つきあってます。気づかないうちに竜馬の癖がうつってしまった隼人のお話。約1,000文字。2021/8/26
※都々逸の「ほれた証拠はお前の癖が いつか私のくせになる」から着想を得たもの。
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「おめえ、そんな癖あったンだな」
竜馬が犬歯を見せて笑った。
「何?」
「だから、癖」
「癖だと?」
危ない橋を渡る者は人の印象に残る真似はしない。とある仕種が目立つのであれば、それは作り物で、わざとだ。
「そんなものはない」
テロリストという肩書き——平たく言ってしまえば——を外した今も、特徴的な癖は身についていないはずだ。
「あるから言ってンだよ」
思い当たる節もなく、隼人は不機嫌そうな顔つきになる。
「いい加減なことを言うな」
「何だよその言い方」
今度は竜馬がむっとする。
「やたら同じポーズしてっからよお、癖だって言っただけだろ」
「どこが」
「こう」
竜馬は右手を軽く握って顔に近づけ、親指を顎の下に添えた。人差し指は唇の下のくぼみに。何か思案する時のような手の形。それから人差し指を軽く持ち上げ、そっと唇をなぞってみせた。
「おめえ、よくこうしてるぜ」
隼人は息を呑む。
「気づいてなかっただろ」
得意げに竜馬が笑い、小首を傾げた。どうだ、と言わんばかりである。
「残念だが」
隼人の表情が一瞬にしてゆるむ。穏やかな眼差しで竜馬を見つめる。
「それは俺の癖じゃない」
「あ?」
「お前の癖だ」
矛先が向いて、竜馬が首を曲げたまま固まった。意味が理解できないでいる。
「……ンな?」
「お前が、よくこの仕種をしている。俺はお前を見過ぎて——うつってしまったんだろうな」
確かに癖ではあるな、とどことなく嬉しそうに隼人が言った。竜馬は納得がいかない。
「はあ? 俺、そんな——」
もう一度、その仕種をしてみる。しばらく考えてから。
「————ッ」
バッと勢いよく手を下ろした。
「思い当たることがあったか」
「……」
「竜馬」
隼人が顔を寄せる。
竜馬はふいと背ける。
頬はほのかに紅を差し、唇は不貞腐れたようにとんがっている。
「どうした」
その頬に口づける。
「……う」
竜馬はバツが悪そうに目を泳がせた。
「どんな時に、あの仕種をするんだ?」
唇をそっと人差し指で撫でた。
気持ちよさそうに、竜馬の唇から吐息が零れる。
「教えてくれ、竜馬」
甘くささやく。
竜馬は耳をくすぐる声に身を震わせ「ン」と小さく鳴いてから、おずおずと口を開いた。
「……は、隼人の」
かあっ、と顔全体が赤くなる。
「思い出して…………」
俯く。
「竜馬」
くい、と顎を上げる。竜馬は恥ずかしそうに目を瞑り、
「……キス、の感触」
消え入りそうな声で答えた。