溺れる

新ゲ隼竜R18

【閲覧注意】
隼人の片思い、竜馬は達人が好きな状態です。
達人は1話通り、竜馬とは肉体関係なし。
竜馬から戯れに誘ってセックスする仲になったけど、隼人に気持ちが傾いていることを自覚して戸惑う竜馬のお話。
竜馬は達人のことを思って自慰してる前提、隼人を誘う設定なので、大丈夫な方だけお願いします。行為描写はぬるめです。約4,400文字。2021/9/10

肉体関係ないバージョンはこちらから→『花埋め
肉体関係あり竜馬側バージョンはこちらから(R18)→『掛け違いの恋

◆◆◆

 二十三時きっかりに隼人は訪ねてくる。
 一度だけ、二分遅れたことがあった。珍しくて指摘したら、竜馬の時計が進んでいるだけだと判明した。
 あれから、時刻合わせは意識的にしている。
 だからインターホンが鳴ると、ちらと時計だけを確認し、モニタは見ずにロックを開ける。
 隼人は竜馬を一瞥すると、無言で部屋に入ってくる。背後を気にすることなくまっすぐ奥まで進み——ベッドサイドでシャツを脱ぎ捨てる。竜馬はその背中を見つめ、それから扉を閉めてロックを確認する。
 我が物顔で竜馬のベッドにどっかと座っている男に近づいて、膝の間に身体を割り込ませる。隼人は黙って竜馬の腰に手を回す。
 いつも、同じだ。
「おめえ、変わってンな」
「……」
「きっちり時間通りに来て、やることやって、さっさと帰っていって」
 じっと顔を見ながら言う。腕枕もされたことはないし、当然、抱きしめられて眠ることなどない。
「七時にメシの時間だ、風呂は九時からだ、みてえに、よくもまあ毎回すんなりおっ勃てられるな」
 ——好きでもねえくせに。
 さすがに、からかうにしてもその言葉は口に出せなかった。
 誘ったのは、自分だ。
 竜馬は小さく息をつくと、タンクトップを脱いだ。

   †   †   †

「んっ、んっ」
 隼人のペニスを口に含み、吸う。
「は……ん、む」
 先端を舐め、キスをし、唇でしごく。
 竜馬の鼻声だけが漏れて、隼人からは聞こえない。だから竜馬はもう少し強く吸い、舌に力を込める。
 隼人はいつも竜馬の好きにさせる。気の済むまで咥えさせて、ねだられたら口に出してもやる。その甲斐あってか、竜馬の愛撫は初めこそかなりぎこちなかったが、今ではだいぶ上達した。
 それでもまだ「一心不乱に」という表現がぴったりだった。隼人の股ぐらに顔を埋め、肉棒をしゃぶっては啜る。
「ん!」
 隼人の大きな手が竜馬の頬に添えられる。竜馬の目蓋が開かれた。
 ——あ。
 目が合う。動きが止まる。
「——」
 一瞬、竜馬の眉が切なげに寄せられた。だがすぐに視線を落とし、またペニスへの愛撫を続けた。

 

「あっ、あ——ッ!」
 意識を全部持っていかれる。
 中をえぐられ、湧き上がる快感に抵抗できない。竜馬の腰が隼人を貪るように蠢く。
「んひっ、あっ、あっ、あっ」
 小刻みに身体が震える。イキそうで、でももっと感じていたくて、欲に惑う。
「ああぁッ、気持ち、イイッ」
「りょ、うま……っ!」
「もっと、もっと……! あ゛ッ、イ、イクッ!」
 目をきつく閉じ、隼人にしがみつく。
「出る……っ」
「んっ、あっ、奥にっ、あっ——」
「くっ……!」
 望み通り、隼人の精は竜馬の奥に叩きつけられる。
「ひっ——あっ、あっ!」
 苦しそうな、それでも愉悦の滲む声をあげて竜馬は悶えた。
「あんっ、あっ……く、ふっ……」
 徐々に痙攣が収まる肉襞を感じながら、隼人は竜馬の唇をついばむ。
「ふ…………ん、あ……」
 おとなしく、竜馬は受け入れる。
「ん……」
 少しずつ口づけが深くなる。竜馬の好きなとろけるキス。まるで恋人同士がするような、優しさ。
「は、ン……ん、ん」
 隼人はゆっくり、まだ繋がっている場所を刺激する。
「んあっ! あっ……」
 すぐに快感が頭をもたげ、竜馬の中を這い上がる。戻りかけた理性が簡単に霧散しそうになる。
「ああぁ、んあっ……また、よくなっ……ちまう……」
 甘い声とともに、隼人に合わせて腰がうねり出した。
「竜馬……」
 もう少し奥までこする。隼人のペニスが再び硬くなっていく。
「うあっ、あっ……また……!」
 竜馬の声には悦びが溶けていた。隼人は唇に薄く笑みを浮かべる。
「もう一回、してやるよ……竜馬」
「ん、あっ」
 承諾の代わりに、竜馬の脚が隼人の腰に絡みついた。

   †   †   †

 頭から冷たいシャワーを浴びる。
 隼人が帰ったあとは、いつもこうだ。早く火照りも記憶も流してしまいたくて、身体の中から熱の残滓も取り除いてしまいたくて。
「……ふっ、く」
 後ろに指を入れて精液をかき出す。
「ん、あっ……」
 隼人の指の感触を思い出しながら、隼人を忘れるためにひとりだけの行為に耽る。
 一秒でも早くこうしないと、おかしくなりそうだった。達人を好きな事実までもが消えてしまいそうで、怖かった。
「——ッ」
 ひどい罪悪感で眩暈がする。
「う……くっ……」
 ——達人。
 何度も記憶をなぞるうちに、好きになっていた。二度と会うことも叶わないとわかっていて——だからこそ絶対的な存在になり得たのかもしれない——思い続けていた。
 やがて、純粋な思慕は情念に変わった。いつしか達人に抱かれたいと思うようになった。それから、自然と自分を慰めることを覚えた。
 ひとりの情事は哀しくて、寂しくて——けれども安心できた。
 これ以上、誰も竜馬を傷つけることはできないから。
 だから、本当は何も望むべきではなかった。
 思い出す。
 隼人に投げつけた言葉。
『別に……おめえじゃなくっても、いいンだ』

 ——嘘だ。

 本当に誰でもよかったわけじゃない。
 慣れてそうだったから。
 口が堅そうだったから。
 後腐れなさそうだったから。
 それに。
 普段から嫉妬とも羨望ともつかない眼差しを向けられているのはわかっていた。
「……」
 シャワールームの壁に拳を押しつける。
 あの夜。
 何を考えているのかわからなくて無愛想極まりない男だが、嫌いじゃなかった。
 そんな男が、酔っ払った自分に肩を貸して部屋まで送ってくれた。
 人肌が優しかった。温かくて、もっと触れていたかった。
 妙に嬉しくて腕に力を入れたら、唇がその頬に触れて——。
 決してわざとじゃない。
 けれども、一度感じてしまった肌の熱さをなかったことにするには酔いすぎていた。
 ——どこかで、期待していた。
 誘えば乗ってくる算段があったから。
 だからあの夜、抱いて欲しいと目で縋った。

 挑むような隼人の瞳。
 ぞくりとした。
 自分を押し倒して、力ずくで優位性を認めさせようとしている男の目。
 それに——。
 竜馬が初めてだと知ったときの、あの戸惑うような、困ったような表情も忘れられない。
 そのあとで、指先が心なしか優しくなったのも。

 きっと、明日も隼人は訪ねてくる。
 また、抱かれる。
 その手を振り払えない——自分が嫌だった。

   †   †   †

 変わったことといえば。
 いつからだったか。気づけば、隼人が何度も竜馬の名前を呼ぶようになった。
 耳元で「竜馬」とささやかれると、頭の中がふわりとして気持ちよくなる。そのまま柔く肌を撫でられると、もっとして欲しくて自然に声が大きくなる。
 ——怖い。
 もっと、隼人の声で名前を呼んで欲しくなったら。
 もっと、隼人に抱かれたくなったら。

 隼人に、好かれたくなってしまったら——。

 ——俺ってサイテーだな。
 隼人に抱かれながら、達人を思っている。達人への思いがあるのに、隼人を求めている。
 隼人はきっと知らない。知ったら軽蔑するだろうか。それとも、心と性欲は別物だからな、と涼しい顔で受け流すだろうか。
 それとも。
 隼人も、竜馬を他の誰かにすり替えて抱いているのか。
「————ッ!」
 ほんの少しだけ、胸の深いところがざわりとした。
 ——……くそっ。
 竜馬はかぶりを振る。
 快楽に溺れてしまえばいい。隼人のことも、今少しだけ湧き上がった最悪な感情も、全部忘れてしまうのだ。目を閉じるだけでいい。
 自分は達人に抱かれているのだから——。

 

「今日は優しくされたいか? 乱暴なほうがいいか?」
 隼人が訊ねる。
 いつもこうだ。ただの習慣めいた行為のはずなのに、竜馬の意志を確認する。裏側に自分への好意が秘められているのではないかと勘違いしてしまいそうになる。
 だめだと思っても、嬉しさが胸の奥に生まれる。
 悟られたくなくて、目を逸らす。
 本当は、優しく抱かれたい。
 言ってしまいたくて、隼人を仰ぎ見る。唇が開く。
「——」
 けれども、自分が変わってしまうのが怖い。
 こんなときは、正気を失うほどに激しく揺すぶられて、何も考えられなくなってしまうのが一番いい。
 口を引き結び、こらえる。そしてねだる。
「きつくても……いい」
 隼人の「ああ」という返事を聞いて、安堵する。
 これでいい。
 目を閉じ身を任せた。

「竜馬、目を開けろ」
 不意に、正気に戻される。
「…………」
 恐る恐る目蓋を持ち上げる。
 隼人の目が自分を見つめていた。夜に映える、冴え冴えとした瞳。
「俺を好きになれ」
 おかしな言葉がその唇から零れた。
 ——え?
「俺ならいつでも傍にいてやれる」
 真摯な眼差しが、まっすぐに注がれる。
「俺はお前を、置いていかない」
「——ッ」
 まさか。
 ——気づかれてる。
 達人への思いを。
「……うぅ」
 竜馬は視線をずらす。それが精一杯だった。
「竜馬」
 もう一度呼ばれる。頬を撫でられ、キスをされる。
「……」
 竜馬はおずおずと舌を差し出す。自分を傷つけるつもりのない舌にそっと触れ、絡め合う。
「ん……ふ、ん」
 唇がゆっくり離れる。
「俺を好きになれ」
 再び、隼人の告白が降る。
「急がなくていい。待っている」
 隼人の瞳を探っても、嘘が潜んでいるようには思えなかった。
 ——隼人。
 胸の奥が苦しくなる。
 嬉しいのか、哀しいのか。
 自分の心なのに、何ひとつわからなかった。
 隼人はまた、竜馬の身体を愛し始める。

「————ッ」

 もたらされる快感に恐怖を感じて、竜馬の身体が強張る。
 隼人の指が優しかった。咄嗟に目を瞑る。
 ——何で……!
 きつくてもいいと、乱暴にしてくれていいと言ったはずだ。
「ふ……あ、あぅ」
 喘ぎが勝手に溢れてくる。
 今はそんなふうに、抱かれたくない。
「……っ、あ……っ」
 触れられたところが熱くなる。まるで、刻印だ。
 ——やめろ。
「あぁ……っ、ふ、ンッ」
 思考がほどけて、溶けていく。
 ——やめて、くれ。
 どうしても、言えない。目を開けると隼人の姿が焼きつきそうで、できない。
 涙が出そうになる。
「あっ、あっ、ンッ! ……んあッ」
 好きなところをこすられて、崩れていく。もう、隼人にされるがままになる。

 

 そうして。
 少しずつ、足元から縛られていく。
 蜘蛛の糸のように、細く、柔く、きつく、ねっとりと絡まれ、動きを封じられていく。
 ゆっくりと沈んでいく。
 遠くない未来、きっと呼吸ができなくなる。

 隼人に搦めとられて。

 

 ——俺は。