いちごオ・レのその後は

新ゲ隼竜

つきあってます。隼人の作業が終わるのを隣で大人しく待ってる竜馬。キスまで。約1,400文字。2021/1/10

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 甘いものを飲むといつまでも口の中に残るので、口直しに他のものがまた飲みたくなる。
 そんなことを竜馬が言い、隼人は答える。
「なら、飲まなきゃいいだろう」
「けど飲みてえンだから、しょうがねえだろ」
 ずず、と音が鳴って、残量が僅かであることを知らせる。
「無性に飲みたくなる時があるンだよな。おめえ、こういうの飲まねえのか?」
「飲まん」
「コーヒーは?」
「ブラックだ」
 小気味よい、というよりは斬って捨てるような返答。だが慣れ切っている竜馬には、普通に会話が続いているだけだ。
「でもよ、ガキん頃とか飲まねえか、こういうの」
 飲み切りサイズの紙パックをひらひらさせる。
「忘れた」
 嘘だろう、と竜馬は思う。
 隼人は並外れた頭脳の持ち主なのだから、生まれた時からの記憶があると言い出しても驚かない。それは大袈裟な例えだとしても、本当に忘れているのではなく、単に言いたくないだけだろう。
「……はーん」
 竜馬はひとりで納得した風な声を出す。
 
 ——さては、飲み過ぎてゲロ吐いて嫌いになったクチか。
 
 竜馬曰く「お高くとまりやがって」になるのだが、隼人は品がいい。食べ方が綺麗で整理整頓を好む。女性所員が困っている場面でさりげなく手伝う姿を何度も目撃されている。
 きっとそれなりの家庭の出なのだろう、と多くの所員が噂していた。
 それが本当なら、好きなだけ菓子を食べられるし、飲みたいものも飲めるだろう。好物のあまり大量に口にし、気持ちが悪くなって以降その食べ物が嫌いになった、という話は少なからず聞く。
 竜馬でも、いちごオ・レを大ジョッキで一気飲みしたらそうなるのではないか。
 
 ——多分、それだな。
 
 勝手に話のオチをつけ、竜馬は紙パックの角にストローを寄せ、溜まった飲料を吸い取った。
「何か勝手に想像してるだろう」
 隼人の言葉は疑問形ではない。
「さあな」
「まあ、いい」
 カタッと乾いた打鍵音を最後に、隼人はノートパソコンを閉じた。
「終わりか?」
「ああ」
 返事を聞くと、竜馬は腰掛けていたデスクから勢いよく降りた。
「椅子があるんだから、そっちに座ったらいいだろう」
「たまには座ってるだろう? けど、こっちの方が眺めがいいンだ」
「眺め?」
「ああ、おめえを見下ろせる」
 隼人はふん、と鼻を鳴らしてペットボトルから炭酸水を一口飲んだ。
「その味のしねえ炭酸、うまいのかよ?」
「ああ。飲むか」
「いや、いい。さっぱりしてンだろうけど、炭酸は甘い方がいい——あ、ビールも好きだぜ」
「そうか」
 もう一口、喉に流し込むと立ち上がる。横からその顔を見ていた竜馬は自然、上向き加減になる。
 そのまま竜馬にキスをする——そこまでが、まるで一続きの動作のように。
 隼人の唇と舌はひんやりとしていた。直前の炭酸水のせいだろう。甘さの残る竜馬の舌には心地よく感じる。
「ふ、……ン」
 隼人の自由にさせる。舌先で軽く歯茎をなぞられ、声が漏れた。
「……甘い、な」
 囁いて、隼人は自分の唇を舐める。竜馬にはその仕草が情欲的に映った。
「口直しになったか」
「……まあな」
 だが幾分かの清涼と引き換えに、竜馬の頭の奥に痺れるような熱が生まれた。
「隼人」
 目線で唇を催促する。
 隼人はバードキスで応えた。
「ン、……なあ、はや、と」
 焦らされているようで、竜馬は堪らずねだる。 
「ミルクの匂い——まるで赤ん坊だな」
 隼人は笑い、深く口づけた。