つきあってます。竜馬の指にできた切り傷にキスをする隼人のお話。約800字。2021/8/26
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舌打ちが聞こえた。隼人がちらと視線を投げると、竜馬が右の人差し指を眺めていた。
「切った」と、指の背を口に含む。
「深いのか」
血は見えなかったが程度がわからないので訊ねる。
「いや、気づいたら紙とかどっかに引っ掛けてて切れてるヤツ」
何度か指を吸っては離す。血の滲みを確認しているようだった。
「たいした傷じゃないだろう」
隼人は「そんなことか」という響きを込める。
「まあ、そうなンだけどな。……こういうのって、いつまでもチリチリするっつうか、ひりひりすンだよな」
それには隼人も同意するが、軽く非難した手前もあって心の中でそうだな、と呟くに留めた。
「ゲッター線で治ったりしねえのかな?」
竜馬が突飛なことを言う。隼人は天井に目をやり、考える。
「……治るとしたら、ゲッターエネルギーが細胞の分化に——」
大真面目に答えかけて、黙る。
「よそう。どうせわからないだろう」
「おめえ、いつも人を馬鹿にするな。ま、確かに俺はそういうのは向いてないンでね」
むっとするでもなく、竜馬が笑う。
「気になるなら絆創膏でも貼るか」
「いらねえ。舐めときゃ治るだろ」
もう一度、人差し指を見た。隼人が近づき、その手を取る。
「ここか」
指の背に縦1cmの薄いライン。
す、と隼人の頭が下げられた。
隼人が傷に口づける——まるで騎士が聖女の手にするように。
「——」
「人に舐めてもらったほうが、効果があるんだぜ」
ニヤリと笑い、再び人差し指にキスをし、今度はぺろりと舐めて軽く吸った。
「……嘘つき野郎」
小さく責めるように——本心からではなく——竜馬が零す。
「本当さ」隼人は答える。
「俺と、お前だけの」
隼人が真顔で言うと落ち着いた低い声と相まって、何でも真実のように聞こえる。竜馬はいつも、そうやって絡め取られる。
「おめえ……狡いよな」
竜馬はほのかに赤い頬で目を伏せた。