つきあって日が浅い頃。すでに肉体関係はあります。
ひとりワンライやってみようかなと思い立ち、お題を考えるところからスタート。ギリ初稿完成間に合いませんでした。そのあと時間関係なしに書きました。
お題は「ベルト」です。隼人のベルト、スライド式なのかな、ほかのタイプかな、というところから膨らませました。隼人がシャワーを浴びている間に、隼人のベルトをつけてみる竜馬のお話。キスまで。
・竜馬はベルトをするのが嫌、という前提。
・リガーベルト(カラビナをかけてロープを装着できる)を想定しています。
約1,500文字。2023/4/15
◆◆◆
隼人が固まる。見られていると気づいた竜馬も一瞬だけ動きを止めるが、すぐに落ち着き払った様子でベルトを外しにかかった。
「……どうした」
状況が飲み込めない隼人は、とりあえず濡れ髪をタオルで撫でつける。
「ン、別に。……おめえのベルトってどんなモンかなって」
慌てるでもない。悪戯を仕掛けたわけでもなさそうだった。
しゅる、と衣擦れの音がして、竜馬のズボンからベルトが引き抜かれる。
「ここに置くぜ」
端から丸め、ベッドに置く。隼人はシャワーを浴びる前と同じようにあるベルトと、竜馬の顔を交互に見つめた。三度目に及んで、竜馬の表情が不機嫌そうに変わる。
「あンだよ、ちっと借りただけじゃねえかよ」
「いや、そうじゃない」
「あン?」
「別に怒ってはいない。ただ、物珍しかっただけだ」
「……まあな。ってか、このベルト、面白えな」
穴の位置で長さを調節するタイプではない。スライド式のバックルとも違う。金具を押し込むことでバックルが外れるタイプで、軽いうえに丈夫そうだった。隼人は近づきベルトを手に取る。
「軍用だ。ここにカラビナが掛けられるし、ここは生地が二重になっているから、ホルスターやマガジンポーチもつけられる」
「へえ。何つうか、さっすが元テロリスト」
「……欲しいなら、タイプ違いのも含めて何本かあるからやるぞ」
だが竜馬は首を横に振る。
「言っただろ、ちっとしてみただけだって。普段からなんて、窮屈でしてらンねえよ」
「空手だって同じじゃないのか」
「え」
「帯を締めるだろう?」
竜馬はぽかんとしたあとで笑い出した。
「違えよ、ベルトとは全っ然別モノ!」
無邪気な明るさが広がる。何を笑われているのか、隼人には理解できない。昔から人に笑われるのは好きではなかった。ただ、竜馬だけは特別だった。今もまた、竜馬が楽しそうで——。
「おめえ、物知りのクセにときどきヘンなこ……」
不意に声が途切れる。
「…………竜馬?」
「あ? え、ああ……」
急に笑顔を引っ込めて竜馬が目を逸らした。その仕種が腑に落ちず、隼人には怪訝な表情が浮かぶ——今の今まで、小さく笑んでいたことにも気づかずに。
「ン、何でもねえから」
竜馬の左手が、視線を追い払うようにひらひらと動いた。隼人はもう一度、手にしたベルトに視線を落とす。
「……」
「隼人の持ち物だから」触れたかった。そうであったらいい。もっとしがみつくように竜馬に求められたい。思ってから、自分の中にそんな甘ったるい願望があったのかと驚く。こんな気持ちは悟られたくない。
竜馬はベッドに腰掛け、隼人を盗み見る。
ベルトじゃなくても、リストバンドでもボールペンでもデスクチェアでもよかった。隼人を感じられるものなら何だって構わない。触れて、存在をなぞりたい。けれどもこんな執着心は知られたくない。
「……」
ふたりとも、素知らぬフリをする。日毎夜毎、大きくなっていく思いを抑えて、それがいつか溢れてしまうものだと意識の端で理解していながらも、すべてをさらけ出すにはまだ時間が足りなかった。
ふと目が合う。
竜馬の瞳が少しだけ困ったように揺れる。隼人は無言で隣に腰を下ろす。幾度か肌を重ねた今でも、互いにためらいとぎこちなさが残っていた。
ベッドに置かれた竜馬の指先が、そろりと隼人の腿に触れる。隼人の手がその指先をつかまえた。
「……っ」
強張った手を握りしめる。
「……竜馬」
隼人の瞳も揺れていた。
「…………はや、と」
竜馬は息を詰めて待つ。
やがて。
一度目は探り合うように。
二度目は確かめ合うように。
それから三度目は奪い合うように。
恋人たちは口づけを交わした。