たまには悪くない

新ゲ隼竜

つきあってます。ワイシャツ姿の隼人を見て、ワイシャツフェチと着衣プレイ(攻め側の)に目覚めるかもしれない竜馬のお話。冒頭でミチルがワイシャツ萌えについて語るシーンがあります。ミチルは男性のワイシャツ姿が好きなだけで、隼人には興味はありません。約1,700文字。2021/8/26

◆◆◆

 不信感丸出しの竜馬に、淡々とミチルは答えた。
「私がお願いしたの」
「この、格好を?」
 隼人を指差す。隼人はちらりと竜馬を一瞥しただけで、またコンピュータに視線を戻した。
「そうよ」
 悪い? とでも続きそうな響きだった。
「……まあ、おめえが好きならそれで構わねえンだが」
「勘違いしないでちょうだい」
 きっ、と目がつり上がる。
「私は神君には興味はないの。というより、中身はどうでもいいの。ただ、男の人にワイシャツを着て欲しかっただけ」
 意味がわからない。だが、ミチルが隼人を好意の対象としていないのだけはわかった。それで竜馬の気持ちが落ち着く。
「けど……何で隼人なンだよ」
 少し余裕が出て、訊ねた。
 俺も弁慶もいるだろ、と唇を尖らせる。着たいわけではない。単に選ばれないことが不満に思えた。
 ミチルは深い溜息をつく。
「あなたは、すべてにおいてガサツなのよ」
 首を横に振る。
「武蔵坊君の体型は、ワイシャツが可哀相」
 腕を組む。本気で考えている時のミチルだ。
「その点、神君は姿勢もいいし、特に動きが綺麗なの。肩幅も背中の厚みもある。大胸筋のラインも申し分ない。ウエストは絞れているし、変に筋肉がつき過ぎてもいない。バランスのいい体型なの。ワイシャツがセクシーに映える身体だわ」
「せ、せくしー?」
 ミチルが、ふ、と笑う。
「そう、色っぽいってこと」
 うっとりと目を細める。
「今日は長袖のままだけど、袖口を三回折り返した時の腕もいいのよ」
「さ、さんかい……」
「二回もいいけどね、私は三回派。半袖は悪くないけれど、長袖のほうが断然好きよ」
 よどみなく流れる言葉に、竜馬は「お、おう」と答えるしかなかった。

 その夜、ワイシャツとスラックス姿で隼人が訪ねてきた。
「一日、そのままだったのかよ」
 竜馬が呆れる。
「おめえ、ずいぶんと素直じゃねえか」
 隼人の性格上、無駄を嫌うし他人に迎合しないはずだ。
「どんなワイロもらったンだよ」
 隼人はまっすぐ保冷庫に向かい、ミネラルウォーターのボトル——隼人専用の——を取り出す。
「防衛庁にも出していない、早乙女博士の研究レポートを見せてもらう約束をした」
 キャップを開け、流し込む。
「もちろん、ゲッター線のな」
 答えが隼人らしさに満ちていて、竜馬は笑った。
「それに、返さなくていいと、汚れても破けても構わないと言われたしな」
 ボトルを置き、左袖のボタンを外す。しなやかな指の動きと少し傾いだ端正な顔が竜馬の目を引いた。
「彼女の性癖はわからんが、着ているだけで博士のレポートが読めるなら安いものだ——少々、動きづらくはあるがな」
 右も外す。竜馬の視線には気づかない。
 次いでネクタイの結び目に長い人差し指をかけ、く、とゆるめる。
「あ——」
 竜馬が思わず声をあげる。
「うん?」
「その、待て」
 右手の指を広げ、制する。さっきまで笑んでいたはずの目は真剣そのものだった。
「……その、そのまま」
 じっと隼人の身体を見つめる。
「——」
 目が離せないのは、見慣れないからというだけではない。普段とは違う色気が竜馬をとらえる。
「ワイシャツがセクシーに映える身体」とミチルは評した。
 身体のラインにフィットする、という点ではいつものぴったりとしたTシャツに軍配が上がる。だが体型に沿ったワイシャツはちょっとした動きでも筋肉の形のよさが倍にも感じられた。首筋も二の腕も露出していないのに、妙に男を匂わせる。スマートな動きのせいで逆に強調されるのかもしれないし、見えない分だけ想像力がかき立てられるのかもしれない。
「どうせ脱ぐんならよ」
「……?」
「袖、三回まくってみてくンねえか」
「……構わないが」
 隼人の腕が少しずつ現れる。竜馬をいつも抱きしめる腕が何故かよりたくましく見えた。手を動かすたびに甲に筋と血管が浮き出て、それも男らしく感じる。
「ふ、ふーん……」
 何かを確かめるように、竜馬は隼人の周りを一巡りする。
「竜馬……?」
 ミチルの言い分がほんの少しだけ、理解できた気がする。
「その」
 上目遣いで隼人を見る。
「……その」
 竜馬の喉が鳴る。
「汚れてもいいンなら……このまま、しようぜ」
 視線を外さずに、誘った。