獣たちの戯れ

新ゲ隼竜R18

つきあって3ヶ月目くらいの、ちょうどお互いにめちゃくちゃ夢中になっている頃合いの隼竜。
ゲットマシンの名称元になった動物に自分をなぞらえて「喰ってやる」「噛みついてやる」のように執着を滲ませながら戯れ合うふたりのお話。約5,800文字。
・キスをしながら互いに唇を噛むシーンがあります。少しですが血が出ます。
・隼人が竜馬 > ゲッター線です。
・野生動物の捕食シーンを思わせるセリフ、描写があります。キツくはないとは思いますが、ご注意ください。
・行為としては本格的な前戯の前段階に留まります。会話中心。

自分たちをイーグルやジャガーになぞらえるの大好きです。『玉座へは帰さない』もお気に入りですが、また書きたくなっちゃいました。

2023/9/11pixivにも投稿済み。

◆◆◆

 滲んだ血をぺろりと舐めて隼人が笑う。
「窮鼠猫を噛む、か」
 すぐに「あ?」と訝しげな声があがる。
「キューソ?」
「追い詰められた鼠が、今から自分を食おうとする猫に噛みつくことだ。たいしたことのない相手でも、いざというときは牙を剥く」
 竜馬は瞳をくるりとひと巡りさせて、
「てめえがネコ? そんで俺が……ネズミ?」
 不満そうに口を尖らせた。反対に、隼人はニヤリとする。唇の動きにつられ、また血が薄く広がった。
「まあ、それほどダメージはないがな」
「なら、もっと噛みついてやろうか?」
 竜馬がガチ、と歯を鳴らす。
「ホントは俺に噛みつかれンの、好きだったりしてな」
「そう言ったら、噛んでくれるのか」
「おめえ、そんな趣味あンのかよ」
 身体を起こし、隼人に跨る。
「……そうだな、嫌みな言い方しねえで、素直に『お願い』してくれたら、考えねえでもねえ」
 かすめるようなキスをして、笑う。
「けど、俺がネズミってのは気に入らねえな。『たいしたことのない相手』ってのもだ」
 唇に移った血を舐め取ると、再びキスをする。たった今つけた傷痕を甘噛みすると、隼人の舌が迎えにきた。
「ン……」
 竜馬は隼人の首に腕を回し、受け入れる。血の味はすぐに消える。深くないとはいえ噛みついたのだから、返礼の傷は当然つくものと思っていた。だが予想に反し、口づけは優しかった。まるで竜馬の理性を溶かして懐柔するような甘さだった。
「ん、ンぅ……」
 舌の動きにつられ、竜馬の下肢がうねり始める。最前から熱を持っているその部分がひくりと蠢いた。
「は……、ん、はや、と……、ン……っ」
 たちまち声に艶が浮き出て、身体をこすりつけてくる。ほんのわずか唇が離れると、隼人の愉快そうな声が零れた。
「鼠じゃなく、犬か」
「……あ?」
「盛りのついた、犬」
「……っン!」
 耳元でささやかれ、ぶるりと竜馬が震える。隼人は満足げに目を細め、もう一度唇を合わせた。
 ひとしきり柔い愛撫を与えたあとで隼人の上体がゆっくりと仰向けになる。
「……隼人?」
「犬なら犬らしく、腰を振ってみたらどうだ」
 煽る。案の定、竜馬の顔がわかりやすく歪んだ。
「欲しいなら、自分でねだってみろ」
 さらに焚きつける——下から腰を突き上げて。
「っ! ……てンめえ」
 その目つきと声は誘いに乗ったと同義だった。隼人の喉奥からクヒ、と小さく漏れる。本気の遊び・・・・・を吹っ掛ける相手は竜馬だけだった。竜馬も、本気で向かってくる。その悦びが自然に笑みとなって溢れてくる。
「ニヤニヤしやがって……、こ、の……いい気になンなよ……!」
 竜馬の下肢がぐっと押しつけられる。ふたりとも、とっくにボクサーパンツ一枚になっている。指での愛撫はまだなのに、竜馬のそれは一瞥して形がわかるほどになっていた。
「く、そ……っ」
 煽り返すように尻をこすりつける。柔らかい部分が隼人の竿を押し包み、しごき上げる。下着越しとはいえ熱も質量も伝わる。隼人の口元からは一瞬、笑みが消えた。もちろん、竜馬は見逃さない。
「へへ……」
 隼人と入れ替わりに笑みが湧き出る。
「おら、どうしたよ。なあ、ン……」
 竜馬の腰が器用に動く。時折、亀頭同士を合わせてぐにぐにとなぶった。
「てめえだってこんなにチンポ硬くして、よぉ……、ん、ん……、ハツジョーしたネコじゃねえか」
 きゅ、と腰をひねると、隼人の身体がびくりと反応した。
「ン……、すっげえくっきり浮き出てンな。おめえ、いつもより勃ってンじゃねえ、の……」
 上体を反らして後ろ手で支える。尻を前に突き出し見せつけるように股を広げると、弾力を弄び始めた。
「ふ……、あ、あ……」
 隼人の目が釘付けになる。布の下で、竜馬のペニスがひくついているのが見て取れた。
「んあ……」
 じれったそうに竜馬が尻を振る。布同士がこすれ合い、互いに汗と先走りが混じったものがうっすらと滲んでくる。火照る竜馬の肌に、隼人の指の熱さが加わった。
「ン……!」
 指先が内腿からゆっくりと這い上がる。下腹に触れると反射的に筋肉が締まり、隼人の指を押し返してきた。
「ん……ふ、ふぁ」
 指が滑るたび、甘い声が漏れる。腹筋の割れ目をなぞり盛り上がった肉の塊を撫でつけると、竜馬の身体が震えた。
「あぁっ……ん、ン……ふ……っ」
 こらえきれず喘ぎが落ちて、もっと、と言わんばかりに肌を押しつけてくる。隼人はその分だけ引いて、同じタッチでくすぐり続けた。
「な……ン」
 竜馬が近づく。隼人が引く。
「あ……、て、め……っん、ン」
 刺激欲しさに竜馬の眉がしかめられた。
「クソ……、まどろっこしい触り方……すンじゃねえ、よ」
「あまり色気のない誘い文句だな」
「ンな」
「もっと、その気にさせてくれよ」
「てめ、こんなチンポ硬くしてよく言——っ」
 腹から胸へ、一気に撫で上げる。
「はあ——っ、あっ!」
 竜馬が仰け反る。触れられるのを待ち構えていた乳首をこねてやると、鼻にかかった声をあげて身をよじった。じわりとペニスの先端部分の染みが広がる。
「竜馬」
「——っあ、あ」
 少しだけ強く、肌を撫でる。それから乳首を軽くつついて、つまんで、胸全体を揉んでやる。あっという間に乳首も乳輪もぷくりと膨らんで応えた。
「うぁ……っ、あっあっ」
 泣きそうな顔と声で竜馬が誘う。
 全部、隼人が覚えさせた。
 最初から相性は抜群で、肌を合わせるたびに互いのより深いところがわかっていく。絶頂を迎えるときはふたりの身体が溶けて混じり合っているかと感じるほどで、隼人にしてみればこれ以上の相手は存在しないとまで言い切れた。竜馬を知っているのは——一番、理解しているのは——己だと自惚れてしまう。それほどに、のめり込んでいた。

 今は、ゲッター線よりも。

 三人での闘いにも慣れて、ゲッターロボの操縦もこなれてきた。鬼獣も「難なく」とは言い過ぎだが、危機的状況に陥ることなしに捌けている。しかし敵の正体も目的も、ゲッター線の存在も謎のままだった。
 よく言えば平和、小康状態。悪く言えば停滞、行き詰まり。図らずもルーティン化したかのような闘いと探究の日々。ただでさえ世間と隔絶された、閉じられたこの世界で、竜馬との関係だけが変わり続けていた。
 隼人はまじまじと眼前の男を見つめる。
 刻一刻と表情を変える竜馬を、一瞬たりとも見逃したくない。
 ゲッター線などという得体の知れない、けれども触れた者を惹きつけ虜にし、やがては狂わせるだろうシロモノは、ひと目見たときから特別な位置づけだった。まさしく天地がひっくり返った。だが竜馬との出会いも特別で、今は日ごと竜馬自身に己が呑み込まれていくような不思議な感覚を味わっていた。
「……」
 どうやら、竜馬はゲッター線にとっても特別・・らしい。
 ほんのごくわずかだが、気にかかるデータがあった。ゲットマシンの性能の差異と考えればさほど不自然さはない。それでも、勘が告げていた。自分の思い違いだと確信を得るまでは落ち着けなかった。
 ほかのものに、竜馬をられたくない。
「なぁ」
 不貞腐れた声に思考が止まる。
「おめえ、余所見してンじゃねえぞ」
「——余所見?」
「してンだろ? 今」
 不満げな目つきと唇。それで、指が止まっていたと気づく。
「俺じゃなくて、ほかのこと考えてたンだろ」
「……ほかの、こと?」
「誤魔化すンじゃねえよ。どうせゲッター線のことだろが」
 隼人の目が見張られる。単なる驚きからだけではなかった。
「…………竜……馬」
 嫉妬している——あの竜馬が。
 隼人の視線と心の行き先を追っている。素通りされることに腹を立て、隼人の気を引こうとしている。
 こんなことは初めてだった。
 求められているという意識に胸の中がざわめく。同時に、妙なおかしさも込み上げてきた。確かにゲッター線のことは考えていた。けれどもそれは竜馬を奪われたくない独占欲からだった。竜馬もまた、ゲッター線に嫉妬している。隼人の関心を引きつけてやまない存在が気に入らないと——。
 竜馬の右手が隼人の心臓の上に置かれる。
「なあ」
 ギッと爪が立てられる。深爪ぎりぎりに切り揃えられているから、それだけでは皮膚を切り裂くことはない。だが、もう少しだけ力を込めれば薄い皮が破れそうだった。
「俺のイーグル号……イーグルって、ワシだったよな。あれ、すっげえ爪ついてたろ」
 いつだったか、機体の名称元となった動物の話をしたことがあった。ふたりで動画を見て——竜馬はワシの巨大な爪と鋭いくちばしにはしゃぎ、狩りのシーンを食い入るように見つめていた。
「肉食だったよな」
 広げると二メートル以上にもなる翼で悠然と空を飛び、獲物を見定め、難なく仕留めていた。憐れな野兎は毛を毟られ、肉を引き裂かれていた。
 竜馬の唇が隼人の右耳に触れる。
「おめえの心臓、喰ってやる」
 言葉が現実をもたらしたかのように、隼人の胸の奥がズクリと疼いた。
「——」
 ぎらつきと艶っぽさが同居する瞳が見下ろしてくる。
「それから」
 右手が身体を這い上がる。頬を撫で、親指の腹が目の縁をなぞった。それから上の目蓋にそっと触れ、押し下げた。竜馬は薄い目蓋を舌先で舐め、口づける。
「ここも、つついてやる」
「……りょう、ま」
 隼人の手が竜馬を抱きしめる。
「目ン玉なくなったら、もう余所見できねえだろ? だから喰ったら……、おめえは俺のモンだ」
「——竜馬」
 腕にもっと力を込める。竜馬が強く抱きしめ返してきた。
「……なら、俺はジャガーだからな」
「え」
 まばたきする間もなかった。
「ンッ!」
 下唇が熱く痺れ、次の瞬間には竜馬の口腔内に鉄の味が広がった。
「てめ……ン、ん」
「俺だってお前を喰える」
 滲み出た赤い血を隼人が舐め取る。
「……ン」
 じんじんとした鈍い痛みは、口づけが長くなるほどにひりついた快感に変わっていく。竜馬は隼人の髪を撫で、心地いいと伝える。隼人は指先で竜馬の襟足を弄び、それから後頭部の髪の中に指を差し込んで軽く引っ張った。
「ンっ……」
 顎が上がる。隼人の唇はそのラインに沿って這っていく。
「んあ、は、あ……っ」
 空いているほうの指先で顎の縁をなぞる。そこから生まれて伝播していく快感に、竜馬から吐息が零れた。
「竜馬」
「っン!」
「ジャガーだって、鋭い牙を持っている。肉だけじゃなく骨も噛み砕いて、髪の毛の一本までも喰らい尽くしてやる」
 首筋に軽く噛みつく。そのまま肌を舐め上げる。
「あっ……あっ」
 竜馬が喘ぐたびに、舌先に筋肉の蠢きと鼓動を感じた。
 隼人の腕の中に竜馬がいる。生きて、ここにいる。
 それはゲッター線の解明よりも尊い歓びのように思えた。
「ン……、はやと……」
 ささやきに目をやる。
「おめえになら……喰われてやっても、いいかな」
 扇情的な目線が流れてきた。隼人は息を呑み——竜馬を押し倒す。
「ンだよ、……っん、生意気で気に入らねえってか?」
 そうは言いながらも、竜馬の口元は楽しげな角度を描いていた。
「いいや、その逆だ」
 隼人の唇も同じ角度を作る。
「逆?」
「興奮した」
「わっ」
 慣れた手つきで素早く下着を剥ぎ取る。
「ちょ、おめ——んあっ!」
 隼人の長い指先が触れる。この瞬間を待っていた竜馬のペニスがさらに張りつめる。
「あっ、あっ」
「……竜馬」
「はや、と、あ——ン!」
 竜馬に覆いかぶさる。唇を食み、舌を吸い、内側の粘膜をなぶる。同時にペニスをしごくと、ひくつく肉の先から溢れてくるものがあった。その雫を糧に、またしごく。その腰が隼人の手に合わせて動いた。
「んうっ、ンっ」
 一気に押し寄せる快感に、あっという間に攫われる。竜馬はしおらしく震えて隼人の指に行く先を委ねた。
「どこから喰ってやろうか」
 ぬらついた指が下に滑り、ひくついているアナルをさすった。
「んっ」
 表面を優しく撫でてほぐしていく。
「あ、あ」
「お前はどこも、すぐに出来上がるな」
 薬指の先に少し圧をかけるだけで飲み込まれていく。
「ふぁ……っ」
 隼人のほかには誰も知ることのない溶けた声。
「あ、ん、んあ……っ、は、はやと……、あっ」
 竜馬の左手が——いつもは闘うためだけの拳が開かれて——愛おしそうに隼人の頬に触れた。隼人はその手のひらにキスをする。
「ン……俺……」
「うん?」
「俺……、きっと喰っても喰っても……んっ、なくならねえ……ぜ」
 夢見心地に潤む瞳で、挑発的な科白を投げかける。
「それでも……喰ってくれンの、か」
「——竜馬」
 隼人の目が爛々と輝き出す。
「お前、いつの間にそんな誘い文句を覚えた?」
 中指に切り替えて、もっと奥まで挿入する。
「んあっ、あっ、そこ……っ」
「ここだろ?」
「あッ」
 一瞬で表情がだらしなくほどける。
「い、いい……っ、あ、ひっ」
 くちくちと音を立てていじってやると、全身がうねり始めた。指を二本に増やす。すると竜馬はあられもなく股を開いて、快感を貪り出した。
「はやとの、ゆび……っ、あっ……あっあっ!」
 肉が指を包み、吸いついて蠢く。むしろ、隼人のほうが喰われていると言ってよかった。
「お前は……欲張りだな」
「ひあッ——」
 中をこすり、揺らしてやると締めつけてくる。
「竜馬」
「……っ」
 唇に触れている薬指の先を口に含み——歯を立てる。竜馬の中がひくりと痙攣した。
「…………はやと」
 目が合う。

 欲も熱も同じほどに。その奥に垣間見える気がする狂気までも。

「……竜馬」
 本当に喰い合って、血も肉も内臓も、全部混ざり合ってしまえたらいい。それが一番倖せなのかもしれない。
 けれども隔たっているからこそ求め合って、その先で得られるものもある。果てを目指すことでしか手に入れられないものがある。
 隼人の舌が竜馬の薬指に絡みつく。竜馬はうっとりと目を細めて、
「ちゃんと全部……喰ってくれよな」
 乞うて、赤い唇をちろりと舐めた。