8月2日はバニーの日らしいので書きました。おつきあい中。
バニー服を着る羽目になった竜馬と、その姿に興奮する隼人のお話。
本番行為の描写はありません。ご了承ください。
なお、パンツの日でもあるようです。図らずもパンツネタもちょっと入ってます。約8,000文字。2021/8/2
◆◆◆
特賞、と聞いて竜馬の顔が輝く。
「食いモンか? 肉か? 酒か?」
「ポテチ一年分とかだったら少し分けてくれよ」
「ビールと交換ならいいぜ」
弁慶と楽しげに語らう。だが一分後、竜馬の表情はこの上ない仏頂面に変貌していた。
「……ふっざけんな」
地の底から響くようなドスの効いた声。
「誰が着るか‼︎」
「恒例なの。参加したからには拒否権はないわ」
「当たったのがおめえでもかよ!」
「当然」
ミチルは鼻で笑う。
「『知らなかった』『勘弁してくれ』では済まされないのよ、この納涼会のビンゴ大会は」
「くっ……」
竜馬が歯噛みする。やや遠巻きに見ている所員たちは、竜馬がキレて暴れ出すのではないかと更に後退りした。
「仕方ない、諦めるんだな」
すっと隼人が近寄り、なだめるように竜馬の肩に手をかけた。竜馬は面白くなさそうに横を向く。
「他人事だと思って」
「他人事だからな」
「……くそっ」
観念したように腕を組み、
「それで⁉︎ 着るだけでいいのか⁉︎」
やけくそ気味に訊いた。
「写真を何枚か撮影させてもらうわ」
「しゃ、写真んんっ⁉︎」
「そう、写真。みんなにお披露目よ。それと、衣装はあげるわ」
「い、いらねえよ! もらっても何すンだよ!」
「オーダーメイドだから他に使い道がないの。まあ、何ならそういう趣味の人に売りつける手はあるけど」
ミチルがニヤリと笑った。
「——っ!」
着用済みを見知らぬ誰かに渡すということか。竜馬の顔が青くなる。
「今のは冗談よ。そんなに嫌がらないで。しっかり作られた高級品だし、結構クセになるって評判なのよ」
「……ク、クセ?」
「そう」ミチルは意味ありげに目を細めた。
どういうことかわかるか。
振り向いて隼人に訊ねようとして——その目が自分をじいっと見つめていることに気づき、息を呑む。
——何だ?
ぞわりと悪寒が走った。慌ててミチルに視線を戻す。
「副賞で十万円つくから、それで気晴らしするといいわ」
「十万⁉︎」
横から声をあげたのは弁慶だった。
「ほ、本当にアレを着て写真を撮るだけで十万円もらえるのか」
「ええ、そうよ。でも残念ね、権利の譲渡は禁止よ」
そうかぁ、と心底がっかりしたように弁慶が言った。
「何する気だったンだよ」
「大方、街に下りてキャバクラかソープにでも行くつもりだったんだろうさ」
代わりに隼人が答えた。
「マジか。おい、どうなンだよ」
竜馬に訊かれ、弁慶はにへへ、と眉毛を下げて笑った。
「呆れた野郎だな。……ま、おめえはアレを着る着ねえとかじゃなく、ケツの穴まで平気で出すような男だからな」
竜馬がからかうと、脇で聞いていたミチルが何か思い出したのか、顔をしかめた。
「……とにかく、拒否はできないわ。これはお楽しみ行事なの。流君はパイロットスーツを作る際に採寸しているから、そのサイズで発注するわ。届いたら呼び出すから、よろしくね」
鬼の上に悪魔だな。
竜馬は心の中で毒づいた。
† † †
「何でいるンだよ」
「お前が心細いかと思って」
衣装が完成したから撮影に来なさい。
ミチルに呼び出され、指定の部屋に行くと隼人もいた。
「気を悪くしないでね。大丈夫だと思うけど、万が一流君が着たくないって暴れたら私たちじゃ手に負えないから、来てもらったの」
——ちぇ。
本当に竜馬を心配しての行動ではないと知り、がっかりする。睫毛を伏せて小さく溜息をついてから目線を上げると——隼人と目が合った。
「——」
気づかれたくなくて、すぐに目を逸らした。
キツい、ふざけンな、いい加減にしろ。
散々に文句をつけながらも、撮影は無事に終わった。
「ご苦労様。副賞はあとで現金で届けるから。衣装はそのまま持ち帰っていいわ」
「あ゛ー……わあった」
力なく竜馬が答えた。
カチューシャについた耳が本物なら、疲れ果ててきっとしおれているだろう。
「……ゲッターに乗って一日中闘ってるほうが疲れねえわ」
盛大な溜息とともにカチューシャを外す。隼人が手を差し出した。
「待っててやる。着替えて来い」
カチューシャを受け取り、抱えていた竜馬の服を渡す。
「おう、悪ぃな」
やっと部屋に戻れる。
竜馬は安堵の息をついた。
「なあ隼人。ほんとに見なかったか」
自室に戻る途中。もう五度目だった。
「見なかった」
隼人の回答も五度目。
「っかしいな」
首をひねる。若干、歩き方が不自然だった。
「ないものは仕方ないだろう」
「けどよぉ、確かに——あ」
話しているうちに部屋に着く。
「寄ってくか?」
竜馬は無邪気な顔で訊く。
「ン? どうした?」
「……ああ、寄らせてもらう」
ゆっくり隼人は答えた。
† † †
「しっかし、何だってンだ」
ビンゴの一番いい景品がオーダーのバニー衣装とは、早乙女研究所は一体どうなっているのか。
「ゲッター線に脳味噌やられっと、そうなるモンかよ」
わっかンねえ、とボヤく。
「一番いい写真を使いたいからって、あんなに枚数必要ないだろう?」
それによぉ。
ひとしきり吐き出したあとで、隼人がずっと黙したままなのにやっと気づいた。
「隼人?」
聞いてはいるようだが、竜馬をただ見つめている。
「どうした?」
隼人、ともう一度呼ぼうとして——キスで封じられた。
「……ン」
短いキスを重ねて隼人の唇が離れる。
「……何だよ、俺のバニー姿を見てコーフンしたのかよ」
からかうと、すぐに「ああ」と返ってきた。
「——」
自分から向けておいて、素直に言われると恥ずかしい。
竜馬は俯いた。
「もう一度、着てくれないか」
隼人の声が静かに降る。
「……へ」
「俺のためだけに、着てくれないか」
顔を上げる。至って真摯な眼差しが目の前にあった。
「あ゛⁉︎ や、いや」
「ひとりで着られないなら手伝う」
「……いやいやいや」
男のバニー姿を見て何が楽しいんだ。
「お前のだから、見たい」
まるで竜馬の考えを読んだように、隼人が言った。
「だが、お前のことだ。言われて『はい、わかりました』と従うのも癪だろう?」
「む」
「怒るな。だから、交換条件だ」
「交換条件?」
「ああ。あの写真、本当に所内の掲示板用だけだと思うか?」
「……いや」
あやしいに決まっている。隼人のように頭が回るわけではない。「何があるのか」はわからなくても「何かある」のは感じた。自分の勘には自信がある。
「ある人物に渡っている」
「……ある人物?」
「研究所が裏で政府と繋がっているのはお前も知っているだろう?」
「ああ」
どこでどれだけ暴れても、ゲッターロボや早乙女研究所の名前は一切表に出てこなかった。一般の目撃者も少なからずいるはずだ。ただ、自分が見聞きしたものを確かめる術がまったくない状態だった。ゲッターに関わるものは明らかに存在を秘匿されている。それに金も人員も、常にどこからか湧いているようだった。異様な特別扱いは竜馬でもわかる。
「政権が変わってもな、その裏側にいて口を出せる奴がいるんだ。そいつが国家予算をちょろまかして研究所に回すよう指示を出している。どうもそいつが無類のバニー好きらしくてな」
「はあ?」
「男でも女でもいい、ただし素人」
「そんなに金も力もあるンなら、いくらでも素人集めて着せられるじゃねえか」
新宿で「十万円払います」と声をかければ、たちまち列ができるだろう。
「金に群がる者には興味がないらしい」
「……へえ? でもミチルが十万円くれるって」
「それはあくまでおまけで、おそらく研究所がちょっとした心づけでやっているものだろう。人選も完全にランダムだから、研究所の場合は『金ありき』とは違う」
「そんなモンかあ?」
「金で釣ると、どうしても媚びが出る。そうじゃなく、初めは嫌がったり戸惑いながら、徐々に慣れ、最後は撮られることに意識が向くようになっていく。自分のお気に入りのバニースーツを着た人間が、そんなふうに変貌していく様を眺めるのが好きらしい」
「でもよ、それって特賞じゃなくて、イケニエじゃねえか」
竜馬が眉をしかめた。知らない人間に自分の写真が渡るのは不気味で最悪だった。隼人は「まったく」と同意する。
「そんなわけで、お前の写真はちゃんとすり替えておいた」
「えっ」
「カメラマンと取引して、あらかじめ細工しておいたデータと取り替えてもらった」
「……」
竜馬はぽかんと口を開ける。
「……おめえ……いつの間に」
「時間はあったしな」
竜馬の頭を撫でる。
「あの写真は俺が没収した」
「おめえがかよ」
「そうだ」
あんなに恥ずかしげに目線をくれる竜馬の写真——しかもバニー姿——など、一生かかっても拝めない代物だ。
「おめえも大概だぜ」
ふ、と竜馬の表情が和らいだ。それから、不思議そうに首を傾げる。
「ン? ……じゃあよぉ、誰の写真と取り替えたンだ? まさか、ミチル?」
「いや」
「……もしかして、弁慶?」
「いや」
「…………え」
「早乙女の写真を使って、バニーの格好をしているように加工した。まあ、バレないだろう」
竜馬が勢いよくブッフォ! と吹き出した。
「ンなっ、ひはっ! うっそだ——ぐはッ」
想像したのか、息を止めては吹き出し、笑い転げた。
「やっべえ! 隼人、おめえ天才!」
つられて、隼人の口からも次第に笑い声が漏れる。
「意外とヒョーバンよかったらどうすンだよ! くはっ」
「ふふっ、早乙女なら、ゲッターの研究ができればバニーの格好くらいどうってことないだろうさ——ククッ」
顔を見合わせる。
ひとしきり笑ったあとで。
「いいぜ」
竜馬がご機嫌な顔で言った。
「バニーの衣装、着てやるよ」
隼人の鼻先にキスをした。
† † †
「背中のチャック上げてくれよ」
「このつけ襟も後ろのボタン頼むぜ」
言われるままに、隼人は手伝う。
「開店前のキャバクラのねーちゃんとボーイみてえ」
カフスを留めながら竜馬が笑った。
「おめえ、顔も頭もいいから黒服なんかぴったりだな。スーツも似合いそうだしよ」
「……店には内緒でつきあっているふたり、とか」
剥き出しの肩に隼人がキスをした。
「ン、へへ、そういう『ごっこ遊び』もありか」
「本気にするぞ」
「やなこった」
「やってみたら意外とイイかもしれないぞ」
「い、や、だ」
つんと横を向き、
「バニーで我慢しろよ」
言った。
「ああ」
隼人が背後からそっと抱きしめた。
「……あとは、これだな」
ふわふわの白い尻尾。
「つけてくれよ」
スナップボタンで着脱可能になっていた。
ぷち、ぷち、と小さな音がして、やがて竜馬の尻に可愛らしい尻尾が生えた。
「それで、これ……っと」
ぴんと立った耳を装着する。
「これで全部か」
どうだ、と隼人から一歩離れ、くるりと回ってみせる。
「……」
さすがにパーティーグッズの安物とは質が違う。生地も縫製も形も堅実で、値段は見当もつかないが高級なものだと一目でわかる。
「どんな着心地だ」
「あー、すげえぴったりしてる。キュッて吸いつく感じ。キツいっちゃあそうなンだけどよ、苦しいとは違うかな。ただ、動きが限られる」
胴体に入っているボーンをさする。
「けどよ、全然ずり落ちたりしねえし、ゆるいとこもねえのって、すげえよな」
もう一度くるりと回転し、腕を上げ下げしたり、腰に手を当てて軽くポーズを取る。
鍛え上げられた男性の肉体なのに、女性の曲線の優美さとは異なるのに、漆黒の衣装に包まれた竜馬の肢体はこの上なくしなやかで上品で、蠱惑的な魅力を振り撒いていた。
隼人は心の中で竜馬のくじ運に感謝をする。
「掲示板の写真はもうしょうがねえけどよ、おめえにだけってのは、気が楽だ」
はにかむ。
言われて、真に運がいいのは己だと思い至った。
改めて耳の先から足先までじっくり堪能する。
「へへ、あんまりジロジロ見ンなよ。……スケベ」
照れ臭そうに、竜馬は背中を向けた。それから「あ」と小さく声をあげた。
「そういや、靴がまだだった。えーと」
ベッド脇に揃えられているヒールに気づく。
「あったあった。隼人、ちょっと支えてくンねえか」
隼人を後ろに立たせ、腰を支えてもらう。
「女って、よくこういう靴履けるよな。おっかねえ」
右足を突っ込み、踵を押し込もうとする。だがヒールが横倒しになる。
「あー、くそっ」
爪先で直そうとするが、ヒールは奥に逃げていく。
「隼人、置き直してくンねえか? これ、固定されてて腰が曲げられねえンだよ」
「ああ」
隼人が屈み、右手を差し出そうとして。
「————」
動きが止まる。
「……? 隼人?」
竜馬の後ろでうずくまっている。
「何だ、どうし——」
言い終わらぬうちに、隼人の両手が竜馬の尻を鷲掴みにした。
「うひゃあっ!」
思わず大きな声が出る。
「ひゃ、あっ、あっ、ばかっ」
ぐにぐにと揉まれ、羞恥と快感が一気に身体の中を駆け上ってくる。もともと際どいラインが尻の肉に押し上げられ、割れ目に食い込んでいく。
「——ッ!」
びくん、と跳ね、それから竜馬が固まった。
「は、隼人……?」
尻の間に妙な感触を覚える。
「うあ……や……」
間違いない。
熱い息がかかる。
「やめ、そんな……とこ」
隼人の鼻先が双丘の間に埋められていた。
「あ、だめ、だ……」
隼人はそこに唇を押しつけた——自分のものだと印をつけるように。
「ふぅんッ」
甘い声があがる。
「は、やと……!」
衣服越しでもわかる熱さに、竜馬の中がきゅんと疼く。
「あっ……尻ばっか……いじンなよ……っ」
本当はもっと隼人の好きなようにして欲しかった。けれども、せっかく着替えたのだからもっと見て欲しいという思いもあった。
「はあっ……あっ」
太腿の裏を撫で上げられ、何度も尻を揉まれる。隼人の手で与えられる快感は倖せそのものだ。
「ンッ、ンあッ」
膝が震え、身体から力が抜けていく。このまま行為が始まりそうだった。
「せっかく……着たの、にぃ……」
ほんの少しだけ零す。それでも、隼人に気に入ってもらえたのならよかった。
「あっ……!」
腰が落ちそうになったところで、ようやく隼人の手が止まった。
「済まない。…………だがお前の尻が可愛いのが悪い」
謝っておきながら、竜馬のせいにして手を離した。
「それ……謝ってンのかよ……ったく」
竜馬は赤い顔で拗ねたように呟いた。それから指を衣装の下に差し込み、尻の食い込みを直す。
「……」
目の前でその仕種を見せられた隼人は、誘われるように尻の丸みにキスをした。
ヒールを履き、覚束ない足取りでターンを決め、隼人より身長が高くなったと自慢した辺りで足に限界がきた。
「こ、これ、転けたら足首折れンだろ……」
隼人に手を握ってもらい、そろそろとベッドに腰を下ろす。
「ふう……。なあ、もう、いいか?」
「ああ。十分だ」
隼人は優しく微笑み、竜馬の頬を撫でた。
「ン」
満足そうに目を細める竜馬はいじらしく、可愛らしい。耳も尻尾も似合っている。しかし目を下に向けると、黒い衣装とストッキングが艶かしく迫ってくる。その落差で太腿と尻の肉感がより生々しかった。
「……靴を」
隼人の声が掠れる。
「え?」
「靴を、脱がせてやろう」
言って跪いた。
「おう、さんきゅ」
竜馬は素直に足を差し出す。
「この靴は無理だ」
「……」
「バランス取るのは多分できるけどよ、これで歩き回ったりすンだろ? 女ってすげえな。あ、ところでよぉ、この服どうする? おめえの部屋に置いとくか?」
隼人に満足してもらえた安心感からか、竜馬はリラックスモードに切り替わっていた。ぺらぺらといつものように明るく話す。
「あ、それとも——」
無言の男に気づき、言葉がやんだ。
そっと隼人の手がヒールを脱がせていく。右足、それから左足。
「……」
足元に跪く隼人は、その所作の端正さと整った顔立ちも相まって、おとぎ話の王子様のようだった。
——いい、男だな。
竜馬は見惚れる。
何でも知っていて、何でもできる。強くて、時折掠れる声もセクシーで、身体つきだってたくましくて。
と、その瞳が竜馬をちらりと見上げた。
「——」
ギラギラと光っていた。
王子様だなんてとんでもない。欲に満ちて弾けそうになっている、獣の目だった。
「へ……へへっ」
竜馬の口元に笑みが浮かんだ。
「隼人」
右足の爪先を隼人の股間に伸ばす。軽く押してみる。
「……っ」
隼人が一瞬、身を強張らせた。
「さっきから、ほんとにコーフンしてンだな」
くい、とまた股間を刺激する。ガチガチになっているペニスを足の裏で感じた。
「すげえ硬くなってンな」
「……竜、馬」
薄い唇から吐息が零れた。
普段はとことん冷静な男が自分に欲情して我を忘れそうになっている様はひどく淫らで、竜馬をそそる。
「竜馬」
隼人は形のいい指でつう、とふくらはぎを撫で上げて、脛にキスをした。
「!」
少しずつ手と唇が這い上がってくる。
「あ……」
ゾクゾクと震えが走る。納涼会で感じた悪寒と同じだった。それは自分の奥に潜む期待の芽生えだったと気づく。
膝頭まで到達すると、隼人の指は爪先に降りていく。足を取り、今度はその爪先を口に含んだ。
「あっ——!」
生温かい感触に包まれる。
「ひっ」
たちまちストッキングが濡れていく。隼人は音を立てながら指を吸った。
「あっ……ふぁっ」
いつもと違う快感と光景に眩暈がする。着ているものが異なるだけで、こんなにも変わるのか。
隼人の唇が再び上ってくる。内腿を強く吸われ、竜馬が仰け反った。
そのまま両膝を押し上げられ、ベッドに倒される。無防備に腿を広げ、隼人を待つだけになった。
「うぁ……」
裸の時よりも恥ずかしかった。
「あんま……見ンな、よぉ……」
力が抜けて膝を閉じることもできない。それとは逆に、身体の中が熱くてたまらない。直接触れられたら長くは保たないだろう。
「せっかく、俺のために着てくれたんだからな」
隼人の視線が竜馬を舐る。
確かに、着たのだから見て欲しいと思った。けれども、こんなにも恥ずかしくて——気持ちいいとは思わなかった。
ミチルの言っていた「クセになる」とはこういう意味も含まれていたのかもしれない。
「んっ」
腰が勝手にぴくりと動く。
「なあ……もう……脱がせてくれよ……」
これ以上は無理だった。
「この服……ぴったりしすぎて、縛られてるみてえ……」
潤んだ目で隼人を見上げる。
「あそこも……勃っちまって、キツいンだよ」
「——」
隼人が唾を飲む。黙って上着を脱ぎ捨て、ズボンに手をかけた時だった。
「……あ」
竜馬の目が一点に釘づけになる。
「それ……」
身体を起こそうとするが自力では無理だった。諦めて手を伸ばす。
「……もしかして」
ズボンのポケットから見えている布を引っ張り出した。
「……やっぱり」
グレーのボクサーパンツが出てきた。
「おめえよぉ」
散々探したのに。
「おかげでずっとあの紐パンじゃねえか」
撮影時、Tバックのショーツを渡された。仕方がなく、それを穿いたまま部屋まで戻って来たのだ。
「何だよ、ガキみてえないたずらしやがって」
竜馬がムスッとする。何回も訊ねたのに、ずっととぼけていたのだ。
「人のパンツ隠して面白かったかよ」
非難の視線を向けると、
「そうじゃない」
と返ってきた。
「Tバックでいたままのほうが、着替えてくれやすそうだと思ったから——」
「え」
「……もう一度、着て欲しかったから」
理由が何にせよ、パンツを隠すという子供染みた行為に変わりはない。
——あの隼人が。
竜馬が吹き出した。
「おめっ……ククッ、ふはっ」
「……竜馬?」
「ふふっ、なあ、隼人」
両手を差し出し、起こしてくれるよう催促する。
「ん、よっと」
ベッドの上で向き合う。
「もしパンツも着替えてたって」
「うん?」
「交換条件なんかなくたって……着てやったのに」
そのくらいには惚れているンだぜ。
悔しいから絶対に言わない。
だから代わりに、竜馬は情熱的な口づけを隼人にお見舞いした。