俺たちだけのキスのやりかた

新ゲ隼竜

つきあってます。
キスするときに目を閉じない隼竜のお話で、
自分が感じているよりも実はもっと相思相愛かもしれない、と竜馬が気づきます。
すけべする直前の、くっついているふたりです。
竜馬の一人称、地の文はよみやすさ優先で竜馬独特の口調は控えめ。約2,000文字。
pixivには、似たような短編がもう少しできたらまとめて or 気が向いたら載せます。

◆◆◆

 何だ、と不機嫌そうに睨まれるのはわかってて見つめる。
「何だ」
 思った通り、睨まれる。
 特等席で——隼人の膝の上で——睨まれるのはなかなか迫力がある。鋭い視線を間近で浴びるし、顔立ちが整っている野郎がムスッとしているのは凄みがある。
 といっても、俺には効かねえし——と思いながら「別に」と言ってみる。ニヤリと上がった口角にすぐに気づいて、隼人の顔がもっと不機嫌そうになる。楽しい。
「そうは見えないがな」
 背中に回った隼人の手に力が入る。引き寄せられて、顔がもっと近づく。
「——」
 息がかかって、くすぐったい。冷静なときの隼人の呼吸とは少しだけ違って、浅くて、熱い。心臓だって、いつもより速く動いている。俺とこうしてるからだってわかるから、嬉しい。
 隼人の指が、さわさわと動く。まるで背中をまさぐって、俺が口を開くためのスイッチを探しているみたいだった。
「くすぐってえ」
 避けようと背中を反らす。すると、もっと触ってくる。
「ン」
 せっつくように、それでいて焦らすように触ってきて、止まらない。放っておいたらいつまでも俺の背中を撫で回しているに違いなかった。
「……おめえ、キスんとき、目ぇ瞑らねえよなって思って」
 はじめから、答えるつもりでいた。けれども隼人が白状させたがっているから、渋々って感じで応じてやる。ようやく手が止まる。
「それは、お前もだろう?」
 隼人の目が笑って、唇もニヤリと笑う。嬉しそうにしちゃって、まあ。
 ちょっとした引っ掛けが成功したから俺も嬉しくなって、隼人の頬を両手で包み込んで、軽くキスをしてやる。
 唇が離れる。隼人は目を開けたまま。俺も、同じく。
「……だな」
 互いに目を覗き込んで、もう一回キスをする。今度はもう少し強く。押しつけると唇は形を変える。ふにふにとした感触が何だか面白くて、二回、三回と繰り返す。そのうち物足りなくなってきて、隼人の上唇を吸ってみたり、下唇の縁を舌先でなぞってみたりする。隼人は黙って俺の自由にさせておいて——。
「あ、ン」
 舌が俺の口の中に入ってくる。
「ん」
 隼人の熱い舌が、柔らかいとこを撫でる。ゾクッとした感覚に肩が震える。触れられたとこだけじゃなく、頭の中にまでその感覚が這い上がっていくし、下っ腹の奥のほうもムズムズしてくる。
 だけど隼人の舌が引いていくと、その快感も消えていってしまう。それが惜しくて舌を伸ばす。隼人は俺の顔をじっと見て何か考えて、それからもう一度キスをしてきた。
「ん……ふ、ん、ン……っ」
 隼人の舌が気持ちよくて、勝手に声が漏れてしまう。いつもこうなるのは俺ばっかで、たまには隼人のことも追い詰めたいのに、面白くない。でも今はそんなことよりも、熱の塊を逃したくなくて、両の手をくっと引き寄せた。
 舌を絡めてこすり合って、つつき合って吸い合う。
「ン——んう」
 顔が熱くなって、頭も身体も熱くなってきて、上半身はとうに裸なのに、もっと脱げるものはないかなんて思ってしまう。背中に当たっている隼人の手のひらも、熱い風呂の湯みたいな温度だった。
 ふと唇が離れて、その隙に息を吸う。隼人の目を覗き込むと、やっぱり開いたままだった。
「……ぁ」
 瞳が大きくなっている。表情はほとんど変わらないクセに、興奮しているのが丸わかりだった。
 隼人が、俺を欲しがっている。俺だけを見ている。
 嬉しくて、ゾクゾクする。俺が目を瞑りたくないのは、これが見たいからだ。
「なあ、はやと」
 自分でもどうかと思うほど甘えた声が出る。昼間は「ふざけンな」なんて言ってケンカを吹っ掛けたのに。
 隼人はさっきと同じようにじっと俺の顔を見ている。
「……隼人?」
「何でもない」
 それでも視線は動かない。じわじわと心の中に忍び込まれる感じがして、考えが読まれていくような気がして、落ち着かなくなってくる。
「何でもねえこと、ねえだろ」
 軽く睨んでみても、状況は変わらない——いや。
 隼人の口元が少しだけ笑った。俺の目が釘づけになる。

 もしかして。

 思った瞬間、火の中に飛び込んだみたいに全身が熱くなった。
 俺と同じ・・・・だ。
 気を引きたくて、繋ぎとめておきたくて、思った通りの反応をしてくれたら嬉しくて。
 それでもって、こっちを見ている目をずっと見ていたくて。
 同じだったら、俺がどれだけ隼人を欲しがっているのかもバレている。
「——竜馬」
 隼人の声が耳に入り込んでくる。
「りょうま」
「……ッ」
 その声が、身体の中をかき回す。熱は収まるどころか却って高くなっていく。まだ指一本だって挿れられていないのに、俺の全部が隼人のものになってしまったみたいだった。
 隼人の手が前に回って、腹を撫でて胸のほうに上がっていく。触られたとこが気持ちよくて、その感覚しか残らなくなっていく。早くあちこち触って欲しい。
「……ぅ、は、あ……」
「りょうま」
「……は、はや、と」
 名前を呼ばれるだけで頭の芯が痺れる。呼び返すだけで内側から感情が湧き上がってくる。
 唇が近づいてくる。隼人の目はずっと俺だけを見ている。そこに映っている俺もまっすぐに隼人を見ている。
 目を瞑るなんて、とんでもない。本当はまばたきだってしたくない。一瞬だって、見逃したくない。そう思いながらキスをする。
 隼人もきっと同じだ。

 そうだったら、本当に嬉しい。