おつきあい中。
前半、竜馬と弁慶がパスワードを考えないといけなくなり、うんうんしてるところに隼人が優しく(?)アドバイスしてくれます。流れでミチルのパンツの話になります。
後半は隼竜ピロートークメイン。挿入シーンはないですが、素っ裸でいちゃいちゃキスしたり舐めたり。ベタなただのスケベネタ。尚、第2話冒頭の隼人の名言は出てきません。あしからず。約5,000文字。2021/4/21
◆◆◆
生き死にでもかかっているかのように思いつめた表情で、竜馬と弁慶はテーブルに置かれた紙を凝視していた。
「……おい、竜馬」
弁慶がささやく。
「これ、わかるか」
「……わかる訳ねえだろ」
小声で竜馬が応じる。
「日本語で書きやがれ……」
「俺、眠たくなってきた」
ふたりの溜息が重なる。
「日本語で書いてあるでしょ」
ミチルの冷静な声が降る。
「これの通りだから」
「……ぐぬ」
竜馬が唸る。
手渡された用紙を穴のあくほど見つめても、ふたりには宇宙語としか思えなかった。
「セキュリティ上、最低大文字の英字ひとつ、英数字記号の組み合わせで十三文字以上じゃないと設定できない仕様だから」
ミチルは紙の端をパン、と右手の甲で弾き鳴らし、
「詳細は神君に」
身を翻した。
「えっ、えっ、ミチルさん!」
弁慶は慌てて立ち上がる。だがミチルはいつもの如く振り向きもせず、ヒールの音を響かせて去っていった。
「あ〜、行っちまった……」
名残惜しそうに弁慶が閉じた扉を眺める。やがて項垂れ、しおしおと座った。
「やっぱり鬼娘だな」
竜馬は唇を突き出す。
「なあ、そもそも何で必要なンだよ」
隼人が目を見張る。
「……お前、聞いていなかったのか」
「あー……キュウヨ? えー、メーサイ?」
胡散臭い片言が飛び出た。
「…………給料がいくらもらえるか、書いたものだ。見るためにパスワードが必要になる」
「ンなの紙でいいじゃねえかよ。月の終わり頃だっけか? 部屋のポストに入ってる封筒だろ」
「毎月ちゃんと確認して、取っておいているか」
竜馬はふるふると首を横に振った。
「最初は見てたけど、ここしばらくは見てねえな。そのまんまだ」
「なら、紙の無駄だろう」
竜馬がむくれる。
「来月から変わる。印刷して個別に封筒に入れる手間と紙の消費量を抑えるためだ。これからはイントラネットにアクセスして、今から決めるパスワードで個人のページにログインしろ。PDFファイルで見られる。必要ならプリントアウトしろ」
言い終えてふたりを見る。
竜馬は小さな子供が苦手な食べ物を噛み潰した時のように口を横に広げて心底嫌そうな顔をしていた。弁慶は、当然——。
隼人はおもむろに右手を伸ばして中指を引く。親指で押さえて思い切り弾いた。
「とにかく、何かパスワードを考えろ。設定は俺がしてやるから」
「……パスワードったって、なあ」
赤くなった額の中央をさすり、弁慶は竜馬と目を合わせる。
「アルファベットと数字と記号の組み合わせを考えろ」
仁王立ちし、隼人はふたりを見下ろした。
「もう隼人がやってくれよぅ」
弁慶が紙を放り投げてテーブルに突っ伏した。竜馬が「俺も」と真似をする。
「……お前ら」
隼人が目をつり上げ、口角を下げる。それを見た竜馬が「器用だな」と笑い、更に目をつり上げさせた。
「俺が考えたら意味ないだろう」
「給料がいくらかなンて、見られたって死ぬ訳じゃねえだろうが。それに、たいした金でもねえし」
「そういう問題じゃない」
「でもよぉ、設定すんのは隼人だろ。『他人に知られないように』って俺たちがこっそり考えたって、隼人は見るんだから同じじゃねえのか」
余計なところだけ鋭い弁慶に、隼人は舌打ちをした。
「そうだな、確かにセキュリティ上はよくない。だから設定もお前ら自身でしろ」
鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ああ〜隼人ぉ、怒んねえでくれよぅ」
弁慶が拝む。竜馬はボールペンを鼻の下と上唇の間に挟んで既に遊んでいた。
「……なら、日本語でいいから、何か文章を考えろ」
「日本語?」
「ああ。それを元にしてパスワードを作る」
「だってよ、竜馬」
「日本語ねえ」
「どうやって作るんだ?」
「まず文章をローマ字に直す。ヘボン式でいい。その際に助詞を——」
「は、隼人! 待て……!」
弁慶が大きな手を広げて制する。眉間に苦悩の皺が寄っていた。
「やめてくれ、寝そうだ」
「俺も寝そ……ふわぁ」
竜馬があくびをする。
隼人は天井を仰ぎ、溜息をついた。
「わかった。なら」
目を閉じ三秒ほど考えて口を開いた。
「ミチルのパンツは黒い紐パン」
「何だと⁉︎ お前、見たのかっ⁉︎」
聞くなり弁慶が気色ばんで立ち上がる。隼人は冷たい目で睨む。
「見ていないし、知らん。お前が好きそうだと思ったまでだ。何なら赤いTバックでもいい」
「ああ、そうかぁ」
安心したようにほうっと弁慶が息をついた。
「それで作れンのかよ」
竜馬が訊くと隼人は頷いた。
「俺も同じ方式で作っている。日本語じゃないがな」
「へえ、どんなブンショーなンだよ」
「秘密だ」
竜馬を見つめて答えた。
「ちぇっ、スカしやがって。ところで弁慶よぉ」
「何だ」
「おめえ、何色のどんなパンツがいいンだよ」
本当に腹を立てた訳ではないので、あっさりと話を切り替える。
「そうだなぁ……」
弁慶は首を傾げる。
「控え目なレースのついた真っ白なパンツかなぁ」
人差し指でショーツの形を宙に描く。その目はミチルの下着姿を思い浮かべているようで、鼻の下がでろんと伸びて締まりがなかった。竜馬は頬づえをついて「でもよぉ」と続ける。
「しばらく経って『黒だっけ』『紐パンにしたっけ』とかならねえか? 俺ならそン時の気分で変わりそうだな」
「え——ああ、確かにそうかもしれねえなあ」
「ならいっそノーパンの方が忘れねえンじゃねえの?」
「なるほど! ノーパンか!」
「いや、待て。それよか、すっぽんぽんの方が」
「それだ! おい、隼人!」
弁慶が見ると、隼人は左手で顔を覆って俯いていた。
結局、ああだこうだと収拾がつかず、パスワードは隼人が考えることになった。そのメモをふたりに手渡し、くれぐれも捨てるな紙飛行機にするなと言い含めた——無駄だとわかっていたが。
† † †
「つけるぞ」
隼人が照明のリモコンを押す寸前、竜馬の声が飛んだ。
「ちょっと待て」
何やらゴソゴソとやっている。
「おう、いいぜ」
室内が明るくなる。眩しさに竜馬の目が細められた。タオルケットを羽織り、くるまるようにしてベッドの上に座っている。
「……今更、恥ずかしいのか」
隼人の問いに、ぷうと頬を膨らます。
「恥ずかしいに決まってンだろ」
「電気をつけたままの時もあっただろうが」
「あるけどよぉ……恥ずかしいモンは恥ずかしいンだよ」
特に今日は、昼間の仕返しとばかりにあちこちにキスマークをつけられた。その時の自分の痴態が思い出されるので尚更だった。
「ふうん」
隼人は興味なさそうな顔つきで竜馬に寄る。
古いベッドフレームがギシ、と音を立てた。
「何だよ、はや——」
右手が伸びる。
人差し指と中指で首元のタオルケットを下に引っ張る。胸につけられたいくつものキスマークが覗いた。
「だっ……ばっか……!」
竜馬は慌てて布の乱れを直す。
「綺麗についているじゃないか」
くつくつと隼人が笑った。
「くっそ」
「お前が挑発するからだろう」
「別に——」
言いかけて、キスで塞がれる。下唇を軽く食まれ、内側をそっと舐められる。
「ン……」
隼人の口づけはいつも竜馬を蕩けさせる。
何度か唇を重ね、ようやく隼人が離れると、竜馬はふわふわと夢を見ているような呆けた顔をしていた。
「そんなに気持ちよかったか」
「え……」
肩からタオルケットが滑り落ちていた。
「おわっ」
急いで股間と胸元を覆う。
「恥ずかしがる必要もないだろう」
「うるせえよ。俺が素っ裸でウロウロしたらおめえぜってえ『パンツくらい穿け』『少しは恥じらえ』とか言うだろ」
隼人はしばし考える。そして、
「言わんな」
表情を崩さずに答えた。
「お前の裸ならいつでも見ていたい」
「はあぁッ⁉︎」
しれっと言われて竜馬が思わず声をあげた。
「俺だけが知っている、お前の身体——」
隼人はタオルケットの下に手を滑り込ませる。
「わっ、ばか!」
びくりと竜馬の身体が仰け反る。隼人はその鎖骨に口づけた。
「あ、あ……」
竜馬は身を震わす。布で隠れている分、隼人の指の動きが読めない。思わぬ箇所を不意に触られて、その度に喘いでしまう。
「はう……あっ、あぁ」
いつの間にかまた裸体を晒していた。
「ン……あ、えっ」
ひょいと身体を裏返され、腰を持ち上げられる。
「おめっ……何す、っン!」
四つん這いに文句をつけようとするが、途切れる。隼人が秘所を指で弄び始めていた。
「ふ……ん、ンんッ」
緩い快感が広がり、徐々に竜馬の尻が揺れ出す。
「ば……か」
散々したばかりだろう、という責める気持ちと、もう一度開いてなぞり上げて欲しいという願いが交錯する。
「竜馬」
隼人の唇が背中を口づけしながら登ってくる。耳元まで辿り着くと優しくささやいた。
「ここに、ホクロがあるのさ」
「ん、ン……え……?」
「お前が自分で見えないところ。ここにあるホクロのことと数をドイツ語にしてパスワードに使っている」
くい、と中指で窄まりを押した。簡単につぷりと第一関節まで挿入る。
「ンッ、や」
再び敏感にされた身体が疼く。
もっと、とねだるのは負けた気がして悔しい。けれども火種をくすぶらせたまま放り出されるのも嫌だった。
「あっ……ン」
密やかに隼人を見つめる。
気づいた男は口の端を上げて愉快そうに訊ねた。
「もう欲しくなったのか」
指を奥に進める。
「あ……っ!」
ゆっくりと掻き回され、撫で上げられる。
「ふうっ……んあっ、あっ」
「うまくおねだりできたら、もっといいモノを挿れてやるよ」
言われて竜馬が顔をしかめる。
「だっ……誰が、あぁンッ」
「じゃあ、やめようか」
「くっ——あっ、この……ッ」
竜馬が身をよじり、隼人の身体を押しのける。小さく息を弾ませながら睨みつけた。
「……全部されっぱなしで、ムカつく」
「なら、どうする?」
隼人が不敵に微笑む。
「俺もやる」
「うん?」
「俺しかわかンねえ隼人の何か——」
そこまで言って竜馬はニヤリとする。
足元に溜まっていたタオルケットを引っ掴む。
「いいか」
人差し指を隼人に向けた。
「おめえのチンポにホクロがいくつあるか数えてやるよ!」
最高の遊びを思いついた子供のように得意げに宣言した。
「お返しだ」
「……何?」
「そのホクロの数、ぱすわーどにしてやるからな!」
フンッと鼻息を強くし、タオルケットを頭から被るとそのまま隼人の下半身を覆った。
「りょう——ん」
触れられて隼人の声が漏れる。
「……おい」
すぐに不審げな響きが布の中からあがった。
「何だ」
「もう硬くなってきてンだけど」
「今ので興奮した」
指の動きが止まる。
「どのみち、勃っている状態じゃないと数えられないだろう?」
隼人が笑ってタオルケットの上から竜馬の頭を撫でた。
「……しょうがねえなあ」
竜馬の返しにも笑みが混じっていた。
再び指が動き出す。巧みとは言えないが、気持ちよくさせたいという健気さが伝わってくるので、隼人は竜馬にしごかれるのが特別好きだった。
「ん、は……」
隼人が吐息をつくと、生暖かくぬめりのある感触がした。
「んうっ」
竜馬の唇が這い、舌が竿を舐め上げているのがわかった。小さく水音が聞こえてくる。
「はあっ……竜、馬」
「……あんだよ」
口をつけたまま応じて、すぐにまた愛撫を始める。
「ひとつ……んっ、大事なこと、を……忘れている……ぞ」
タオルケットをめくり上げる。
隼人のモノを愛おしそうに咥えてうっとりしている顔が露わになった。
「明るくなけりゃ、はあ……見えない、だろう?」
「…………ふぁ?」
寝ぼけているような声と瞳。
状況が理解できていないのだとわかる。
「……へ」
竜馬の時間だけが止まったようだった。
隼人はその頬に手を添え、そっとさすった。
やがて竜馬の目が大きく見開かれて、
「なっ——」
ペニスを離す。
「この方が、よく見えるだろう?」
「あっ、な、ンなっ、おめ、えっ……!」
隼人の口から抑えきれない笑いが零れると、呼応するかのように竜馬の顔が真っ赤になった。