夢だっていいじゃない

新ゲ隼竜R18

隼⇄竜。つきあってません。
酔っ払った竜馬からキスをして抜き合いっこに発展する話。隼人寄り視点。
プレイとしては短めですが、相互手コキ(竜馬だけイク)、隼人主導で兜合わせ、竜馬の内腿で素股、があります。隼人は素股でイキます。
途中、盛り上がった隼人が挿入寸前までいきますが、やめます。竜馬は隼人がイッた後、寝落ち。
翌朝、告白する雰囲気にはなりますが、素面の竜馬はもだもだして言い出せません。
でもこの後ちゃんとつきあってハッピー!約10,000文字。2023/5/9

◆◆◆

 弁慶がふらつきながら「またな」と歩き出す。竜馬は山のような背中を見送り、
「俺も、便所行ってから帰るわ」
 と立ち上がる。隼人は竜馬が洗面所に消えたのを横目に、緩慢な動作でゴミの始末をする。
 久しぶりに飲んだ。本来、パイロットが飲酒など以ての外だし、全員が深酒とあっては正気の沙汰ではない。それでも、こういう時間も必要だった。
 ただ、まったくの考えなしというわけでもない。一応は鬼獣の出現パターンを読み、ひと月の中でもおそらく一番安全であろうという日、時間帯を選んでいた。これで襲撃を受けたら、そのときはそのときだ。三人は共犯者なのだから、互いに文句をつけようがない。
 ゴミ袋の口を結んで、出入り口の脇に置く。壁の時計を見ると、もうすぐ日付が変わりそうだった。
 冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。一気にあおると淀んだ意識がクリアになる。しかし酔いが醒めるにはもう数時間、必要だった。
「あー……、すげえ、眠ぃ……」
 だるそうに竜馬が戻ってくる。くあ、と大口を開けてあくびをし、隼人を見やる。その手にペットボトルが握られているのを見つけ、近寄ってきた。
「俺にもくれよ」
 半ば奪い取るように手にする。ふらついた弾みで隼人の胸にドン、と身体を押しつける格好になった。
「んあ、悪ぃ」
 言いながらも体重を預けたままにする。
「……ン」
 先刻の隼人同様、一気にあおる。性急さに水が一筋、口元から溢れ伝った。
「——」
 隼人の視線が水の流れを追う。顎のラインから首筋へ、それから鎖骨へ。尚も伝い、タンクトップを濡らしていく。
「……さんきゅ」
 半分以下になったボトルを突き返し、竜馬が無造作に左手で口を拭う。そのあとで自室でくつろぐかのようにベッドに背中からダイブした。
「おい」
 隼人の顔に苛立ちが浮かぶ。
「帰るんじゃなかったのか」
「あー、……めんどくせえ」
 重そうに零し、竜馬が目を閉じる。すう、と大きく息を吸い込んでは吐き出す。水を吸ったタンクトップの一部がひたりと張りついて、胸筋の形を浮き上がらせていた。
 ゆっくりとその胸が上下する。どうにもこのまま眠ってしまいそうな気配だった。
「チッ」
 思わず舌打ちが飛び出る。
「おい、立て。さっさと出ていけ」
 ベッドに乗り上げ、胸ぐらを掴む。
「出ていかないと——」
 瞬間、視界がぐるんと横転する。身体の左側面からベッドに倒れる。酔いのせいか、と隼人が状況を把握しようと目を見開いたところで、くすくすと楽しげな笑い声が聞こえてきた。
「隙あり」
 腰に竜馬の脚が回されていた。引き倒されたのだと理解する。
「……お前」
「さっさと出ていかないと、あンだって? 俺が鬼だったら、おめえ死ンでたぞ」
「その前に、酔っ払って大の字になっているお前のほうが先に死ぬ」
 ふん、と鼻であしらうも、竜馬には痛くも痒くもないようだった。
「おめえ、酒臭えな」
「……お前のほうがよほど酒臭い」
「うるせえ、隼人のクセに」
「何だそれは。文句にすらなってないな」
「黙れよ」
「黙るのはお前だろう」
「ほんと、むかつく」
「なら、どうする?」
 竜馬の目がきゅっと細くなる。まるで、思い通りの科白を引き出してやったとばかりに。
「——」
 そのいたずらな目つきに捕まる。
「黙らせてやる」
 顔が近づく。隼人は反射的に首を引く。だが限界があった。
「——りょ」
 唇が重なる。
 まばたきも呼吸も忘れ、隼人が石になる。竜馬が五センチ離れ、小さく笑った。
「……俺の勝ち」
 その息が口元をくすぐり、それからまた柔らかな感触が隼人を包んだ。
 二度、三度と唇が押し当てられる。上唇を吸われ、侵入を企むような舌に縁をなぞられ、やっと我に返る。反応を示せずにいる隼人の粘膜を、竜馬がちろちろと弄んだ。そのまま舌が入り込もうとした刹那。
「ン——ンん!」
 唇を押しつけ返すと、すぐに抗議を含んだ鼻声があがった。構わずに舌をねじ込む。竜馬の身体が強張ったのがわかった。
「んう、ンッ……!」
 口腔内をぞろりと舐め回して唇を引く。
「——てめ、あに勝手にしてンだよ」
「お前のほうが勝手にしてきたんだろ」
「俺はいいンだよ」
「相変わらずふざけた奴だな」
「うるせえ。おめえがべらべら喋ってっからだろ」
「ならもっと巧くやれよ」
「あンだとォ?」
 語尾が上がる。煽られた証拠だった。わかりやすさにクッと笑いが漏れ出る。
「あに笑ってンだよ、クソが」
 さっき一瞬だけ見せた艶っぽい表情とは雲泥の差だった。愉快さに踊らされ、隼人は言葉を重ねる。
「仔犬がおっかなびっくり水飲んでんじゃねえんだ。もっとその気にさせるようなキスでもしてみろよ」
「ンな——言ったな」
 思惑通りだった。両の手で隼人の顔を挟み込むと、口づけてくる。情緒もなく、それでも隼人を見返すべく懸命に舌が蠢く。隼人の変わらない様子に、次第に焦るような動きが加わる。やがて息苦しくなってきたのか、その鼻息が荒くなってきた。
 頃合いを見計らい、舌を再び差し込む。
「ン!」
 ぎこちなく強弱のない竜馬の舌先と違って、細やかに動いて粘膜に触れる。
「ん……ンっ……」
 竜馬の身体が震える。たちまち身体から力が抜け、その目がうっとりと柔くなる。
「あ、ン……」
 隼人が離れると、すぐさま舌を出して追いかけた。
「ん、む」
 首にしがみついてくる。
「……は、ぁ……おめえ……ンッ、キス、ん……、うめえな」
 喧嘩を売るような態度はどこへやら。素早い変わり身で、今は甘い声でキスをねだる。
「ふ……、ンぅ……」
 腰が押しつけられる。その中心部の感触に、思わず隼人のキスが途切れた。
「……なあ、はやと」
 鼻にかかった声が縋りつく。
「勃っちまった」
 恥ずかしげもなく言い、くい、と下から股間をすりつける。
「——」
 腰を引こうにも回された脚に阻まれ、さらには左足の踵でぐっと押し出されてそこを密着させる羽目になる。
「抜き合いっこしようぜ」
 返事を待たず、竜馬が再び口づける。同時に逃さないとばかりに腰を動かし始めた。
「ン……く、はぁ……っ」
「りょう……ん、ん」
 隼人の肉体はすでに平時とは異なっていた。今どんな状態なのか、合わさった部分から伝わっているはずだった。からかいの言葉だけで済むはずがないとわかっていて煽っているのか。
 舌先で探ると、絡みついてくる。
 それなら、と隼人の手が腰に回された。行きつ戻りつ背中をさすり、徐々に下りて、形のいい尻を撫でる。隼人の長い指がぐに、と尻の肉を確かめるたびに、塞がれた唇からくぐもった声があがった。
「ん、ふ……、ふっ……」
 感じているのか、動きが止まる。
「りょう、ま」
 ぎゅ、と尻たぶを掴む。竜馬の唇から「あぁ」と色が滲む声が零れ落ちた。
「あ……っ、は、はやと……っ、はやと」
 身体の中心に熱が集まっていくのがはっきりとわかった。竜馬に名前を呼ばれるだけで、こんなにも気が昂るとは知らなかった。
「な……、はやと」
 苦しそうにも、快感に喘いでいるとも見える角度の眉で、竜馬が誘う。
「ズボン……、脱いじまおうぜ」
 隼人のベルトに手が掛かる。反射的に隼人はその手首を押さえた。
「……あンだよ」不満げに竜馬の唇が尖る。
「男同士なンだから、別にいいだろ」
 そのまま、尖らせた唇を隼人に押しつけた。
「もしかして、小せえの気にしてるとか?」
 くっくっ、と笑いを噛み殺す——と隼人のキスがその唇を塞いだ。
「ン! んンッ」
 同時に隼人の腰が竜馬を煽り返す。
「んっ、ん、ン゛‼︎」
 キスと、衣擦れとベッドの軋み。隙間を埋めるようにふたりの荒い息づかい。これだけあれば十分だった。

   †   †   †

 互いの身体を脚の間に入れ、向かい合って座る。視線を交わし、どちらも不敵に唇の端を上げた。
「おめえのイキ顔、拝ませてもらうぜ」
「その言葉、そっくり返してやる」
 言い終わるなり愛撫合戦が始まる。
「……っン!」
 ふたりとも酔いのせいで柔い力加減ができない。そのうえ先に相手をイカせようとはやるせいで、まるで自慰を覚えたばかりの少年のように見境ない。テクニックなど関係なかった。
「ン……ッ」
 それでも、酒と煽り合いで感じやすくなっていた身体はあっという間に昇りつめていく。竜馬の腰がびくついて震え出した。
「あ、あ」
「そろそろか?」
「ま、まだ……っ」
「いつまでそうしていられる?」
「あ、ん、てめえ、こそ……っ」
「——っ」
 人差し指で隼人の鈴口をくっと押しつける。ひくりと反応するペニスを、残りの指で囃し立てた。
「へへ……っ」
 ぐにぐにと刺激を続ける。隼人は眉間に皺を寄せ、細く息を吐き出しては気を制御しようと努めた。その姿が竜馬を調子づかせる。
「なあ、早くイケよ……」
 手の動きが強く、大きくなる。
「隼人、イッちまえ」
「……ぅっ、く」
「ほら——ンあっ⁉︎」
 勝ち誇ったような竜馬の声が、一段高い鳴き声に変わる。
「ま、待てっ、そこ——あ゛っ」
 隼人の指先にもっと力が入る。裏筋を重点的に責め、合間に陰茎全体をしごき上げる。親指の腹でカリ首をこすってやると竜馬の顎が上がった。
「あっ、ばか……っ、んっ、んっ」
 開いた唇に舌をねじ込んで内側をねぶる。
「んう、む……っ、ンんっ!」
 すでに竜馬の手は止まり、されるがままになる。我慢汁にまみれたペニスは充血しきっていて、今にもはち切れそうになっていた。
「ンッ、んンッ!」
 苦しそうに竜馬の顔が歪む。腰がかくつき、下腹がのたうつ。腿の筋肉が与えられる快感に抗うように盛り上がった。
 隼人の顔が離れる。竜馬の唇は半開きで、舌は縋る先を失ってだらしなく喘ぐ。
「あっ、あっ——」
 もう一度口づけに挑む余裕はなかった。
「いっ……、ン゛ん……っ」
「……りょう……ま」
「あ゛……はぁ……、あっ……!」
 うっすらと涙を浮かべた瞳が閉じられる。ぶる、と震えると、白いモノが隼人の手の中に放たれた。
「……あ、あ……っ」
 身悶えるたびに隼人の手に吐き出される。隼人は最後まで搾り取るように、陰茎の根元からしごき上げた。
「あ、そ、それ、やめ……っ」
 顔を歪めたところで、隼人が止まることはなかった。キスで制止の言葉を奪い、竜馬を押し倒す。
「ン……!」
 身体が密着する。隼人のたぎったそこが竜馬の肌に押しつけられ、先走りが塗りたくられる。
「んっふ、ん、ン!」
 深く唇を合わせたまま、隼人の腰が動く。熱い塊にこすられて、達したばかりの竜馬の欲が収まる間もなく再び勃ち上がる。合わさった体液が互いの下腹部でくちゅくちゅと音を立てて、その卑猥な音楽に引き寄せられるように竜馬の脚が隼人に絡みついた。
 隼人の腰は一定のリズムを保ちながら、時折わざと外れて竜馬の反応を確かめる。強く速く、それからゆっくりと。くすぐってらしてやると、隼人のペニスを求めて自らうねり出した。
 己の腕の中で竜馬が感じている。これは夢なのだと思った。
 身体を起こし竜馬の陰茎を自分自身ごと握り込む。これが酔いの見せる夢でやがては覚めてしまうのならば、それまでは一番近くにいたい。
「あ——ッ」
 竜馬の身体がしどけなく震え、隼人の手がいのだと伝えてくる。隼人は器用に腰を振り、手とペニスの両方で愛撫を加え続けた。
「んあッ」
 竜馬の腰も一緒に動く。
「これっ……、い、いい……っ」
 声が溶けていく。
「すげ……っ、あっ、は、はやとに、いっ、れら……るみて、え……っ」
 とろんとした目に笑みが浮かんで、唇が嬉しそうな角度を作った。
「…………っ!」
 隼人が止まる。
「あ……、え……?」
「——竜馬」
 膝の裏側を思い切り押し上げる。
「えっ、おわっ」
 竜馬のそこが丸見えになる。竜馬自身が吐き出したものと隼人から溢れたものが混じり合い、ぬらついていた。
「なっ……、てめ、ちょっ……」
 肉が押し広げられ、さらには竜馬が尻を揺すぶることでその口は何かを待ち望むかのように喘ぐ。
「…………りょうま」
「えっ——あっ」
 隼人のペニスがこすりつけられる。
「あっ、あっ、やっ、あっ」
 鈴口が竜馬のすぼまりの上を幾度も滑る。そして時折、穴の真上で止まり、くいくいとつついた。
「〜〜〜〜ッ」
 溢れ続ける我慢汁がくちくちと音を立て始める。竜馬は咄嗟に右手で口元を覆い、声をこらえた。
「——ッ!」
 カリ首がその縁をくすぐる。
「……っう、ふっ、う……っ」
 興奮に薄桃色に染まっていた顔が真っ赤に変わる。竜馬は左手も使って自らの口を塞いだ。嬌声を我慢しているのか、それとも。
「竜馬」
「……ッッ! ン゛ッ!」
 いきなりは無理だとわかっている。それでもこの雰囲気のままに挿入できそうな気がして、隼人は竜馬のそこを弄び続ける。初めてだとしても、これだけ性感帯を刺激したあとなのだから、くすぐったさは淡い快感にすり替わっているはずだと思う。
 ひくひくと動いて、まるで恥じらいながらもねだるように隼人の先端に口づける肉をじっと見つめる。竜馬の口から「挿れてくれよ」と零れ落ちそうで、やめられない。
「竜馬」
 言ってくれないのなら。
 亀頭を穴に押し当て、く、と力をかける。竜馬が硬直し、その目が大きく見開かれた。
「————竜馬」
 ここで「挿れたい」とひと言伝えたなら、一線を越えそうな気がした。竜馬がこらえているのも、自ら誘う言葉を押し殺しているからではないか。
 緊張に穴がきゅっとすぼまる。そこをゆっくりと、ほぐすようにペニスの先で愛撫する。
「……っ、っあ」
 繰り返すと、再び竜馬のそこがひくつき出す。
「んあ……、む、むり……」
 小さく聞こえた。
 挿れて欲しくて我慢できないのか。行為自体を指しているのか。隼人は竜馬の目を覗き込む。
「は、はやと……っ」
 こんなにも切なげに、泣きそうな竜馬は見たことがなかった。これが自分を求めるあまりの表情であればいいと、隼人は尚もペニスをこすりつける。
「んうっ」
 反射的にぎゅっと目蓋を閉じる。隼人の手によって再び硬くなった陰茎が苦しそうに揺れた。
「りょうま」
 ペニスに触れる。先端から溢れた雫が細い糸を引く。
「……ッ、ン!」
 竜馬の頭がわずかに左右に振れた。
「……め、だ」
「——」
「だ、だめ、だ……っ、あっ……や、やめっ……」
 もっと、はっきりと聞こえた。
「は、はや……と……っ、あっ……、だ、め……」
「…………わかった」
 ここまで来て、止められるのが不思議だった。元の自分なら絶対に引かない。性欲でも支配欲でも暴力的な欲求でも変わらない。相手が罵ろうが泣き喚こうが関係なく、抵抗したら二、三発殴って黙らせていた。欲の向かう先を誰にも邪魔されたくなかった。
 今も簡単に竜馬を攻略できる位置にいるのに、なぜか押し切ることができない。
「その代わり、少し協力しろ」
「え……」
 両腿を合わせ、押し上げる。
「ン……っ」
「あまり力を入れるなよ」
「な、なん……っあ!」
 ペニスを滑らせ、内腿の間に挿入する。熱さとしなやかな筋肉が隼人を包む。贅肉のない腿は思った通りに締めつけてきて、限界まで張りつめた隼人にはそれだけで毒のような刺激だった。
「あっ、くすぐっ……、んっ、ンんっ!」
 腰を突き入れるたびに竜馬が声をあげる。普段から人に触れられる場所ではない。指とも違う独特の柔さと硬さを持ったペニスにこすられ続け、内腿が細かく震え出した。
「な、なんか、これ……っ、ひあ……っ」
 脛にキスをして、舌を這わす。
「はあっ、あっ……あっ、んあぁっ」
 時折、角度を変えて竜馬の敏感なそこかしこを舐る。竜馬も合わせるように身をよじる。こらえきれず跳ねる声が絶えず耳をくすぐり、隼人の中心部に流れ込んでいく。これ以上はない、と思っていたのに、まだ昂っていく。
「はや……とぉ……っ」
「——っ」
 見上げる瞳はとろけきっていた。
「りょうま……っ」
「あっ!」
 腰の動きが速くなる。ペニス全体に伝わる熱と肉が打ちつけられる音に、擬似的な行為だという事実が霞んでいく。
「りょ……まっ、イ、ク……っ」
「う、あっ、ふあっ……!」
 ぎり、と最後に耐える。瞬間、竜馬の腿に締めつけられ、ひくつく肢体に精液を吐き出した。
「……りょう、ま」
「ん……っ」
 指で白濁を広げ、竜馬の肌を犯していく。そのまま、触れられるのを待っているようにぴくついているペニスを掴んだ。
「お前も、もう一度出したいだろ?」
「あっ、あ……っ」
 精液がついた手でしごくと、すぐにくちゃくちゃと音が聞こえてきた。
「やっ、あ、あぁっ——」
 竜馬の腰が浮いて快感に追従する。簡単に達してしまいそうだった。
「……竜馬っ」
「んぅっ」
 唇に吸いついて、勢いのままに貪る。ペニスをしごく手にも力を加える——と、竜馬は全身を細かくわななかせ、あっけなく果てた。

 ふたり分の熱と汗と精液の匂いに囲まれ、口づけが続く。やがて呼吸が落ち着くとともに、少しずつ恋人同士のような甘いキスに変わっていった。
 何度も何度も唇を合わせる。
「ん、あ……、隼人……はやと……」
 呼び声も、たぶん今までで一番、甘い。
「…………竜馬」
 一夜だけにしたくない。
 抱きしめる。
 竜馬の匂いが胸を満たす。
 もう一度、竜馬の深い場所に触れて、今度こそその向こう側を確かめたいと思う。
「竜馬」
 許しを願うのは、生まれて初めてだった。
「竜——」
 しかし、声は届かない。
 腕の中の男は、何も知らないような無邪気な顔で眠りに落ちていた。

   †   †   †

 ぽかりと目を開けて、三度まばたきをする。
「……ッ!」
 直後、跳ね起きて、隣を見て声を呑み込んだ。
 そのまま固まる。
 隼人の寝顔が崩れないか十秒も凝視して、竜馬はようやく息を吐いた。
 自分の身体に視線を落とす。上半身は裸、タオルケットをめくってみると何も身につけていない。溜息をつく前にこもっていた性的な残り香が鼻先に流れてきて、太い眉がしかめられた。それでも見た目には綺麗に拭き取られていて、竜馬は下腹を撫でて指が滑るのを確かめた。
 ちらりと隼人を見る。
 もぞもぞと下肢を揺らし、何事かを懸命に考え、それからゆっくりと右手を尻へ回した。
 不安げな瞳でその部分に触れる。そろりとなぞって、違和感を探し——。
「人の目の前で朝からオナニーでもする気か」
「——い゛っ⁉︎」
 声をかけると、竜馬の喉から奇妙な鳴き声が発せられた。
「て、てめっ……、お、起きてたのか……っ」
 慌てて手を離し、誤魔化すように左手で押さえる。
そっち・・・は使っていない」
 溜息とともに投げやりに言うと、竜馬がよそよそしく「お、おう」と返してきた。声がうわずり、視線が泳いでいる。隼人のほうは見ない。意識して逸らされているようだった。
 たった今、目の前で見せられた竜馬の表情にショックを受けていた。自分の肉体が異物の挿入を許したのか恐る恐る確かめて、記憶と身体の感覚とを一致させて——ほっとしていた。
 狼狽のさまもまた、昨夜の行為は過ちだとの証左に思われて、隼人は再び溜息をついた。そわそわと居心地の悪そうな竜馬の態度に、気持ちが黒く塗り潰されていく。
「酔い過ぎるとロクなことはないな」
 自分に言い聞かせる。
 早くこの場から逃れたい。けれども、それは昨夜のような時間がいつかまた訪れるかもしれないという淡い期待を手放すことでもあった。
 本当は、手放したくない。無理やりにでも、自分のものにしてしまえばよかった。そうすれば、きっと満たされるはずだった——心が手に入らなくとも。
「……」
 竜馬の背中を見つめる。決して大柄ではない。格闘をするうえでは不利な体格だ。それでも、今まで出会ったどんな人間よりもタフで、勘がよくて、強かった。
 それに。
 綺麗な身体だと思っていた。
 過不足なくついた筋肉は父親が提示した訓練メソッドを忠実にやり遂げた結果と、持って生まれた資質なのだろう。触れてわかった。想像以上にしなやかで、今も手のひらに弾力が残っていた。
 拳を作り、その感触を握り潰す。夢は所詮、消えるものだ。
「……間違いが起きなくて何よりだ」
「え」
 竜馬がこちらを向く。今度は隼人が瞬間的に目を逸らした。
「お前も、これに懲りたら深酒はするな」
「……」
「犯されなかっただけ、よかったと思え。それから、人の部屋にいつまでもいるんじゃねえ」
 ベッドの端に脱ぎ散らかされているタンクトップを取り、胸元へ放る。
「昨日のことは忘れてやる」
 忘れるなど、到底できやしない。だが、そう言うしかない。
 のろのろとした動きで竜馬がタンクトップを掴む。
「お、俺」
 それきり時間が止まってしまった。
「…………?」
 盗み見る。竜馬が俯いていた。呼吸をしているのかもあやしい。
「……竜馬?」
「——その」
 溜息のように息を吐いて、ぽつりと零す。
「……別に、嫌だったワケじゃねえ」
「何?」
 思わず顔を向ける。少しだけ目線を上げて、竜馬が隼人の顔色をうかがう。いつになく神妙で、それでいて心許なさげな表情だった。
「けど、その……順番、違えだろ」
「順番?」
 いったい、何のことか。
「え、と……その、さ、最後まですンのは、そういうことちゃんとしたあと、っつうか」
 しどろもどろで、よく聞こえない。
「き、昨日は酔っ払っちまってたし、その」
「……だから、誰でもよかったんだろう?」
「ちが——」
「俺になら、言い訳する必要はない」
 むしろ、聞きたくない。
「そうじゃねえ。き、キスとかいろいろしちまったけど、その」
「だから」
 苛立ちが込み上げてきて、声に険が出る。
「はっきり言ったらどうだ」
 部屋の中が静まり返った。
 いたずらな目つきでキスをしてきた。あのときと同じように「酔ってたからしゃあねえな」と笑い飛ばしてくれればいいものを。
 竜馬らしくない。
 そう思って、自分だって同じだと気づく。
「……酔ってたからって、あんなこと誰とでもするワケねえだろ」
 右手がタンクトップをくしゃりと握りしめる。
「俺、隼人だから…………、だからその……最後までヤるんなら、その前に言うこと……あんだろ」
「……」
「一応、俺だってその、そういうの気になるンだよ」
 ちらと竜馬が視線を寄越す。それでわかった。
「……なら、言ってくれ」
 竜馬の右腕を取る。
「——っ」
 動揺が手のひらから伝わってきた。
「竜馬」
 顔が背けられる。
「お、俺はいい」
「ここまで言っておいて、自分は逃げるつもりか」
「お、おめえ頭いいだろが……」
「……だから?」
 こく、と竜馬が唾を飲んだ。
「ン、ンなこと言わなくったって、その……わかれよ」
 竜馬の顔が赤くなる——耳も、首筋も。

 いったい、どういうことだろうか。
 隼人は首を傾げる。
 奈落の底に落ちた気分を味わった次は、遙か天の上に浮かぶ心地か。
 こんなにも都合のいいことがあるはずがない。やはりこれは夢だ。

「竜馬」
 引き寄せて抱きしめる。竜馬の匂いがして、あたたかさに触れられて、跳ねた髪の先が肌をくすぐってくる。ずいぶんとリアルな夢もあったものだと思う。
「……お、おめえこそ、何か言えよ」
 おずおずと竜馬の手が背中に回される。
「おめえ、いつもスカしたツラしててよぉ、……わかりづれえンだよ」
「そういうことなら、言ってやらないでもない」
「……ンだよ、その言い方」
「俺だって、お前の口から聞きたい」
「——」
「そうか。言わないのなら、言わせてみせるのも楽しいかもな」
 背中を撫で下ろし、指先で尻の丸みを軽くなぞる。
「ン……!」
「……竜馬」
 長い睫毛が伏せられる。いつもの勝ち気な竜馬とは違って、微かに震えていた。そっと口づけて、唇を耳元へ滑らす。
「竜馬」
 ひくりと揺れる身体を逃がさないように、腕に力を込める。
 こんなふうに、らしくないことをしてしまうのも、相手が竜馬だからだ。最初から負け戦だった。
 そういえば、と思い出す。
 竜馬が言っていた。
『俺の勝ち』と。
 それでも構わない。いつか覚める夢だとしても、今はひたすら溺れたい。
「竜馬」
 ひと言、ささやく。

 

「好きだ——」