つきあってます。
隼人の部屋でアイスを食べる竜馬のお話。竜馬の無防備な無邪気さに、隼人がムラムラしてキスします。アイスはガ〇ガリ君みたいな、棒つき氷系のものを想定しています。口移しがあるので、大丈夫な方向け。隼人寄り視点です。
約2,700文字。あとでpixivにも載せます。
◆◆◆
右腕が重くなる。断りもなしに竜馬がもたれかかってきた。まるで隼人をそこらの壁とでも思っているかのような無遠慮さだった。
弾みでキーボードを打ち間違えないように隼人の手が止まる。だがそれもわずかな時間で、すぐにまたリズミカルな打鍵音が流れ出した。
「——あっちぃな」
キーボードを打つ音を縫って、竜馬の声が聞こえた。それから、シャク、と氷菓を齧り取る音が。
再び隼人の手が止まる。静かになった部屋に、シャク、という音だけが取り残された。
「んあ?」
右腕にまとわりついた熱が動く。視界の端に、竜馬の顔が入り込んできた。
「……」
ちらりと視線をやると目が合う。
「どうかしたのか」
呑気に訊いてくる。それからまた、氷菓子が削れる音が。
「……いや」
短く返し、隼人はモニタに視線を戻した。
作業が再開される。竜馬も先程と同じように隼人に寄りかかり、肩口に頭を乗せてはおとなしく棒つきアイスを食べている。
鬼の襲撃も、早乙女博士の小言もない。何より——これが一番うるさい原因なのだが——竜馬の口が塞がっている。今は隼人をからかって遊ぶよりも、甘味を堪能するほうが大事らしい。こう密着されては多少の窮屈さを感じるが、作業を妨げられるほどでもない。遊び相手が残っているうちにもう少し進めてしまいたい。集中力を取り戻すべく、隼人が息を吸い込んだときだった。
竜馬がもぞもぞと動き出した。椅子もギィと鳴く。身体をぴたりとつけたままだから、隼人の右腕も一緒に揺れる。収まるのを待っていると、
「やっぱ、あっちぃな」
呟きと吐息が零れた。
わざわざ隣に陣取り、自らくっついてきながらこの言い種だった。
なら、離れろ——そう投げつけるつもりで顔を向ける。
「——」
けれども、隼人の口は一言目の形を作ったまま固まってしまった。
「……隼人?」
竜馬が不思議そうに見上げる。その左手はタンクトップの胸元をぐっと引っ張っていて、隼人からは布地の下が丸見えだった。
「——な」
うっすらと汗ばんだ肌に、頭の中が熱くなる。作業中のデータのことなど一瞬で吹き飛んでしまった。
隼人の動揺に気づかないのか、左手がはたはたと動く。繰り返される動作で、ようやく暑さしのぎなのだとわかった。
急いで冷静さを取り戻そうとする。だが胸元に風が送り込まれるほどに、竜馬の匂いが立ち上っては鼻先をくすぐっていく。
それは、キスを交わしたあとの熱っぽさをはらんだ香りと似ていて、隼人は思わず唾を飲んだ。ふ、と竜馬の口元がゆるむ。湧いた劣情を見破られたかと、隼人は息を詰めた。
「なーんだ」
いたずらな光を宿して、竜馬の目が細められた。瞳の奥を覗き込まれる感覚に、どくり、と心臓が跳ねる。
「そんならそうと、早えとこ言えよ」
右手が差し出される。
「……は?」
「遠慮すんなって。アイス、食いたかったンだろ」
涼しげな色合いの氷菓子をひょいと掲げてみせ、隼人の口元に持っていく。
「少し溶けてきたからよ、ちょうどいい感じにシャリシャリしてるぜ」
「……ああ」
「ほれ」
促され、淡いブルーの端に齧りつく。シャクリ、という音とともに、ソーダの甘さとキンとした冷たさが口いっぱいに広がった。
「へへ、美味いだろ」
上目遣いで得意げに竜馬が笑う。まるで小さな秘密を明かすかのような親密さと無邪気さに、隼人の心も甘くほどけていく。
「もう少し食うか」
「ああ」
竜馬がもう一度、アイスを差し出す——と、隼人の顔が氷菓を飛び越えて迫る。竜馬が「え」と声をあげると同時に、無防備な唇は隼人によって塞がれた。
「……ッ」
椅子が軋む。咄嗟に引こうとする腰を右手で押さえ、ぐっと引き寄せる。困惑に、竜馬の身体がびくりと震えた。
「ン……ん、ふ……っ」
舌を差し入れると、緊張が伝わってきた。身体に力が入っているのがわかる。その強張りを溶かすように、舌先で柔く咥内を撫でる。ふ、と堪え切れずに鼻声が漏れてきた。しかし手のひらはまだ震えを感じ取っていた。
自分から触れてくるくせに、触れられるのには慣れていない。不意に露わになる拙さが愛おしくてたまらなかった。
「あ……」
唇が離れると、ぼうっとした顔つきが現れる。その表情を眺めながら、隼人はもう一口、アイスを食べる。
「……っ」
竜馬が微かに喘ぐ。視線が唇に注がれているのを確認すると、隼人は見せつけるようにゆっくりと氷菓子に齧りついた。
シャリ、という音に合わせて、今度は竜馬の喉が動いた。
口の中で氷が崩れていく。完全に溶けてしまう前に、隼人は再び竜馬に口づけた。
「ん——んぅ」
ソーダの味よりも甘ったるく、竜馬が鳴く。舌が絡み合うと、ふたり分の熱で氷はあっという間に消えていった。
「んあ、ん……ン」
竜馬の左手がそろそろと触れてくる。隼人がもう少し深く貪ろうとしたときだった。
「……ん、アイス……溶けちま、う」
か細い声があがった。
見れば長方形の氷菓子は下の両角からゆるんできて、伝った水分が竜馬の指を濡らしていた。放っておけばそう時間もかからずに、棒から剥がれ落ちてしまいそうだった。
「なら、早く食わないとな」
「え……あっ」
隼人の舌先が竜馬の指に触れ、甘露を舐め取る。
「ひゃ……っ」
逃げようとする手首をつかまえる。
「落とすなよ」
「あ……」
視線を搦め捕る。そのまま、甘くなった指を舐めて、吸う。戸惑いと恥じらいを押しのけて、竜馬の瞳にじわりと期待が滲み出てきた。
ぽたりとまた、雫が落ちる。隼人が舐め取る。そのたびに竜馬は欲に彩られていく。肌は上気し、吐息が揺れる。手のひらに伝わる震えはすでに、緊張から快感に置き換わっているようだった。
もうすぐ、溶け落ちる。
「ほら竜馬、さっさと食わないと全部溶けるぞ」
「……あ、ああ」
竜馬がゆるみきった氷に齧りつく。すぐさま、隼人も。
唇が近づき——触れる。
「ッン……」
甘い水が口元から零れる。隼人の唇がその跡をなぞった。
「んあ、は、あ、ん……ッ」
ふたりの熱に挟まれ、かろうじてアイスの形状を保っていた氷がとうとう崩れる。
「うひゃっ」
竜馬の肌に落ちた塊は溶けながらタンクトップの胸元へ吸い込まれていった。
「冷てっ……」
ひくんと跳ねる。隼人の鼻先に、甘い匂いが届いた。
そういえば、ぐずぐずに溶けてしがみついてくる竜馬はいつも甘い香りがする。今日は一際甘いのだろう。
そんなことを思いながら、隼人は熱く火照った竜馬の肌に唇を押し当てた。