つきあってます。竜馬がミント系の味に弱いと知って、こっそり歯磨き粉を変える隼人のお話。約1,000文字。2021/8/26
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パッケージを見て、竜馬が眉をひそめた。
「嫌いか?」
弁慶はぷう、とガムを膨らませる。
「うーん」
竜馬が唸っている間にぺち、と風船が割れる。弁慶は口の周りに張りついたガムを舌で器用に回収する。
「これ、眠気覚まし用のだろ」
「ああ。飯食った後だから、すっきりするぞ」
「俺、スースーするの嫌なンだよな」
「じゃあ、こっちやるよ」
ズボンのポケットから個包装のガムを取り出し、テーブルにぱらぱらと撒く。駄菓子屋で売っているような、カラフルでポップなガムだった。
「あっ、オレンジくれよ」
さっそく竜馬が手を伸ばす。
「隼人は?」
弁慶が訊く。
「見てわからんか。まだ飯の途中だ」
「ええと、隼人はブドウとかイチゴって感じじゃねえよな。うーん、やっぱこれか」
「……」
呆れた目つきに気づいていないのか、弁慶は隼人のトレイにクールミントのガムを置いた。
「しばらくぶりだよな」
心なしか、竜馬がそわそわしながら言う。
顔を合わせない日がないのに、夜の逢瀬は幾日かぶりだった。
「何だ、寂しかったのか」
「ばっ……」
竜馬が赤面する。つくづくからかいがいのある奴だ、と隼人は思う。素直なこの男が羨ましく、愛おしい。
朱の差す頬に触れる。熱が指先に心地いい。
「……」
見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねる。浅く短く——やがて深く、強く。
「ン……ん?」
ふと、竜馬の顔が離れる。
「……どうした?」
「ん」竜馬はぺろりと上唇を舐める。
「歯磨き粉の味、変えたか?」
「…………ああ」
「全然味がしねえ」
「するほうがいいのか」
「そういうワケじゃねえけど、いつもと違うから何か変な感じ」
笑った。
「……この前、ガムの味の話をしてたろう?」
「お? ああ、そうだっけな」
「ちょうど使っていたものがミントが強めでな——だから」
隼人はふいと目を逸らす。竜馬は三秒ほどぽかんとし、意味を理解する。
「俺が嫌がってると思ったのか」
「…………まあな」
ぶすっとして不機嫌に見えるのは、照れているからだと竜馬は知っている。
「ほんのちっとばかし、わかるだけだ。歯磨き粉を口にブチ込まれンじゃねえし。嫌に思ったこと、ねえぜ」
隼人の下唇を、親指の腹で撫でた。
「……それに」
ちゅ、と可愛らしいキスをして、また唇を撫でる。
「おめえ、キスがうまいからすぐに飛ンじまって……どうでもよくなっちまう」
もう一度、軽く口づける。
「だから……なあ」
言って、続きを求めた。