つきあってます。
竜馬が新宿にいた頃、ちょっとハレンチな写真のモデルバイトをしたことがあると知った隼人が嫉妬するお話。キスまで。隼人一人称。約1,200文字。2021/1/10
※R18じゃなくていいのかもしれませんが、迷ったのでつけます。エロいのを期待している方にはご希望に添えないです。
◆◆◆
黙ってA4の紙を差し出す。印刷された画像を見ても竜馬の顔色は変わらなかった。
「ああ?」と不審そうに首を傾げる。
「これ、お前じゃないのか」
「ンん〜?」
手に取り、首の角度に合わせて斜めにする。そして「あっ」と声をあげた。
「これ、どこで見つけたンだよ」
竜馬が笑う——こっちは笑い事ではない。
「新宿の、ウリ専店のサイト」
何故、そのサイトを閲覧していたかは伏せる。幸い、訊かれない。
「いつ?」
「さっき」
聞いて竜馬は「うわ、マジかよ」と心底驚いた顔をし、店名を目で追った。
「何年前だっけかな、頼まれてモデルやったンだ」
新宿にいた頃、顔馴染みの経営者に頼まれ、在籍している体で指名用の写真を撮ったのだという。
「確か、結構いい金になったンだよな。けどよぉ、今も使ってンなら追加料金もらわねえと割に合わねえじゃねえか。あのオッサン、ケチくせえなあ」
俺にとっての問題は、そこではない。
「にしても、よく俺だってわかったな。名前も違えし」
紙を翻す。ビキニブリーフ一枚で、右手で目元を隠した男の姿が目の前をちらちら横切る。
若く、鍛え上げられた肉体は人目を引く。きっと相当に指名が入ったろう。ただし、接客中だの休みだの誤魔化されて、本人には会えない。
「……何だよ」
黙っている俺に気づいて、竜馬が言う。
「ヤキモチかよ」
嘘をついても仕方ないから、そうだ、と答えた。
「おめえも、なかなか人間らしいじゃねえか」
竜馬はしてやったりという顔を向けてきた。
「昔のことだし、写真だけだって」
「わかってる」
そうだ、わかっている。
過去をほじくり返しても何にもならない。
だが、写真は何枚撮ったのか、戯れに尻くらい触られたんじゃないのか、カメラマンの目の前で着替えたのか——。
下衆な問いが浮かび上がってくる。
竜馬の言葉に嘘はないだろう。だから、この話はここで終わる。
俺は問いを呑み込む。
それでも胸の奥がモヤつくから、ひとつだけ訊ねた。
「もしこれが俺なら、お前は嫉妬するか」
カメラマンに舐めるように見られて、見知らぬ多数の男の好色な視線に晒される。
「あー……」
竜馬は考えている。
やがて、左の親指と人差し指で物差しをつくった。
「これぐれえは、ヤキモチ妬くかも」
そうではないのに俺に気を遣ったのか、照れ隠しにその程度に抑えたのかはわからない。だが、素直に言ってくれたことで少しはほっとした。
もし嫉妬されずとも、される度合いが5cmでも、エベレスト級でも同じだ。竜馬には俺だけを見ていて欲しい。
これから俺は、きっと、もっと、躍起になるのだろう。竜馬のことで一喜一憂するのだろう。
どんどん、竜馬の言う「人間らしい」男に、ただの男になっていく——。
「竜馬」
「うン?」
「お前、ムカつく」
一瞬、きょとんとして、それから竜馬は目をつり上げた。
「隼人、てめえ、」
その次は「ふざけンな」に決まってる。
だから俺はキスをして、唇を塞いだ。