからチョコやるんだってば」と笑って返して終わりだ。けれども今はそうじゃない。乾いて、どこか寂しげな気がした。それはまるで——。
「神さん」
隼人の心の中は、誰にもわからない。わからないけれども、號に対してある種の申し訳なさを感じているのかもしれない。そう思ってしまった。
まるで、自分にはこのチョコレートをもらう資格がないと、そう言っているようだった。
「それはちょっと、違うぜ」
もし隼人が本気でそう考えているなら、違うと伝えたかった。
「違う?」
「ああ。どっちかって言うと」
一度、言葉を切る。大きく息を吸い込んで、號は言葉を継いだ。
「俺、あんたに拾ってもらった」
「————」
「俺、さ」
改まって言うのは何だか気恥ずかしい。鼻の頭がムズムズしてくる。それでも、今ここで言うべきだと思った。
「何もかんもなくなって、もう一生このまま行くんだろうなって思ってた。けど、ネーサーに来てそうじゃねえってわかった」
信じられないことばかり起きているけれども、なぜかすんなりと受け入れられた。実際の日数よりもずっと長くここにいるみたいに、居心地がよかった。
「前と同じものは手に入んねえけどさ、その代わり、新しいものがたくさん見つかった」
隼人はまばたきもせず、號を見つめる。號も、まっすぐに見つめ返す。
「俺、全部気に入ってる」
「……全部?」
「そ。ぜーんぶ」
「……」
「だからさ、あんたは——神さんはこれを受け取る義務があるってワケ」
人差し指でチョコの箱をぐいっと押す。
「なんたって、俺が頑張って作ったチョコなんだからな——ま、初めてなもんで、翔と剴に手伝ってもらったけどよ」
隼人の視線がゆっくりと胸元に落ちる。
水色のラッピングペーパーに、鮮やかな青のリボン。晴れ渡った空と、號のパイロットスーツの色だった。紙は少しだけ弛んで、角は歪に飛び出ている。そのラッピングが、號の奮闘ぶりを物語っていた。
隼人の目線が、小箱の輪郭を何度もなぞった。
「……そうか、俺にか」
呟く。その声は小さかったが、柔らかかった。
声だけではない。口元も目元も、取り巻く空気までもが柔く滑らかになった——そんな気がして、號は隼人の顔を覗き込んだ。
あ、と声をあげそうになって、慌てて呑み込む。同時に、心臓がどくんと大きく波打った。
「————っ」
息を止める。
「號?」
咄嗟に目を逸らす。
「どうした。……號?」
「い、いや、何でもねえ」
「そうは見えないがな」
「な、何でもねえってば!」
言い終わらないうちに背中を向ける。
「じゃあな!」
「號」
隼人の呼びかけにも振り向かず、號は早足に歩を進める。心臓がバクバクと跳ねている。顔中に血が巡っていくのを感じていた。どうしてかわからない。
わからないけれども、誰も知らない隼人を見た。直感した。
だってよ、と號は口の中で呟く。思い出してまた、顔が熱くなる。
あんな優しそうな顔するなんて。
しかも、そんな顔をさせたのは自分なのだ。
「う」
うわあ、と大声をあげたくなる。心臓はさっきよりも速く、大きく脈打っている。もう顔だけではなくて、全身が熱くなってきていた。
これじゃあまるで。
「そ、そんなんじゃねえし」
誰に言い訳しているのか。何の言い訳なのか。
號はぶるぶると頭を横に振る。
「そんなんじゃねえし!」
自分に言い聞かせるように叫ぶと、號は湧いてくる熱を振り払うように駆け出した。
