掛け違いの恋

新ゲ隼竜R18

【閲覧注意】
隼人の片思い、竜馬は達人が好きな状態です。
達人は1話通り、竜馬とは肉体関係なし。
誘われてセックスしてるうちに竜馬の気持ちに気づくけど、好きになっていたのでそのまま関係を続ける隼人のお話。
竜馬は達人のことを思って自慰してる前提、隼人を誘う設定なので、大丈夫な方だけお願いします。行為描写はあっさりぬるめです。隼人一人称。約3,000文字。2021/8/20

肉体関係ないバージョンはこちらから→『花埋め
肉体関係あり竜馬側バージョンはこちらから(R18)→『溺れる

◆◆◆

 意外だった。
 竜馬が自分で後ろを慰めていたことも、男に素直に抱かれることも。
 未だに信じがたい。
「う……ン、はぁっ」
 目の前で身体を開いていても、夢なのではないかと疑ってしまう。
「……竜馬」
 だから、名前を呼んで口づける。
「んっ」
 竜馬はすぐに舌を出して応えてくる。腕を首に回して、俺を引き寄せる。
「ン、ンッ」
 普段の、喧嘩腰で自信に溢れた姿とはまったく違う。
 まるで恋人にするように、竜馬のキスには甘さが含まれている。身体だけで繋がっている相手にするには少々感情が乗りすぎだ——だから、抱くたびに俺は囚われる。
 目蓋はぎゅっと閉じられている。奥を突いてやると、鼻にかかった声で鳴く。散々になぶられ膨らみきっている乳首をつまむと身体が跳ねる。それでも、目は開けない。
 俺にされるがまま、誰かに抱かれている。
 だから、俺の声を耳に押し込む。
「竜馬——竜馬」
 それから竜馬の好きなところを思いきり突いてやる。
「うっ、あ、あっ、ンあッ!」
 しがみついてくる。きゅう、と竜馬の中も俺を締めつける。
「んっ、イクぞ……っ」
「あっ、あっ——俺、も……! うあっ!」
 きつく抱き合ったまま、果てる。
「あっ……んあぁ……っ」
 今日、一番に甘い声をあげて竜馬は震える。
 ——竜馬。
 その吐息も声も全部つかまえておきたくて、俺はまた口づけた。

   †   †   †

「お前、どれだけ飲んだんだ」
 いらついて舌打ちもつけてやる。
「そんな……飲ンでねえ、し……っ」
 体重をかけてくる。酔っ払いは身体の力が中途半端に抜けているから一層重い。
「酒臭えな。それに、重い」
 目を見ずに文句を言う。
「あぁ? おめえ、だって……飲ンでたくせに」
 顔を上げ——俺の耳元でささやく。
「肩貸した上、に……部屋まで送ってくれるたぁ、おめえ……優しいな」
 左肩に回していた竜馬の腕にぐ、と力が込められる。
「——っ」
 引き寄せられて、右の頬に竜馬の唇が触れた。
「……な」
 思わず足を止める。
「——ああ、わりぃ」
 低い声で竜馬が言い、それきり押し黙った。
「…………行くぞ」
 腰に回した右手で促す。
 今度はもたれかかってこなかった。

 ベッドに投げ出すように背中を押す。
「おう、さんきゅ」
 竜馬は安心したように息を吐きながら倒れ込んだ。
「フン」
 手間をかけさせやがる。ゲッターに乗っていても、こっちの言うことは聞きやしねえ。いつもいつも自分勝手に振る舞いやがって。
 口を衝いて出そうだった。
 そのとき。
「——」
 縋るような目につかまった。
 酔いのせいだけではない。
 俺をひとりにするのか、とでも言いたげな、寂しそうで少しばかり責めるような瞳。
「あ……?」
 間の抜けた、乾いた声が俺の喉から転がり出てきた。
 竜馬の口元が笑む——艶然と。
 憐れを誘うような眼差しとは正反対に、勝ち気で淫らな匂いのする微笑みだった。
 誘っている。
 すぐにわかった。
 それでも、明日になって馬乗りで殴られるのは御免だったから、訊いた。
「誘っているのか」
「嫌ならいいぜ」平然と答える。
「別に……おめえじゃなくっても、いいンだ」
 今度は挑むような視線にカチンときた。
「そんなに物欲しそうな顔をしてか」
 竜馬は意に介さず、ただ面白そうに目を細めるだけだった。
「——」
 いつもだ。
 竜馬は俺をいらつかせる。どうしようもなく、俺の心を煽る。
 頭に血がのぼる。
 ねじ伏せて、俺のほうが強いのだとわからせてやろうと思った。
 同時に、欲情したのも確かだった。
 一歩、進める。
 竜馬が愉しそうに笑った。その唇も、肌も、指先も、俺を手招いていた。
 息をするように自然に触れて、キスをする。
 上目遣いでニヤリとした竜馬の、勝ち誇った顔が脳裏に焼きついた。

 それが、始まりだった。

   †   †   †

 俺の身体の下で喘ぐ竜馬はしおらしい。勝気なのは最初のあのときだけだった。
 そもそも、俺が初めてだった。あれは酔った末のただの気まぐれだったのかもしれない。それでも、まだ俺の手を振り払おうとはしない。
 だから、訊いてやる。
「今日は優しくされたいか? 乱暴なほうがいいか?」
 一瞬、恥じらうように顔を背け、それからそっと俺を仰ぐ。ためらいがちに唇を開きかけ、一度閉じてから——たまらなく俺を昂らせる仕種だ——ねだる。
「きつくても……いい」
 吐息とともに届く。
「ああ」
 その目をじっと見つめ、口づける。激しく、深く貪る。
「んんっ、ん!」
 こちらの加減で竜馬の反応は変わる。それが愉しく、いつのまにか——愛しい。
 気づけばまた、目を閉じている。
 たとえ開いていても、竜馬が俺を見ていないのはわかっていた。
 いつだったか。たった一度だけ、うわ言のように竜馬は名前を呼んだ。

 たつひと、と。

 俺は代わりか、振り切るための道具か。
「あっ! そこ……っ!」
 俺の指を飲み込んで、腰がうねる。
 どちらでも構わない。
 今、竜馬は俺に抱かれるしかないのだから。
 中をこすり、指をねじる。
「ふぁっ、ンッ!」
 もう一本、指を増やす。
「ああぁっ!」
 竜馬の脚が開く。感じている証拠だ。
「気持ち、いいか」
 腹にキスをしながら訊く。
「ンッ、あっ、気持ちいいっ」
 身体が波打つ——目は閉じたまま。
「竜馬」
 もう片方の手で頬に触れる。こちらに顔を向けさせる。
「俺を見ろ」
「んっ、あっ……ん、え……?」
「竜馬、目を開けろ」
「…………」
 竜馬は恐る恐る目蓋を持ち上げる。長い睫毛が震えている。
 目が合う。
 鳶色の瞳が揺れる。俺の姿をなぞるように。
「俺を好きになれ」
 その目が大きく見開かれた。
「俺ならいつでも傍にいてやれる」
 覗き込み、ゆっくり告げる。
「俺はお前を、置いていかない」
 竜馬はハッと息を呑む。
「……うぅ」
 か細く苦しげな喘ぎが漏れ、眉根がきつく寄せられた。俺から目を逸らす。
 言葉で聞かなくてもわかる。
 これが答えだ。
 はなから、わかっていた。

 互いに、始まりが違っていた。
 立つ場所も、見ている先も、求めているものもずれていた。そのまま繋がったせいで何もかもが噛み合わない。
 だがそんなのは問題じゃない。いつか外して、また掛け直せばいいことだ。

「竜馬」
 もう一度呼び、キスをする。
 竜馬の舌はおずおずと俺を迎える。
 怯えるような目線、戸惑うような震え。まるで罪悪感でも背負っているかのような——。
「俺を好きになれ」
 だから、再び言う。
「急がなくていい。待っている」
 竜馬の瞳が俺を見つめる。
 俺は竜馬の顔から視線を外し、また身体への愛撫を始める。
 今までで一番、優しく抱いてやる。
 くまなく俺の印をつけて、いつでも俺を思い出させてやる。

「ふ……あ、あぅ」
 竜馬の喘ぎが零れ出す。切ない、響き。
 俺に向けられたものじゃない。耳を塞ぎたくて、けれどももっと聞きたくて、竜馬の弱いところを何度もなぞる。
「あっ、あっ、ンッ! ……んあッ」
 身体は素直だ。少しずつ、確実に刻まれていく。
 この唇や指、それから俺のカタチ。

 

 俺は狡い。
 ——だから。
 竜馬の弱さに付け入る。
 俺の腕の中から逃げ出さないように、追い詰める。

 

 そうまでしても、欲しいと思ってしまったから。