しょうがない奴

新ゲ弁隼R18/R18G

つきあってます。
夜の誘いを断られて「じゃあオナニー見せてくれ」と食い下がる弁慶と、断り切れずにお願いを聞いてあげる隼人のお話。隼人寄り視点。
結局最後まで致しております。約1万文字。

【注意】
・弁慶はS、隼人はMっぽい傾向。
・お互いに自慰を見せ合う状況になります。

◆◆◆

 食い下がってくる坊主頭に、隼人は盛大な溜息を吐きかけた。
「しつこい」
 重だるさが滲む声で遠ざけようとする。それでも弁慶は諦めなかった。
「なあ、頼むよぉ」
 撫で声と笑顔で揉み手をする。
「俺、このまんまじゃ眠れそうにねえ。もう三日もおあずけじゃねえか」
「お前はたったの三日も我慢できねえのか」
「そりゃあ、隼人が好きだからよ。毎晩……いや、毎日一日中だってしていたい」
「馬鹿を言え」
「馬鹿でも何でもいいからよ、ずっと隼人としたくて堪らねえんだ」
 大きな手が差し出される。隼人が一歩、後ろに下がる。うちわのような手は綺麗に空回った。隼人が鼻を鳴らす。
「生臭坊主、ここに極まれりだな」
「こればっかりはどうしようもねえんだ——頼む」
 ぱん、と音がする。弁慶が両手を合わせていた。ここだけ切り取れば坊主が合掌している姿だが、実際は煩悩の海にどっぷりと浸かって懇願しているだけだった。
「断る。今晩中に目を通したいデータがある」
「隼人ぉ」
「そんな声を出しても駄目だ」
 埒があかない。隼人は思い切り眉をしかめて背中を向けた。
「隼人、なあ、隼人ぉ」
 しかし一向にほだされる様子はない。弁慶は昨夜と同じにガックリと肩を落とす。そうしてまた同じく踵を返した。
 とぼとぼとした靴音に、悲嘆混じりの溜息がかぶさる。隼人の視線が揺れた。心から残念に思っている溜息だ。弁慶は嘘をつけない。誤魔化そうとしても三秒も見つめていればぼろ・・を出す。だから彼の本気はわかっていた。
 けれども、自分だって優先させたいことがある。恋人の心は大事にしたいが——すぐ調子に乗るからそんなことは意地でも言ってやりたくないが——自分のリズムを守るのも大切だった。
 弁慶に気づかれぬよう、隼人も溜息をつく。すると、
「そうだ!」
 突如声を張り上げ、ドタドタと靴音が舞い戻ってきた。隼人の表情が瞬時に険しくなる。
「なあ隼人! こういうのはどうだ」
「女でも見繕いに行くつもりか」
「へ?」
 弁慶が丸い目をきょとんとさせる。その反応で違うのだとわかり、隼人は舌打ちをした。
「あっ、隼人、お前もしかしてヤキモ——」
「してねえ」
 ふいと横を向き、もう一度舌打ちをした。弁慶は「んふふっ」を含み笑いをし、真ん丸の頭を撫でた。

「オナニー見せてくれよ」
 普段は表情をほとんど崩さない隼人が、思わず呆ける。
「俺は隼人のいやらしいとこが見られるし、お前だってすっきりするだろ? ずっとこもって頭使ってるとモヤモヤしてくるじゃねえか。だから、気分転換になって丁度いいだろ」
 まさしく『開いた口が塞がらぬ』だった。
「いい案だろ?」
 弁慶が覗き込んで無邪気に笑う。隼人はまだぼうっとしていた。
「手は出さねえからよ。なっ?」
「…………信用、できるか」
 ようやく隼人から言葉が出た。
「本当だって。俺だって隼人に触りてえし、中に突っ込みてえ。けど、隼人がしたくないってんなら、無理にはしねえよ。だから」
 ぱん、とまた綺麗な音が鳴る。
「隼人がしてるとこ、見せてくれよ」
 即座に「断る」と返せなかった。すかさず弁慶は「なあ、いいだろ?」と甘い声でねだった。

   †   †   †

 不満そうな、今にも毒を吐きながら噛みついてきそうな歪んだ表情も、弁慶にはたまらなかった。
「……隼人、その顔、興奮するぜ」
 はあっと息が吐き出される。それがどれほど熱を孕んでいるか、知らない隼人ではない。しかし今は素知らぬ振りをする。
「いいか、俺に触るなよ」
 鋭く釘を刺す。
「指一本でも触れてみろ。すぐに叩き出してやる」
「言っただろ、隼人がしたくないってんなら、無理にはしねえから。けど、これぐらいは許してくれよ」
 言いざま、ズボンの前をくつろげる。
「な——」
「自分でする分にはいいだろ?」
 隼人がギョッとしている間に素早く陽物が現れる。ポケットから菓子を取り出すように自然に、あまりにも手慣れた手つきだった。
 そこはすでに半勃ち状態だった。
「……盛ってんじゃねえ」
 隼人が舌打ちをする。弁慶は気にも留めず、くふりと笑った。
「お前のオナニーだぜ? そりゃあもう、ギンギンになるに決まってるだろ」
 触れていないのに、勃ち上がっていく。鈴口には溢れそうな兆しがある。隼人は凝視している自分に気づき——視線を逸らした。
 また、弁慶がくふりと笑った。

「隼人」
 耳元でささやかれているようだった。熱い息も、ぽてりとした柔らかい唇の感触も、耳朶に浮き上がってくる。太くて不器用そうな見た目のくせに、やたらと繊細に肌を動き回る指先も。
 隼人の身体は全部、覚えている。
「俺に触られなくたって、そんなに勃つんだな」
 弁慶がニヤリとして、好色な眼差しを投げかける。実体のないはずの視線に撫でられて、隼人のペニスがひくりと震えた。
「……っ、う」
 じわ、と先端から滲み出る。
「あれえ、隼人。お前もしかして……こういうのが好きなのか」
「う、うるせえ」
「ふうん?」
 笑顔に粘っこさが混じる。いつもは陽気な目が悪だくみに染まったように細くなった。じっとりとした視線を受けて、隼人のペニスがまた震えた。
「クソ……」
 隼人は一瞬だけ弁慶を睨み、それから目を閉じる。ふ、と短く息を吐いて手を動かし出した。
 先走りが広がり、にち、と音を立てる。肌を覆っていた羞恥はすぐに消え、意識は下半身に向く。
「ん、あ」
 次第に没頭していく。微かなベッドの軋みと呼吸音が室内に溜まっていく。ペニスをしごくたびに火照りが生まれ、体温が上昇していくのがわかった。
「ふ、く……」
 脚を広げる。ギ、とベッドが鳴る。もっとよく見ようと、弁慶が前屈みになったに違いなかった。
 目を閉じていても、弁慶の気配、視線、吐息、鼓動を感じた。ひとりでするときより明らかにペニスは硬く、太い。手を動かすたびに腰の奥だけではなく、頭の中も痺れてくる。ずっと溺れていたくなる快感だったが、実際にはそうもいかない。深いところから出口を求めて熱の塊が迫り上がってきていた。
 久しぶりの自慰であることを差し置いても、「見られている」という意識がかなり感度を高めているようだった。
「……っ、う」
「——隼人」
 熱のこもった吐息が零れる。その情を拾った耳から、全身にピリピリとした感覚が広がっていく。隼人は思わず手を止め、弁慶と同じように息をついた。
 このまま駆け上っていきたい気はあったが、すぐ果ててしまうのも嫌だった。自分の時間を取り戻すためには早く達してしまったほうがいいはずなのに、弁慶の言いなりになっているようで、癪だった。
 仕切り直そうと頭の隅で思ったときだった。
「……隼人、こっち見ろよ」
 太い声がゆっくりと背筋を撫でた。呼応するかように、隼人の鈴口からカウパー液が溢れてきた。
「なあ、隼人……」
 耳朶が震える。抗えない。隼人はうっすらと目を開け——想像以上の光景に息を呑んだ。
 弁慶のペニスは完全に勃ち上がり、腹についていた。先端からは我慢汁が垂れ落ち、肉茎の根元どころか陰嚢も、ベッドシーツまでをも濡らしていた。
 腹を空かせた肉食獣の口から涎が滴るのと一緒だった。
「あ……」
 ぞくりとして、隼人の先端からも溢れる。弁慶の肉塊は隼人のものよりも厚く、たくましい。血管が浮き出てびくつくさまはグロテスクと形容できるものだったが、隼人の視線を強烈に引きつけた。
「……ッ」
 口の中にその味が広がる。鼻腔の粘膜が匂いを思い出す。強いアルコールを一気に流し込んだときのように、隼人の意識がぐらりと揺れた。
「隼人、見ろよ」
 弁慶が自身の肉棒を掴む。自分のそこを握られたように、隼人の腰がきゅっと疼いた。
「俺も隼人のこと言えねえよな。見てるだけでこれだぜ」
 大きな手が二、三度、行き来する。それだけで巨体に見合うだけの先走りがどぷりと溢れてきた。
「は……ぁ……、あ……っ」
 隼人の下腹がうねり、喘ぎが落ちる。濃くなっていく雄の匂いを感じる。弁慶がまた手を動かす。つられるように、隼人は手淫を再開した。
「う、あっ……」
 さっきとまるで違う。自分の手なのに、弁慶の大きな手で包み込まれているような感覚だった。
「隼人」
「んあ……っ」
「ほら、こうしてみろよ」
「あ……?」
 弁慶が指先で亀頭をさする。
「こうやって」
「う……」
「指の腹でカリ首の下をなぞって」
「ん……!」
「ほら、ここをこうやってこするんだ」
「ふ、あ、あ」
「それから裏筋をこうやって」
「……っ」
「くすぐったくて、じれったいだろ」
 何も従う義理はない。弁慶の言葉は無視して自慰を見せつければ終わることだった。それなのに自分勝手にできない。
「お互いにいじってるみたいだよな」
 弁慶の言う通りだった。目に映るのは相手の自慰行為なのに、自分の肉体に同じ刺激が届く。不思議で、気持ちよくて、クセになりそうだった。
「じゃあよ、左手でこうして……先っちょをこうやって」
 くっと押す。先端の口が開く。
「隼人もやってみろよ」
「う」
「もう少しだけ、指に力を入れて」
 ギィッとベッドが軋む。
「あっ……」
「大丈夫だ、触らねえから」
 弁慶が前のめりになっていた。
「お前がちゃんとできているか見るだけだから」
 たかだか数十センチの距離なのに、感じる温度も湿度も跳ね上がる。
「ほら、きゅっと押してみろよ」
「う……」
 亀頭を指で挟んで押す。肉が開いて、隼人の内側がさらされた。弁慶がフッと息を吹き込む。瞬間、隼人の全身に電流が走った。
「ひあ——ッ」
「隼人、まだそのまま」
「……っく、ふ、ふざける、な……」
「ちょっと強かったか? ならもう少し抑えるから」
 くりくりとした目で見上げ、優しく言う。「断る」と強く撥ね退けられなくなっている己に内心で舌打ちしながら、隼人はもう一度亀頭を指で挟み込む。鈴口がぱくりと割れた。
「可愛い色してんな」
 弁慶はふうっと柔らかく息を吹きかける。ピリ、とした刺激がペニスの中から腰の奥に広がった。
「そうしたらな、右手の指でここを——」
 目の前に弁慶の指が差し出される。人差し指と中指が揃い、ゆっくりと弧を描く。
「こうやって、くるくるって撫でてみろよ」
「……っう、ふ」
「な? ただ撫でられているよりいいだろ?」
「う、あ」
「……ほんとはな」
 低く、脳の底をさらうような声だった。
「隼人のそこ、舌先でほじってやりてえ」
 ねっとりとした声が耳の奥を舐め回す。
「こうして」
 分厚い舌がぬめりと現れる。く、と舌先が器用に持ち上がり、宙をくすぐった。
「う——」
「なあ、今気持ちよかったろ。腹の奥がよ、びりっとして熱くなってこねえか?」
「……っう」
「はやと」
「——ッ!」
「先っちょ、いいだろ」
 また、弁慶の舌が卑猥に蠢いた。
「く……」
 もう無理だった。隼人は左手を動かし始めた。
「お、イクのか?」
 弁慶がくふ、と小さく笑った。それが癪に障り——隼人は竿を雑にこする。これ以上つきあっていたらおかしくなってしまう。弁慶の指と舌が欲しくなってたまらなくなる。そうなる前に、イッてしまいたかった。
「そろそろか?」
 弁慶も自身の竿をしごき出す。
「俺も気持ちいいぜ」
「う……っ、く」
 結びついた感覚が離れてくれない。振り切ろうとしても駄目だった。
 隼人は弁慶の手にしごかれながら達した。
 放たれた欲は想像以上に隼人の手を濡らし、滴る。ふたりの間に濃い匂いが立ち上った。
「やべえ、隼人の顔、すげえそそる」
 弁慶の鼻穴が膨らむ。竿をこする動きが速くなった。
「う、で、出るっ、く……っ」
 巨躯が身震いする。やや遅れて、隼人の鼻に弁慶の匂いが届く。ふたり分の精液が交わって、隼人の意識を揺らした。
「べんけ、い」
 隼人は舌を伸ばす。すぐそこに唇がある。あちこちに吸いついては隼人の快感を引き出してくれる唇だった。
「は……ぁ……」
 舌先から涎が落ちる。だが弁慶は巨体を後ろに引いた。
「触らねえ約束だからな」
 残念そうに、それでもどこかいたずらっぽさが覗く目で、隼人を押しやった。

   †   †   †

 当初の約束は果たした。これで隼人は自分の時間を取り戻せたはずだった。
 なのに、苛立っていた。
 身体の疼きが収まらない。かといって「俺に触るな」と撥ねつけた手前、愛撫を懇願するのはみっともなくて嫌だった。
「クソ」
 呟いて睨む。弁慶は鋭い目つきを受けとめ、笑う。
「したくなったか」
「……誰が」
 ふいと目を逸らす。本当は熱が灯ったままだ。この分では、弁慶を追い返したあとでもう一度自慰をする羽目になる。今度は後ろのほうで。
 ふう、と溜息が零れた。
「用は済んだだろ。これでとっとと帰——」
 刺のある声は途中で驚きに変わる。
 視線の先には、まだ勃ち上がったままの肉棒があった。
「な……」
 へへ、と申し訳なさそうに太い眉が下がる。
「お前があんまりにもいやらしくてよ。全然収まってくれねえんだ」
 一度目と変わらないほど滾っている。
「このままじゃ、服が着れねえ」
 軽くこすると、張り詰めた陰茎はあっという間にぬらついた。
「もう一発出すのにつきあってくれよ」
「……」
 ごく、と隼人の喉が鳴る。
「……しょうがねえな」
 そう、しょうがない・・・・・・
 うっすらと笑みが浮く。
 身体の中心から湧いてくるゾクゾクとした感覚に震えながら、隼人はゆっくりと股を開いた。

 腰を突き出し、見せつける。弁慶がニタリと笑った。
「ずいぶんとサービスがいいじゃねえか」
「嫌ならやめるぞ」
「誰も嫌だなんて言ってねえだろ。それより」
「何だ」
「お前だってここでやめたくねえだろ」
「——う、うるせえ」
 ギッと睨みつける。見透かされているようで——いや、事実、見透かされている——腹が立つ。
 けれども、ほんのりと嬉しさを感じるのも事実だった。
「さっさとしごいてイッちまえ」
 そう投げつけながら自ら餌になる姿は滑稽で、それでいて隼人の劣情を煽った。
 まだ肌に残る欲を指でかき集め、隼人は自らのアナルに塗りつける。一度は遠慮するようにすぼまる。だがすぐに隼人の指と弁慶の視線によって柔らかくなっていく。
「……っう、は」
 指の先を抜き差しし、拡げていく。奥のほうが刺激を待っているのがわかった。
 隼人の目が弁慶の股間をまさぐる。萎えることなく屹立しているそこは、絶えず溢れる我慢汁で濡れ光っている。爛々として、弁慶の瞳と同じように漲っていた。
「はやと」
 ふううっと息を吐き出し、弁慶の手が上下する。充血し切っているペニスは生々しかった。あれが、普段から隼人の中で暴れているのだ。
「……っ!」
 想像しただけで中が締まった。血が熱くなる。肉壁が弁慶の質量を思い出して騒ぎ始めた。
「は、あ……っ、あ、んっ」
 中指を挿れてこすり上げる。自然に腰が浮いて、気持ちよさを拾いにいく。
「あ、あ」
 しかし弁慶の指で、ペニスで慣らされた肉には物足りない。指をもう一本増やす。弁慶のいつもの動きをなぞるように掻き回す。
「あっ、あっ……あぁ」
 それでも足りない。カクカクと腰が動く。自分で慰めれば慰めるほど、覚えている弁慶の愛撫とはかけ離れていく。
「う、あ」
 目の前には怒張したペニスがある。隼人を思って涎を垂らし続けている。それなのに、自分は満たされない。
 その切なさが情けなくて、隼人は思わず呻いた。
「——なあ、隼人」
 弁慶が身を乗り出す。隼人はびくりと強張る。
「お前、自分の指じゃ足りないんじゃないか」
 視線で舐められて、アナルの奥が疼いた。
「もしそうだってんなら手伝ってやりてえけど」
「……ぁ」
「けど、隼人がしたくないことは無理にはしねえって約束だもんな」
「……っ」
 目が合う。心の裏側を覗かれて、指先でくすぐられている。「挿れたい」と言ってくれないだろうか、と隼人は願う。弁慶がどうしてもと言うなら、聞いてやるくらいの情けは持っている。
 しょうがない・・・・・・
 それで、自分は満たされる。弁慶だって満たされるはずだ。
 睨み上げる——期待を込めて。
 しかし、その企みはすぐに潰えた。
「これがバイブってんなら、話は別だろ」
 弁慶が己のペニスを指差した。
「…………は?」
「これは俺のじゃなくて、バイブ」
「な……なに、言って」
「だから、隼人が自分で挿れるんなら、セックスじゃねえよなあ」
 くい、と腰を突き出す。反動でペニスがぶるんと揺れた。
「今日はお前はそんな気分じゃねえ。けど、オナニーはする。俺に見せてくれる約束だもんな。それでもって俺のオナニーを手伝ってくれるんだもんな」
 ペニスが鼻先に差し出される。むせ返るような雄の匂いがした。どくりと鼓動が大きくなる。
「お前がひとり遊びしてるだけ——だろ?」
 どこにも触れられていない。弁慶ははじめの約束を守っていた。なら、隼人だって守らないといけない。
 だから、これはしょうがない・・・・・・のだ。
「……ああ、そうだ」
 口中に唾液が染み出す。隼人は舌で唾液を[[rb:掬 > すく]]い、弁慶のペニスにしゃぶりついた。

 バイブ・・・の用意はすぐに終わった。てらてらと光る肉の塊は出番を待ち侘びてひくついている。
「ほら、自分で挿れないと」
 促され、隼人は背を向けて弁慶に跨った。そこ目掛け、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「——ん」
 亀頭に触れる。隼人は腰を揺すり、先走りを塗りつける。それからさらにゆっくりと腰を沈めていった。
「う、あ、あ」
 自身の指とは比べ物にならない熱さと太さが身体を開いていく。肉の道をえぐられると、内臓がふわりと浮き上がるようだった。
「うあ……っ」
 時折休みながら徐々に飲み込んでいく。
「すっげえ……」
 背後から溜息があがる。尻の中でペニスが蠢くのがはっきりとわかった。
「ずっぽり挿入はいってるぜ。お前のあそこ、ヒクヒクしてる」
「……ッ」
「おほっ、締まる……っ」
 弁慶の身体が揺れる。その波が不意に隼人を押し上げた。
「んあ゛ッ」
 ぶる、と隼人が震える。
「……っく、あ、あ」
 全身を固くしてわななく。
「……何だぁ? もうイッちまったとか?」
「言う、な……」
「おい、ほんとにイッたのかよ」
「イッてねえ……っ」
 勢いよく否定したものの、身体が振れた反動で再び達する。
「う、あ……っ、あっ」
 身体が傾く。弁慶は咄嗟に腰に手を添えた。
「つらそうだから、補助をつけてやるよ」
「あ、ああ……」
「何せ、高性能なバイブだからな」
 意味ありげに笑う。含んだものを感じて隼人が振り向こうとしたときだった。
 腰が浮く。
「え」
 考える間もなかった。
 今度は引き寄せられる。ペニスが奥を押し拡げた。
「……ッ⁉︎」
 ちか、と隼人の目の前に星が現れる。状況が理解できないまま、再び身体が浮く。
 カリ首まで引き抜かれた陽根が、ぐぷ、と一気に突き進んできた。星が一面を真っ白に照らした。
「お゛、あ゛……っ」
「ピストン機能ももちろんついてるぞ」
 大きな手が腰をがっしりと掴み直す。隼人の喉から小さく悲鳴——というよりも歓喜——が漏れた。
「ほら、よ」
「————ッ」
 鋭い一撃を浴びる。肉を押し潰す衝撃は、隼人の脳天にまで到達する。
「あ゛……あ……ッ」
「弁慶印のバイブは優秀なんだぜ。せっかくだから、たっぷり味わえよ」
「——ま、待っ、あ゛ッ」
 肉同士がぶつかる。隼人の奥に穿たれた肉棒が、より奥を目指してぐいぐいと進んでくる。反射的に穴が締まる。だがたくましい陰茎に阻まれ、だらしなくひくつくだけになる。そこを幾度もこすられる。身体の真ん中に突き刺さった快感が、内臓を削り取っていくようだった。圧迫感で息苦しい。逃れたいのに、もっと強く掻き回して欲しくなる。
「うあ゛っ……あっ」
 突き上げに耐え切れず、崩れ落ちる。前屈みになった弾みでペニスが抜ける。
「あーあ、抜けちまった。……よっと」
 弁慶が上体を起こす。腿の上でヘタっている隼人の尻を鷲掴みにする。
「なっ……」
「もう満足したか? それとも」
 双丘を押し広げる。
「うはっ、やらしい眺めだな。隼人のここ、ぱっくり開いちまってるぜ」
 まだ角度を保ったままのペニスがそこを撫でる。
「もう少しオナニーしたいってんなら、手伝うぜ」
 膨らんだ亀頭で穴をつつく。
「……ッ」
「ほら、どうする?」
 くぽ、と先端が肉の中に沈む。隼人の尻が揺れ、飲み込もうとする。だが弁慶は腰を引き、ペニスを抜いてしまう。
「……う、く」
「なあ、隼人」
 また押し当てる。わずかに動かすだけで、ペニスの先は再び隼人の中に侵入した。
「ん、あ」
「黙ってると、自動で電源オフになっちまうぞ」
 くい、と軽く突く。隼人の全身がびくりと震えた。
「……に……ろ」
「うん?」
「いい、から……、……きに……ろよ」
「よく聞こえねえ」
 弁慶が身体を折るようにして顔を近づける。当然、ペニスはもっと奥まで挿入っていく。
「うあ、あ……っ」
「もう一度言ってくれよ」
 隼人を抱き寄せる。腰が密着する。
「ひっ」
「なあ、隼人」
 中をこそぐように腰を押しつける。
「うあっ、あっ」
「はやと」
 繰り返すと、隼人の肢体も中も痙攣し始めた。
「い、イク……っ、あ゛……っ、あ゛ッ」
 ぎゅっと拳が握られる。乱れた髪が、汗ばんだ肌に幾筋もの曲線を描いた。
「……イッちゃったのか?」
 弁慶が小さく腰を揺する。隼人の背中が反った。
「じゃあ今度は別のモードにしようか」
 ペニスは奥に収まったまま。弁慶は小刻みに腰を揺すぶる。
「んんあッ、あ゛ッ……」
 隼人がもがく。だが背中からしっかりと抱きしめられていて、到底逃れられない。中心深くに穿たれた快楽の印から、隼人を狂わせる蜜が滲む。
「お゛……っ、あ゛、あ゛」
「癒しの振動ってやつだ」
 一分の隙もなくずっぷりとはまり込んだペニスが絶えず揺さぶりをかけてくる。じっくりとしつこく、隼人の内臓を犯していく。熱くなった粘膜が溶けていく気がした。
 熱は次第に脳も溶かしていく。体内に充満する快感に押し上げられ、隼人の視界が涙でぼやけた。
「隼人、気持ちいいか」
「ん゛っ、ん゛う゛っ……」
 頷く。しかし揺さぶられながらでは、はっきりと示せない。
「うん? まだ足りないかな。どれ」
「————ッ⁉︎」
 振動が強く、速くなる。奥がこじ開けられる感覚がして、頭の中が真っ白になった。
「お゛、あ゛ッ——あ゛ッ」
 もうどんな声が出ているのかもわからない。ただひたすらに灼熱の棒で掻き回されているようだった。遠くから何か聞こえる。
「——はやと」
「……ッ‼︎」
 聞き慣れた、弁慶の声がする。
「はやと、気持ちいい……っ、は、はやと……っ」
 荒い息遣いと、自分を呼ぶ声がする。それだけで、隼人は満たされる。
「はやとっ、イク、俺もイキそう……っ」
「べ、べん、……け……っ」
 弁慶の匂いが隼人を包む。強く抱きしめられ、一番深い場所を捧げて、隼人は気を失った。

   †   †   †

「すまなかった!」
 ぱん、と濁りのない音とともに、弁慶の声が響く。
「つい盛り上がっちまった! なあ隼人、許してくれ!」
 神妙な面持ちで、合わせた両手を額の高さに掲げる。隼人は眉間に皺を刻んだまま、細く息を吐き出した。
「声がでかい」
「——お?」
「うるさいと言っている。そんなに怒鳴らなくても、聞こえている」
 ひとつベッドのそことここだ。それに、ほかには誰もいない。
「がなられると、耳の奥がキンとする」
「す、すまん。それより隼人」
「何だ」
「怒ってねえのか」
「…………別に」
 目線を外す。眉間の皺は深いまま。気を抜くと情事の余韻がよみがえり、表情がだらしなくほどけそうになる。きっと見た目にはさほど変化はないと思う。ただ弁慶にだけは見透かされてしまいそうで、もうしばらく落ち着くための時間が欲しかった。
「そ、そうか」
 弁慶は隼人が怒っていないと気づき、ようやく正座を崩した。
「お前が嫌がってるのに突っ走っちゃったかと思って」
 ようやく、安堵の息と笑顔が漏れた。隼人はそっと盗み見る。
 嫌ならそもそも恋人なんかやっていない。けれども——言ってやらない。
「……!」
 目が合う。弁慶がにかりと笑う。隼人はぷいと横を向いた。
「なあ隼人」
 そんな態度を気にするでもなく、弁慶がにじり寄ってくる。
「また明日も来ていいか」
 空気を伝って、弁慶の体温と匂いが隼人に触れる。隼人の眉間の皺がいっそう深くなった。
「……好きにしろ」
 ぶっきらぼうに落ちる。傍目には近寄り難さしかない。しかし弁慶はその音の流れに気づく。
「隼人」
 キシキシとベッドを鳴らしてもう少し近づく。隼人はますますぶっきらぼうに「何だ」と答えた。
「さっきもそう言ったんだな」
 ぴく、と隼人の柳眉が動いた。
「『好きにしろ』か。……んへへ、これが愛ってやつか」
 でれっと口元がゆるむ。反対に、隼人の口元は不機嫌そうに歪んだ。
「お、照れてんのか」
 弁慶の指が隼人の頬をつつく——その前に、隼人の指が弁慶の耳を引っ張った。
「いでででっ」
「調子に乗るな」
「のっ、乗ってねえよぉ」
「ふん」
 しょうがない奴だ、と思う。
 だがその弁慶に輪をかけてしょうがないのは。
「隼人?」
 気配に弁慶が顔を上げる。
「……本当に、しょうがねえな」
 口づける寸前、隼人の唇に微かな笑みが浮かんだ。